鹿児島県葉たばこ農家の全貌
葉たばこの生産では、全国トップ10に入る鹿児島県。県本土全域と離島の種子島・沖永良部島で栽培されています。一説によると、日本で初めて葉たばこが栽培され始めたのも今回取材した地、鹿児島県だそうです。高齢化などの問題に伴い、県下の栽培面積は2019年で約404ヘクタールと減少傾向にありますが、1戸あたりの面積は約2ヘクタールとほぼ横ばいを保っています。
葉たばこの種類も各種ありますが、鹿児島県で栽培されているのは、第1・2・3黄色種。その土地に合った品種が栽培されています。中でも最も多く栽培されているのは第1黄色種とのことです。
ここで注目したいのは、販売代金(収益)です。1戸あたりの年収は、地域で差はあるものの平均1000万円超。しかも、この収益は種を播く段階から見込めることが葉たばこ生産の大きな特長と言えます。
葉たばこのシーズンが始まるのは、毎年12月。土づくりをした後、1月に種まきをして、3月には畑に定植。5月には、青々と育った葉たばこの葉っぱに栄養が行き渡るように心止(しんどめ)作業(花芽を切り落とす)を行います。ここからが収穫のシーズン。下の葉っぱから収穫作業が始まり、上の葉っぱを摘み終える7月末頃まで続きます。5月から7月までの収穫の時期は収穫後の葉の乾燥作業も同時進行のため、休む暇もないほど忙しいそうですが、8月になると作業は一段落。次の年に向けた畑の耕耘や機械の整備などの準備作業はあるものの、趣味や家族との時間もたっぷり取れるそうです。
このため多くの葉たばこ農家は農地や機械、労働力の空いた時期に他作物を栽培する複合型経営を行い、先を見通した投資をしながら安定した農業経営を行っています。
現役農家が語るリアルな葉たばこ農家事情
葉たばこ栽培が盛んな南九州市頴娃町を訪ねました。お茶で有名な同市知覧町も近く、茶畑に囲まれたのどかな農村地域です。頴娃町で祖父の代から葉たばこ栽培に従事して45年になる吉崎光男さん(63歳)を訪ねました。現在では、約4ヘクタールの畑で、妻のさとみさん、息子さん夫妻と共に栽培しています。
「葉たばこの他にはニンジンも作っています。ニンジンは4年に1回当たればいいほうですが、それではご飯は食べられません。葉たばこは最低限の価格があらかじめ決まっているので、それで生計を立てて、裏作で他の作物を作ったり、投資をするなどできるので、予定(経営計画)が立てやすいのがいいところです」と話します。
それでも自然相手の農業。いいことばかりだけではありません。病害虫や台風による被害には、細心の注意を払っているようです。「病気が出てから対応するか、出る前に対応するかがポイント。なるべく、病気が出る前に早めに対応することで被害を小さくするように心がけています」。
一昨年には、JTの助成事業を利用して環境負荷を低減できる乾燥機も導入しました。大きな投資ではありましたが、その大きなきっかけになったのが、息子の健太さん(28歳)の存在です。8年前から父のもとで葉たばこの栽培を始め、今では光男さんの右腕として成長。最近は、乾燥作業を任されるほどになりました。「始めの頃は管理作業が思った以上に大変なので、やっていけるかなと不安に思ったこともありますが、最近では一通り自分でもできるようになりました」。そんな健太さんに葉たばこ栽培のいいところを聞くと、「収穫の時期は休む日もなく大変だけど、それが終わると趣味や家族との時間も取れます。父も釣りを楽しんでいます。収入の見込みが立つので、2人の小さい子どもがいても人生設計が立てやすいところもいいところですね。忙しくても頑張ろうと思えます」。
耕作組合やJT、県などのサポートも充実
地域の安定した葉たばこ栽培を支えているのが、所得・技術・機械の導入支援などさまざまなサポート制度です。たばこ耕作組合(以下、耕作組合)では年間を通じて各種研修や技術サポートを行う一方、JTや国などによる機械導入支援も整っています。種子・出荷用包装材料は無償で配布。収穫して乾燥した葉たばこは全量JTが買い上げてくれます。
「品質の良いものを作れば、収入もよりアップします。頑張れば頑張るほど収益につながるので、頑張りがいのある農産物です」と話すのは、南九州市葉たばこ振興会会長の飯伏勝則さん(65歳)。その地区、時期に応じた作業を各総代さんを通じて連絡・情報共有したり、行政とのつなぎ役などを担当したりしているそうです。「地域全体の葉たばこの生産がうまくいくよう、耕作組合やJT、県などから指導を受けながら応援するのが振興会の役割です」。
また、健太さんのような若手後継者にとっての強い味方となっているのが、地域の若手生産農家の集まりである「若葉会」です。現在8名が加入。リーダーの田原誠さん(46歳)自身も、葉たばこ農家の娘さんと結婚し、後継者になりました。「長年、葉たばこを作っている親には直接聞けないことを相談したり、生育状況を共有したりしています。もちろん、飲みニケーションも欠かせません」と田原さん。
若葉会最年少の健太さんにとって、頼りになる兄のような存在とのこと。田原さんもたばこ耕作組合主催の研修会に参加したことで栽培について学んだだけでなく、他のエリアのたばこ農家とのつながりもできたと話します。
地域で代々受け継がれてきた葉たばこ栽培の文化や歴史、技術を継承しながら、耕作組合や県、JTなど各方面からのサポートを受け、新しい取り組みにも挑戦しているみなさん。将来に向けてのさらなる生産性向上への取り組みが期待されます。
鹿児島県たばこ耕作組合
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鹿児島県鹿児島市南栄4丁目11-2
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