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牧草牛のお肉や牛乳に含まれる栄養素! 味や匂いについても解説!

牧草牛のお肉や牛乳に含まれる栄養素! 味や匂いについても解説!

草を主体に食べて育った「牧草牛」の肉や乳は、私たちの体にとってうれしい栄養素をたくさん含んでいます。また、その土地にある資源を有効活用することから、持続可能な一次産業の形として近年注目が高まっています。今回は牧草牛の肉や乳の特徴に加え、オススメの調理法まで一挙にご紹介します!

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牧草牛とは

厳格な定義はありませんが、一般的に草を中心に与えて育てた牛の肉や乳は「グラスフェッドミート(ビーフ)/グラスフェッドミルク」、穀物を与えて育てた牛の肉や乳は「グレインフェッドミート(ビーフ)/グレインフェッドミルク」と呼ばれています。「牧草牛」という名称は、機能性医学を提唱する医師、斎藤糧三(さいとう・りょうぞう)さんによってグラスフェッドビーフ普及のために名付けられました。

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私たち人間の体が「食べ物からできている」と言われるように、牛たちも食べ物の影響を受けて育ち、肉や乳にもその影響が表れます。牛は本来、人間がうまく栄養にできない草を食べて成長する生き物。牧草や野シバといった粗飼料を、胃の中に住んでいる微生物の力を借りて効率よく栄養に変えていく体のシステムを備えています。一方で現在の日本の酪農・畜産経営では、土地条件や気候風土、経済効率、消費者の嗜好(しこう)性といったさまざまな観点から、草以外にも栄養素を多く含む穀物飼料(濃厚飼料・配合飼料とも呼ばれる)を与えて飼養する経営が主流です。日本国内だけで穀物飼料を必要量確保するのは難しく、その多くは海外からの輸入に頼っています。土地条件や気候を生かした草を育て、ふん尿を草地に還元する循環型酪農・畜産の証でもある牧草牛は、自給率や持続可能な一次産業の視点からも注目が高まっています。

※ グラスフェッドは“100%放牧で育てる”というイメージと結びつくかもしれません。しかし、そもそも肉牛と乳牛では餌の与え方や育て方が異なり、また土地条件や気候風土によっても飼養条件が異なるため、日本におけるグラスフェッドは完全放牧・完全牧草給与とイコールではありません。今回ご紹介する牧草牛は、生涯で草を食べる割合が多い「粗飼料多給型飼養」の肉牛や乳牛から産出される肉や乳を前提としています。

牧草牛に含まれる栄養素

健康維持や体の機能を高めるサプリメントなどが手軽に手に入る時代になりましたが、できれば日々の食事から体づくりをしたいところ。グラスフェッドの肉や乳には、私たちの体にもうれしい栄養素が詰まっています。

牧草牛肉の栄養素

・ビタミンA(レチノールとβ-カロテン)を多く含む
・n-3系不飽和脂肪酸(オメガ3)を多く含む

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脂溶性ビタミンのビタミンAは、皮膚の乾燥・肥厚・角質化を防いだり、免疫能を保つために必要な物質。また、筋活動、血液凝固、消化、生殖能力、細胞の分裂や成長など多くの身体機能にとって重要な役割を果たすオメガ3の割合が高く、食品栄養学的にバランスが取れた脂肪酸組成であると言われています。

牧草牛乳の栄養素

・n-3系不飽和脂肪酸(オメガ3)を多く含む

酪農の場合、気候風土や環境によって飼養形態や餌の種類などに地域性が生まれるため、純粋に牧草だけを食べさせた牛の乳と、穀物も食べている牛の乳を比較した研究はあまり進んでいないようです。しかし、舎飼い時期と放牧時期の生乳を比較した研究によると、リノレン酸を多く含む牧草を多く摂取した場合にはオメガ3の割合が高い脂肪組成になることが明らかにされています。

牧草牛の肉質や味の特徴

お肉好きの仲間たちが集まり、肉牛生産・卸売・小売・飲食店まで一貫した経営を手がけるGOOD GOOD MEAT(グッドグッドミート)。熊本県阿蘇郡産山(うぶやま)村の自社牧場では、牧草主体で褐色和種(通称あか牛)を飼養しています。GOOD GOOD MEATの代表であり、世界中のお肉を食べ歩いてきた“Super meat lover”の野々宮さんに、牧草牛の肉質や味、魅力をたっぷりと教えてもらいました!

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「牛肉」と一言で言っても、和牛(黒毛、赤毛、日本短角、無角)、乳用種(ホルスタイン)、和牛と乳用種を掛け合わせた交雑種、海外種など、さまざまな種類の肉があります。肉質などはそれぞれ少しずつ違いがありますが、基本的に黒毛もホルスタインも穀物を多く食べればサシ(脂肪)が入り、それが牛肉における価値とされてきました。一方で、草を主体に与えた牛の肉は栄養的にも優れていることが明らかになってきたことから、従来の市場価値とは異なる魅力があります。

肉質
・しっかりとした弾力があり、噛みごたえがある
・脂身の色が黄みがかっている(草に含まれるβ-カロテンの影響)。
 ※ 肉の赤みの濃さは、放牧で運動をしたことでヘモグロビンが増えることに由来
・n-3系不飽和脂肪酸(オメガ3)が増えるため、食べた次の日に胃がもたれにくい


・カロテノイドを多く含む食べ物に感じられるような独特な風味(青っぽさなど)
・脂のしつこさが少なく、サラッとした口あたり
・カツオだしなどに代表されるイノシン酸が増えるため、うまみが感じられる

匂い
・口に入れた時に、カロテノイドの香りがふわっと鼻に抜ける
・精肉そのものの香りはグレインフェッドとの違いがほとんど感じられない

牧草主体のグラスフェッドに対して穀物主体のグレインフェッドの牛肉は、サシが入って柔らかさがあるものの、人によっては脂っぽさを強く感じることも。脂肪酸組成はn-6(オメガ6)やn-9(オメガ9)の割合が高まるため、独特の重みなども感じられるかもしれません。また、脂身が白いのも大きな違いです。

牧草牛のおいしい食べ方

GOOD GOOD MEATが運営するレストランでは肉の特徴をしっかりと感じられ、日本人の味覚にもぴったりの調理方法で牧草牛を提供しています。その中から、基本のおいしい食べ方を教えてもらいました。

ステーキ
牧草牛の特徴をしっかり味わいたいなら、ヒレ(肋骨の内側)がおすすめ。月齢が若め(23~27カ月齢)の牛のヒレ肉を、レアよりもさらに軽い焼き加減の「ブルー」で食べるのがベスト! 刺身のような新鮮さが楽しめ、刺身文化に慣れている日本人には舌なじみが良いそう。

ハンバーグ
ランプやイチボ(腰やお尻にかけての筋肉)、ウデ(肩の一部)などを使って作るのがおすすめ。牧草牛の肉は脂肪分より赤身(鉄分)が多いので、その赤身をしっかり感じられる部位をチョイスします。脂身も加えますが、牧草牛の脂身はサラサラとしているので、あっさりとしながらもうまみが詰まったハンバーグに。

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牧草牛の生乳から作られる牛乳&バターの特徴

岩手県宮古市のしあわせ乳業株式会社では、ジャージー種とホルスタイン種を365日24時間完全放牧で飼養。夏から秋は放牧地の野シバやクローバー、落ち葉や木の皮を、冬は牧草サイレージや乾草などを食べて過ごす牛から搾った生乳を乳製品に加工しています。オーナーの前田さんに、放牧牛の乳から作る乳製品の特徴を聞きました。

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牧草牛乳
牧草で育てるグラスフェッドと穀物で育てるグレインフェッドの牛の乳に表れる違いは、のどごし。グレインフェッドの牛乳は口の中や喉に膜が張るような感覚があると思いますが、グラスフェッドはコクがしっかりと感じられつつ、サラッとしていてまとわりつきにくいのが特徴です。青草を多く食べる夏の牛乳はより軽やかで、みずみずしさが。また、草由来のβ-カロテンが増加して脂肪が黄色みを帯びやすく、牧草由来の香り成分が乳中に移行するとも言われています。

牧草牛バター
コクがあるのに後味はあっさりしていて、くどくないのがポイント。不飽和脂肪酸の特徴でもある油分の軽やかさが表れます。特にしあわせ乳業のバターは、攪拌(かくはん)の段階で出るバターミルクを残しながら加工するので水分量が多く、乳のほのかな甘みがより感じられるそう。

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牧草牛の牛乳・バターのおいしい食べ方

「そのまま飲むのが一番!!」ではありますが、ちょっとしたアレンジで料理の幅を広げてくれるのも牛乳や乳製品を扱う醍醐味。牧草牛の牛乳やバターをふんだんに使ったお料理を教えてもらいました。

パンケーキ
一般的なパンケーキを作る場合にも生地に牛乳を加えますが、さらに牧草牛乳で作ったリコッタチーズを加えることでコクや風味が増します。リコッタチーズは牛乳にレモンか酢を加え、低温で加熱して凝固させた後、水分を切ればOK。自宅でも簡単に作れるのでチャレンジを。最後に、焼き上がったパンケーキに牧草牛のバターを落とせば完成!

クラムチャウダー
しあわせ乳業のある岩手県は、三陸海岸の魚介も特産物。ということで前田さんがおすすめするのは、牛乳をたっぷり使ったクラムチャウダー。牛乳と魚介は親和性がよく、うまみの相乗効果が期待できます。クラムチャウダーにはバターも使いますから、いつものレシピを牧草牛の牛乳とバターに置き換えて試してみてください。

 
牛の体に備わっている機能を生かして生産された牧草牛の肉や乳は、私たちの体にうれしい栄養が詰まっているだけでなく、持続可能でサステイナブルな一次産業の視点からも注目の食材。ぜひ食べ比べ・飲み比べて、違いを楽しんでみてください!

取材協力・写真提供

GOOD GOOD MEAT

しあわせ乳業株式会社

参考文献・資料
肉牛大辞典(2013)農文協 編
酪農大辞典(2011)農文協 編
the WAGYU BOOK(2018)小池克雄臣 著
食肉の基本(2013)西村敏英 監修
日本食品化学工学会誌53巻(2006)6号
厚生労働省 e-ヘルスネット/eJIM
公益財団法人 日本食肉消費総合センター
SAITO FARM

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