大学のある農村で生まれた、アルバイト学生とのいい関係

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大学のある農村で生まれた、アルバイト学生とのいい関係

大学のある農村で生まれた、アルバイト学生とのいい関係
最終更新日:2020年08月11日

北海道の北部にある名寄(なよろ)市は、寒冷地でありながら農業がとても盛んです。その中心作物は、作付面積日本一のもち米。市内には名寄市立大学(栄養学科、看護学科、社会福祉学科、社会保育学科)があり、職業体験の一貫として、希望者に援農ボランティアの機会を設けています。農家と学生、そして大学に取材してわかった「いい関係」づくりのポイントは、「わかりやすさ」と「親しみやすさ」でした。

夫婦の新規就農に欠かせない、パート・アルバイトの力

車で旭川から80分、札幌から170分の名寄市は、道北の交通の要所。雪質や自然環境の良さからスキージャンプ競技をはじめとしたスポーツ選手のキャンプ地になることも多く、農業面ではもち米の日本一産地として知られます。他にもアスパラ、コーン、ミニトマト、小麦などの畑作が盛んで、水田と畑作を組み合わせた営農形態が主流です。そんな地に平澤宏幸(ひらさわ・ひろゆき)さんの営む「ひらさわ農園」はあります。

【ひらさわ農園プロフィール】
就農:2017年
農地:4.7ヘクタール(内訳:スイートコーン2ヘクタール、アスパラガス0.2ヘクタール、カノコソウ0.14ヘクタール、もち米2.4ヘクタール)
専従者:2人(平澤宏幸さん夫妻)、パート・アルバイト:大学生含む約15人でシフト調整
年商:約1000万円

平澤宏幸さんは1988年生まれ。道東の厚岸(あっけし)町出身で、宮城県の大学に進学し4年生の時に中退、その後実家の仕事の手伝いをしながら農家を目指しました。平澤さんの実家は自営業で、祖父は漁業者。祖父の働く姿や暮らしを肌で感じていた平澤さんは、年を取ったらいつか農家になろうと思っていたそうです。大学時代、ボランティア活動で出会った農家の人にその夢を話したところ、「農業をするなら、体力的にも経験的にも早いほうがいい」と言われ、故郷の北海道で就農する道を考えはじめました。

実家の事業を手伝いながら農家になる方法を探していた平澤さんが、名寄市の地域おこし協力隊募集をインターネットで見つけたのは2013年。研修を受けた土地で就農でき、移住の際は住宅補助もあるという好条件だったことから、2013年10月から3年間、地域おこし協力隊(農業支援員)として活動し、農業研修を受けます。そして、近隣町村の地域おこし協力隊が集まる交流会で、剣淵町で別分野の協力隊として働く匠子(しょうこ)さんと出会い、2016年に結婚。匠子さんも1年間の農業研修を受け、2017年に夫婦で就農しました。現在の平澤さんの農地は、師匠である研修先農家の隣の転作畑と、車で5分ほど離れたもち米の水田を含む4.7ヘクタール。畑の主な作物は、平澤さんが研修中から取り組んだスイートコーンです。名寄のスイートコーンは産地ブランドが全国的に知られ、価格が安定しているのが魅力。また、「今のスイートコーン畑はトラクターが使えるので、日頃は夫婦で作業がやりくりできて、大事な収入の柱になっています」と平澤さんは言います。

しかし、どうしても仕事が集中する時期もあります。例えば、アスパラガスやスイートコーンの収穫期は1~2カ月間の短期決戦。その間は毎日のように収穫出荷作業があるため、パート・アルバイトの働き手が欠かせません。まして、新規就農したばかりで正社員などが雇えず、親や親戚も近くにいないとなると、なおさらです。

名寄市日進地区の畑でカノコソウの花摘みをする平澤さん夫妻。「雨の日が体を休める日。これからは、きちんと定期的な休みを取れる体制を整えるのが目標」(宏幸さん)。「体力は要るけれど、畑や自然の中で目標のある暮らしができます」(匠子さん)


薬草、カノコソウ(カノコグサ)は大手製薬会社との契約栽培。この一角は撮影用に残しておいたもの。根を太らせて収穫するためには、こまめな花摘みが肝心だ

名寄市立大学学生援農ボランティアとは

現在、平澤さんは週末を中心に、近隣在住の農業パートと、市内にある名寄市立大学の学生アルバイトの両方を活用しています。地元とはいえ、普段は大学生との接点はなかなかありません。そこで平澤さんは直接募集に加えてもう一つ、地元大学ならではの仕組みを上手に活用していました。「名寄市立大学学生援農ボランティア」です。

「学生の職業体験の一貫で、希望者と農家をマッチングしてくれる仕組みなんです。ボランティアですが農業アルバイトと同程度の支払いをし、送迎も各農家がするんですよ」(平澤さん)。現在、1~3年生の13人ほどがシフト制で参加しています。ボランティアで来てくれた学生が翌年もアルバイトで来ることも多く、友達も誘いたいという話も少なくありません。「通年で見ると自分たちの手だけでは足りない部分を学生に働いてもらっているのと、一人当たりの報酬がある程度の額になるようにしていることから、今は新規の学生アルバイトは受け付けていません。でも、人を紹介したいとか、また来たいと言ってくれるのはうれしいです!」と平澤さんは言います。

ボランティアもアルバイトも、学生の送迎は平澤さん自身がする。車中のおしゃべりもコミュニケーションのひとつ

学生アルバイトが順番待ちするひらさわ農園。その秘密は?

まるで部活の先生⁉ 説明力が決め手

人手不足の時代に、これほど学生が集まるひらさわ農園には、アルバイトやボランティアとの接し方にいくつかヒントがありました。一番印象的だったのは、丁寧な説明です。平澤さんは新規の学生には大学に出向いて面談をします。「草取りのような単純作業が好きか苦手か、とにかく稼ぎたい、体験重視など、タイプをつかんで、どんな作業の日に声がけしようか考えます」。アルバイト要項はPDFファイルにしてLINEで共有。予想外の仕事をさせられたと感じることのないように、今日は収穫、今日は草取りと選別、などと作業内容をはっきり伝えます。「しっかり働いてもらうけれど、周知事項は細かく。それがトラブルや誤解の種をなくします」(平澤さん)

また来たくなる! 質問しやすい雰囲気づくり

現地ではこまめな声がけを大切にしています。「僕が一緒に作業する時は僕から、そうでない時もうちの奥さんや大人のパートさんたちがみんなで声がけしています」と平澤さん。地元の大人にとっては当たり前のささいなことが、多くが親元を離れて暮らす学生にとっては初体験。そんな時、質問しやすい雰囲気づくりが大切だそうです。「どうしてこの作業をするの?」と聞かれる場合もあります。また、初めて収穫作業に来た学生には、平澤さんからアスパラやコーンを実家に一箱プレゼントしています。「学生が自分で収穫した野菜を直送したら、きっとご家族も喜ばれるかなと」。学生にとって緊張もするし体力も使う農家の仕事ですが、また来たいという声が多いのもうなずけます。

大人も学生も一緒に働くハウス内の薬草の選別作業。「わからない時は誰にでも質問できるから安心」と学生たち

農業ボランティア&アルバイトの魅力とは? 学生たちの声

「甘やかすのでなく、わかりやすく接することを心がけています」という平澤さん。実際に働いている大学生2人にも話を聞きました。1人目は栄養学科3年の大橋奈津希(おおはし・なつき)さんです。
「1年生の夏、初めて平澤さんのスイートコーン収穫のお仕事をし、その後はアスパラの除草や収穫をしました。スイートコーンの選別作業の時は、大人のパートの方と一緒に働きました。出身は北海道清里町で農村地帯ですが、家が農家ではないので仕事に関わったことはありません。でも働いている大人の方々が優しく接してくださったので、不安な気持ちが安心に変わり、ありがたいな、農家バイトを始めてよかったなと感じました。ハウスアスパラの除草は平澤さん夫妻と学生2人で4列になってするのですが、平澤さんが大変そうな列に入って助けてくれたりして、笑いあいながらもしっかり作業できます。他に飲食店でもアルバイト経験はあるのですが、時給的にも、それからまとまった時間働ける点でも、他業種より好条件のアルバイトだと思います」

もう1人は看護学科2年の庭山紗季(にわやま・さき)さんです。
「去年の夏、スイートコーン収穫に応募してひらさわ農園に振り分けられました。初対面の時、説明が丁寧でびっくりしました。スイートコーンの季節は夏休みなので、前もって希望を取ってシフトを組んでくださいます。朝の5~10時と7~12時の2部シフトで、学生はのべ7~8人くらい。お仕事は大変ですが、少しでも楽になるように動きを考えてくださるので、とても働きやすいです。私は札幌出身なので、名寄らしい体験をしたいと応募しました。一緒に働く大人の方々も学生に好意的で、わからないことがあれば聞ける雰囲気です。この作業はこんな事のためにするんだよ、などと教えてくださるので、スーパーで見る野菜がこうしてつくられているんだと、少しずつわかってきてうれしいです」

大変な点も聞いてみると、これは2人とも「とにかく朝が早いから、目覚ましは2つ以上ですね!(笑)」とのこと。また、「報酬を日払いで頂けるのも魅力です!」という点も共通していました。

薬草やコーンは手での除草が欠かせない。学生はあらかじめ作業内容を伝えられて、LINEで応募。土日の戦力になっている

農家と学生、マッチングのコツは

作業内容の理解が仕事の満足度につながる

学生たちが農家と出会うきっかけである「名寄市立大学学生援農ボランティア」の発案者、名寄市立大学准教授で農業経済学を専門としている今野聖士(こんの・まさし)さんは、「コミュニケーションを丁寧にしてくださる農家さんは、学生にとって安心感があるようです」と言います。先生が学生に実施した調査によれば、作業内容を理解することは、仕事の満足度につながるだけでなく、農業アルバイトを選ぶ理由にも関わるそうです。

今野聖士さん

常識が食い違う!? 意外な「参入障壁」

ここで一度、2017年の試行から始まった学生と農家のマッチングの仕組みについて紹介しましょう。今野さんは農協と市が農家の労働力支援の仕組みを模索していた際、農業労働力問題を扱っている立場からアドバイスを行い、この事業が生まれたそうです。「アルバイトと違うのは、職業観や農業への理解を深める目的がある点です。農家の方々には、学生の知識が増えるように初歩的なことであっても質問に答えていただくなどのお願いをし、学生には事後アンケートを実施しています」

実際のマッチングは、まず学生側は大学の「コミュニティケア教育研究センター」、農家側は農協が窓口となり、お互いの条件に沿ってマッチングし、学生との顔合わせ会を行います。そこでわかった意外な障壁は、農家さんと学生の“当たり前”が違う事。「例えば『汚れてもいい靴と服を用意して』と言っても、どんな素材がいいのか見当がつかなかったりします」と今野さんは話します。また「長靴やアウターを買うとお金がかかる」というのも障壁の一つで、「市役所と農協から用品支援を受けて、貸し出ししています」とのこと。このように、学生が感じる障壁や不安をできるだけ取り除くことで、より満足度の高いマッチングを実現させているようです。

地域の若手農家として、目指すは就農者増!

農家の高齢化は、平澤さんの地区でも例外ではありません。地域のための役目なども、大家族で働いた時代のやり方が当てはまらなくなってきています。「田んぼの水路の草刈りの日は、農家さん1人あたり一定面積以上を受け持つのですが、家族が減り人手が足りない家もあります。そういう場合は、前の日も草刈りをして間に合わせるんです」。平澤さんは農家が減って起きる矛盾をひしひしと感じています。これから引退する人に後継者がいない場合は、地区の若手が農地を引き受けていくことになります。その時に、農業パートやアルバイトの人材が来たいと感じる農家でいられるように。平澤さんはそれを頭に置いています。農業初心者のボランティアやアルバイトと接することで、自分たちの仕事の平準化、つまり誰が来ても一定の仕事ができるような作業工程づくりのきっかけにもなったと言います。

農家の働き手や理解者が生まれ、学生は農業体験と報酬を手に入れる、いわばwin-winに見える関係ですが、平澤さんにあえて難しい点を聞いてみました。「一番大変なのは、シフト調整です。学生との共通の連絡はグループLINEでしますが、バイトリーダーを作ったりせず、必要に応じて自分から個別に連絡しています。直接やりとりすることで、もっとこうしようかなという気づきもあります」
ここまで頑張れるのは、経営上の目標があるから。そして、一軒の成功は地域の将来にも関わっています。「これから、僕らのように新しく入ってくる若手が何軒いてくれるか。それを思うと、少しでも経営を上手にやって、いい例になりたいと思うんです」。2019年にビニールハウス2棟を増やした平澤さん。将来的にはより広い農地を持てるように人を雇って、夫婦で休暇がとれる農業を目指しています。学生たちとの関係づくりも、そんな未来への一歩かもしれません。

「今より大きい農地面積を耕作するには、平日もパート・アルバイトさんに力を借りることになるでしょう。今後はアルバイトのマッチングアプリなども試してみたい」と平澤さん

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