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自然と牛と人が共存し続けるために。放牧は誰も無理しない幸せの循環型酪農

自然と牛と人が共存し続けるために。放牧は誰も無理しない幸せの循環型酪農

放牧は、人が牛を全てコントロールするのではなく、牛ができることは牛にまかせるという考え方を大切にしています。その結果、安定的な低コスト経営が可能になるだけでなく、飼料自給率の向上、国土の有効利用と環境保全、アニマルウェルフェア(動物福祉)の向上といった点に期待がされています。今回は北海道八雲町を訪れ、放牧酪農の実践だけでなく、敷地内のチーズ工房で放牧牛のミルクを使った自家製チーズを販売している「小栗牧場」で、放牧の魅力や暮らしについて話をお聞きしました。

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放牧がもたらす、経済的、時間的、そして精神的な余裕

「放牧」と聞くと頭に浮かぶのは、風が揺らす緑の草原、白い雲が浮かぶ青い空、そこでのんびり草を食む牛たち…。どこか牧歌的でのどかで幸せな雰囲気を想像する人が多いと思います。では日本で飼育される乳牛のどのくらいが放牧で暮らしているのかご存知でしょうか?農林水産省生産局畜産部飼料課が令和2年4月に発表した資料によると、平成30年の放牧頭数は、乳用牛(酪農)では全国で約30万頭と総飼養頭数の23%ほど。残り77%は「舎飼い(しゃがい)」と呼ばれ、牛舎の中で飼養管理されています。

どちらの飼育方法にもそれぞれメリットはありますが、ギガファームやメガファームなどの大規模農場のように搾乳量を重視し、規模の経済を追い求める舎飼いに比べ、放牧は国産(飼料自給)率が高く、地産地消、環境問題、オーガニック志向、アニマルウェルフェア(家畜福祉)などの観点から、関心が高まっています。実際舎飼いで生産される牛1頭から搾る1年の生乳量は約1万㎘ほど。一方放牧の場合は6000~7500kℓ。「牛1頭からたくさん乳を搾ればその分だけ売上が増えるし、経営的観点ではその方がいいのでは?」と考える人もいるでしょう。八雲町で酪農を営む小栗隆さんもかつてはそう考える一人でした。しかし実際は放牧酪農に切り替えてから、経済的にも、時間的にも、精神的にも余裕が生まれたといいます。それはどのような理由からなのでしょうか?

小栗牧場の草地にはバリボリッと牛たちが草を食べる音が広がる

規模拡大へ邁進した時代と、
放牧に目を向けさせてくれた家族の言葉

太平洋と日本海の両方に接する日本で唯一の町、北海道八雲町。北前船がもたらした伝統を継ぐ旧熊石町と尾張藩徳川家により開拓された旧八雲町が2005年に合併して生まれた町です。ここで酪農を営む小栗隆さんは3代目。明治39年(1906年)に隆さんの祖父が岐阜県可児市からこの地に入植しました。小栗牧場は無化学肥料で育てた牧草と、少量のNON-GM&PHCF(遺伝子組み換えでなく、収穫後に農薬を散布しないこと)の配合飼料で牛を飼育しています。10年前、隆さんが60歳の時に息子さんに経営移譲し、現在は息子さん夫婦の仕事を手伝いながら放牧酪農の魅力を伝える日々です。小栗牧場に到着すると目に入るのが「チーズ工房 小栗」の看板。何とここでは奥様の美笑子さんが、牧場で暮らす牛の生乳から自家製チーズを作り、販売しているのです。

「放牧牛から搾ったミルクで作ったチーズは色も違うのよ」美笑子さんが教えてくれました

「父親から経営を受け継いだ頃は、規模を拡大して面積や牛舎を増やし、搾乳量拡大を目指していました。そのために大きな借金もし、総収入の2倍近い借入金がありました。借金を返すためには牛に頑張ってもらい、1滴でも多くミルクを出してもらうしかありませんでした」と話す小栗さん。もちろん飼育方式は舎飼いです。設備投資をして最新の自動給餌機械も導入。餌の配合、糞尿の片づけ、搾乳と毎日長時間の重労働。牛舎から解放されない日々でした。

そんな小栗さんは、あることに気付きます。たしかに搾乳量は増えたけど、そのツケのように病気になる牛が多いのです。ある日牛舎に行くと、昨日まで乳を出していた牛が倒れて死んでいる。そんなこともありました。なかなか減らない借金、たまる疲れ、牛舎から解放されない日々。小栗さんは自分のやり方に自信がなくなってきます。そんな時、奥様の美笑子さんからの一言が、小栗さんの頭をがーんと打ちます。それは「これが本当の酪農なの?」という一言。美笑子さんにとって、もともと酪農は門外漢。でも酪農雑誌などでいろいろと情報を集めるうちに疑問が生じ、それを旦那さんに正面からぶつけてみたのです。また同じ時期、学校から帰った息子さんから言われた言葉があります。通学路の途中に放牧酪農をやっている農家がありました。そこでは牛が悠々と歩きのんびりと草を食んでいる。でも自分の家の牛は牛舎にいて、牧草地にはいない。「どうしてうちは放牧しないの?」という素朴な質問でした。

こうして小栗さんの気持ちは新しい挑戦へと向かいます。そんな小栗さんを新しい出会いへと導いた一冊の本がありました。それが『牛のいる北の大地』。道東・浜中町の酪農交流会の記録をまとめた本で、放牧酪農への様々な示唆に満ちていました。それから小栗さんは忙しい中でなんとか時間を作っては、浜中、足寄、十勝清水、中標津など放牧酪農の先人たちの元へと視察に。そこで気付いたのが酪農家の奥様の笑顔。「酪農をやっている親父っていうのはだいたいいいことを言うんだ。でも、その奥さんをみれば本当のことが分かる。訪れた先では奥さんが本当にいい笑顔だった」。こうして小栗さんは放牧酪農への転換を決意したのでした。

小栗さんのアクションにつながった『牛のいる北の大地』(現在は絶版)

大切なのは売上ではなく、経費を引いて残るお金。
そして牛の健康や環境

放牧酪農をしてみて良かったことを聞いてみると、「放牧というのは、牛がやれることは牛にやってもらうということ。牛が放牧地へと出ていくことで、給餌や糞尿の片付けの作業がなくなる。病気になる牛も少なくなって、獣医さんとのやりとりもずっと少なくなった。経済的にも、時間的にも、精神的にも、ずっと楽になりました」とのこと。放牧のおかげで家族2世帯が暮らす大きな家を建てることができたと、嬉しそうに話す小栗さん。それではなぜ舎飼いに比べて搾乳量が少ない放牧が、経済的な余裕をもたらしてくれたのでしょうか?「乳をたくさん出してもらって、たくさん売った方が儲かるのでは?」と考えがちですが、実は違うのです。

酪農だけでなく経営というのは「売上-経費=利益」という構図になっています。利益の部分が酪農家さんの所得になります。つまり飼育頭数を増やしたり設備投資をしたりと、どれだけ事業規模を拡大し売上を大きくしても、その分の経費が増えてしまえば利益は少なくなります。反対に売上を伸ばさなくても経費を減らせば、利益は大きくなるのです。小栗牧場では放牧により牛が自ら牧草を食べるため購入飼料が半減し、牛の病気も少なくなって診療費が減るなど様々なコストが大幅に減ったのです。放牧経営を始めてからの10年間の経営分析データをまとめた小栗さんの発表は、平成19年度の(社)北海道草地協会主催「草づくりコンクール」で1等賞をとり、その後に全国大会である(社)日本草地畜産種子協会主催の「第11回全国草地畜産コンクール」で農林水産大臣賞(放牧の部)、さらに日本農林漁業振興会主催の「第46回農林水産祭」では天皇杯(畜産部門)を受賞するという快挙を成し遂げました。

夕方になると牛たちは公道を横断して牛舎へ戻ります

先頭となる牛に続いて、まっすぐ一列行進

「認証制度」は消費者にとって安心基準。
放牧酪農家の交流のきっかけに

そんな小栗さんが日本草地畜産種子協会と取り組んできたのが、「放牧畜産基準認証制度」。現在全国で91牧場が放牧畜産実践牧場として認証を受けています。小栗牧場も当然認証農場です。制度を簡単に説明すると、土-草―家畜という資源循環型畜産である放牧によって生産される畜産物をより拡大し、放牧畜産を普及推進することを目的にしています。牧場が認証を受けるにはいくつかの要件を満たす必要がありますが、特に大切なのが1頭当たりの放牧地面積と、糞尿の処理。糞尿が環境汚染につながらないよう貯留施設が必要になります。その他には国産飼料の多給、家畜糞尿の利用状況、草地の施肥管理、農薬散布等の記録が必要になります。消費者側からみると、環境に配慮ししっかりとした基準を満たした放牧酪農の牧場だということが分かります。

小栗さんにとってこの認証制度は、放牧酪農家の「仲間作り」に役立つとのこと。お互い同じ基準を大切にしていると分かれば認証農場同士が交流するきっかけが生まれやすくなります。またこれから放牧酪農を始めたい人とっても、何をすべきか分かりやすく、認証農場が明確になっていればそこを訪れて教えを乞うこともできるのです。

貴重な放牧ミルクの美味しさを伝える自家製チーズ

お話をお伺いした小栗さん夫妻

小栗さんの隣には奥様の美笑子さん。「奥さんを見れば本当のところがわかる」といった小栗さんの言葉通り、美笑子さんの顔には素敵な微笑みが浮かんでいました。2005年に自宅の1階でチーズ工房をオープン。決して分かりやすい場所にあるとは言えない小栗さんの家に、取材中も「チーズはありますか?」とお客さんが訪れていました。草主体の貴重な放牧ミルク。その味は配合飼料で育った牛のチーズと明らかに違います。その美味しさを通じて、どのような環境でどのように牛が暮らしているのかを知って欲しい。自分にはその発信の役割があると話す美笑子さん。また放牧酪農に切り替えてよかったことを奥様に聞いてみると、「時間に余裕ができ、いろいろな人との出会いが増えて、人生が豊かになった」と話してくれました。

自宅併設の工房で熟成中のチーズ

量を担保し安定的にミルクを社会に供給する。そのような役割を担うギガファームやメガファームとは別の酪農経営の選択肢として、放牧酪農をもっと知ってもらいたいと小栗さんは言います。人も牛も幸せな暮らし。人の力で環境をコントロールしようとするのではなく、自然がもつ本来の力を活かす放牧酪農。「土-草-牛」の循環を生かした低コストで持続可能な放牧酪農に、いま関心が集まっています。

問い合わせ先
一般社団法人 日本草地畜産種子協会
東京都千代田区神田紺屋町8 NCO神田紺屋町ビル4階
TEL 03-3251-6501
ホームページはこちら

取材協力:小栗牧場(北海道八雲町)

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