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たかが市場、されど市場。青果市場の機能は不滅です

たかが市場、されど市場。青果市場の機能は不滅です

青果市場はもういらない? 「中間業者」という表現にはネガティブなイメージを持ちがちだ。しかし、これからも青果市場は日本の青果流通のメインストリームであり続ける。その理由を、市場や仲卸業者が持つ独自の機能を因数分解しながら、やさしく解説する。

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青果市場とは? まずは機能をおさらい

青果市場の役割とはなんでしょうか?
現代に連綿とつづく青果市場。前身となるものは江戸時代、あるいはもっと前から存在してきました。
法律によって「卸売市場」が整備されたのは、長い日本の歴史からすれば最近のことですが、法律がそのときに作られようとそうでなかろうと、青果市場そのものは今も必要とされ続けていたでしょう。

では青果市場はどうして必要なのでしょうか。
青果市場の今後を占う入り口として、まずはその仕事(機能)の面を簡単におさらいしてみましょう。
なお、本稿で「青果市場」と言うときは、市場そのものを運営する会社・団体にくわえて、そこに出入りする仲卸企業の機能をあわせて、「青果市場」と表現しています。

青果市場がどんな仕事をしているかといえば、ものすごくざっくりといえば、(1)集荷、(2)分荷、(3)価格決定、(4)決済です。

ちなみに、集荷は、物理的に集めにいくという意味ではなく、需要を読んで、供給が不足しそうであれば、産地・生産者に対して出荷を呼び掛ける機能のことを言います。

このなかで分荷はとくに大事な機能です。分荷とは、市場に集まった荷物や産物を分けて、市場に買い付けに来ている人に渡すことです。
モノを遠くに運ぶときには大きなロットで運んだ方が効率的です。そうすると、産地で一度集めて(共撰)、物流に乗せてから、消費地でバラす、つまり分荷する方が効率的です。産地の段階で分荷して発送すると、運送コストがたいへんなことになってしまいます。
また、青果を販売する担当者が消費地にいるからこそ、消費の動向をある程度正確に読むことができます。遠い産地から細かな需要に対応していくのは、いかにIT時代とはいえ困難です。

価格決定と決済については、解説の必要はないでしょう。ひとつ補足すれば、出荷する側にとって、青果市場は決済面での手間が少なく、代金が回収不能になる心配がほぼ無いということもあって、他の販路に比べるとかなり便利な存在です。

商社中抜き論を知っていますか?

次に市場経済の面から、青果市場の機能を説明しましょう。

やや難しい言葉ですが、経済的には「取引総数最小化」という機能を青果市場は持っています。言葉がかなりとっつきにくいこともあり、市場の機能としてあまり注目されませんが、じつは大事な概念で、市場の根幹をなす考え方なので、ここから説明していきたいと思います。

青果とは関係ないですが、私がおそらく高校生くらいのころ、「商社中抜き論」というのがまことしやかに議論されていた時期があります。
ITの発展を背景にして、これからは生産者と販売者の1対1の取引がメインになってくるので、単純に間を取り持つだけの商社の必要性が下がってくるという議論でした。
さて、それから20年以上経った現在、どうでしょう。商社は元気いっぱいです。流通業の雄といえばコンビニ業界ですが、その大手がこぞってその商品調達力を頼るほどです。取引が1対1になっていくという議論はどこに行ってしまったのでしょうか……?

中間マージンという表現にはネガティブなイメージが付いてしまっていますが、中間業者が単に商品を流すだけではなく独自の機能を持つ場合、結局は中間がいた方が川上、川下の双方にとってメリットがあったわけです。
これは青果という業界でも同じです。それでは、青果市場はどのような独自の機能を持つのかを次の段落から考えていきましょう。

本当に大切なものは目に見えない

なんだかJ-POPの歌詞のような見出しになりましたが、経済でも、大切なものほど目に見えません。

商取引には目に見えないコストがたくさんあります。一方で目に見えるコストというのは、家賃や人件費やガソリン代といったものですね。
目に見えないコストが大事なのですが、目に見えないから、「商社がなくなる」「市場がなくなる」などといった主張が現れるわけです。
目に見えないコストとは、たとえば以下のようなものです。

1. 探すコスト

必要な商品があったらそれを探してくるコストです。言うは易しですが、Google検索で簡単に見つかるような仕入れ先は、競争相手だって知っているわけで、そういう仕入れ先とだけ付き合っていては差別化できません。

2. 信じるコスト

仮に買いたい商品を持っている相手を見つけたとすれば、今度は契約を結ぶ必要があります。
これは「信じるコスト」といえるでしょうか。
単純に契約を結ぶという作業だけでも、遠方にいる相手とだと時間も手間もかかってしまいます。しかし、それ以上に、信用できる相手でないと、品質が想定より悪かったり、融通がぜんぜん利かなかったり、ひどい場合は支払いが遅れたりします。

3. 変更するコスト

スイッチング・コストという言葉を聞いたことがあると思います。これはものすごく大きいです。
仮にこれまでの仕入れ先であるA農協が品切れを起こしたり、品質が劣化したりした場合、買い手は他の仕入れ先を探さなくてはいけません。そうすると逐一、1~2を繰り返す必要があります。そして、1~2の作業を行っている間は商品がまったく入ってこない、ということもありえます。

これらの、1~3のコストを低くするには、信用できる人や団体にあいだに入ってもらって、商取引の相手を減らすこと(つまり取引総数の最小化)が効果的です。青果市場や商社はその機能を担っているのです。

イッツ・オートマチック!

さらに、青果という特殊商品の取引で発生する特に重要な「目に見えないコスト」がもうひとつあります。「多少の無理をきいてもらうコスト」です。

4. 多少の無理をきいてもらうコスト

青果には、時季によって供給が大きく変化するという特徴があります。とくに葉物野菜などでは、1週間も経てばまったく違う供給量になることがあります。
これは青果や水産物ならではの特徴です。
供給が日々変化する状況で、需要と供給を一致させるためには、一般的には次の仕事を誰かがしなくてはなりません。

(1)前提として、いろいろな買い手を多数確保すること
(2)供給が多すぎたときに、余ったものをさばくこと
(3)需要が多すぎたときに、価格で調整すること

(1)について補足すると、いろいろな買い手というのは、たとえば買い手が大手飲食店だけだった場合、飲食店が不況になれば需要が大きく減ってしまいます。買い手が多様で多数いる、ということが、需要と供給を一致させるために重要な最低限の前提です。
この(1)~(3)が機能しないと、供給が多い時には廃棄が出てしまいますし、需要が多いときには十分な高値で販売できない(農家が損をする)ということになってしまいます。

(1)~(3)の機能を、かなりの程度オートマチックに行っている場所はどこかといえば、そう、青果市場ですね。
このオートマチックな仕組みをECサイトを通じてやろうとする取り組みも存在しますが、青果市場に本当に取ってかわるのは、当面のIT技術では難しいでしょう。

日々、需要と供給が上がったり下がったりする状況は、出荷側に多かれ少なかれ無理が生じてくるわけですが、これを吸収できる、完璧ではないにしろかなりの程度無視できるのが市場というものです。
これが1対1、たとえば生産者と飲食店チェーンの相対取引だったら、畑で予定より早くたくさんとれたときに、飲食店側はとくに必要としていなかったら、かなり無理をきいてもらう必要がでてきます。
その点、「多少の無理をきいてもらうコスト」がないのが青果市場の美点です。

「あえて愛を伝えない」という愛

さて、青果市場のデメリットとしては、情報が流通しないという点があげられます。つまり、流通している農産物の、生産者、栽培の工夫、産地の文化などが川下(消費者)に伝わっていきません。
筆者自身、経営するベンチャー企業のモットーに「背景流通業」を掲げていて、農産物にまつわる情報(背景)を消費者に届けることはたいへん重要だと考えています。

しかし、一方で、商品にまつわる情報を正確に流通させることには大きなコストがかかります。
「情報を伝達する」ということ自体も手間ひまがかかりますが、それ以上に、情報を付随させておくと前述した「探すコスト」や「変更するコスト」が膨大になります。

たとえ話として、小学校の工作で新聞紙を使うので、古い新聞紙を持ってくるように子どもに言うとします。そのときに、読売新聞に限るとか、毎日新聞に限る、と先生に言われたら、子ども達はかなり苦労を強いられるでしょう。
しかし、新聞ならなんでもよい、ということなら苦も無く集めることができるでしょう。

このように、青果市場における商品の匿名性は、コストを大きく押し下げる効果があります。
市場の機能のひとつである分荷をするとき、情報が付随しているとかえって邪魔になってくるわけです。青果がそのまま家庭の食卓に届くならまだしも、中食で使用するならなおさらです(中食産業は伸び続けています)。
生産者の情報が付随していた方が、それが付加価値となり、食育ともなるでしょう。しかし、日本人全員がお金持ちでない以上、流通の仕事としては、より安く届けることも同じくらい、日本の食卓を豊かにするために、大事な仕事です。すべての青果に十分な情報を付随させて消費者に届けるということは、夢物語に過ぎません。

すなわち、青果市場は時代遅れだという主張は、「商社はもういらない」と同じ程度の説得力しかないのではないかと筆者は考えています。
非市場流通をやっているベンチャー企業が言うのもおかしな話ではあるのですが、青果市場は、多少の変化はあっても、今後も青果流通のメインストリームであり続けるでしょう。


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