天敵とその利用法
虫たちの世界も、“食う・食われる”の食物連鎖で成り立っています。すべての虫に天敵が存在しています。
畑やその周辺にいる昆虫のなかには、野菜についた害虫を捕食する天敵や、害虫に寄生する天敵がいます。
本記事で紹介するゴミムシ類のなかにも、野菜についた害虫を捕食することによって益虫になる種がいます。
天敵の利用法
天敵昆虫で害虫対策をする場合、昆虫そのものを主剤とした「生物農薬」として市販されている天敵昆虫を、ハウス栽培で利用する方法が一般的です。
もともと畑にいる土着天敵を利用する方法もありますが、利用する場面は限られています。
ゴミムシ類の特徴
形態
コウチュウ目オサムシ科に属するゴミムシ類は、日本産の種だけでも1000種以上あります。ゴミムシ類の体長は種によって異なり、4ミリ程度から20ミリ程度のものまでいます。例外もありますが、ゴミムシ類の体の色は黒っぽい種が多いです。
生態
温帯に生息するゴミムシ類の繁殖時期を2種類に分類すると、春繁殖型と秋繁殖型に分けられます。春繁殖型は春から夏にかけて繁殖し、越冬は成虫だけ行います。秋繁殖型は秋に繁殖して、幼虫で越冬し、翌年の春から夏に羽化します。一部では繁殖後も成虫が生き延び、越冬して再び繁殖することがあります。
食性
肉食性、種子食性など、種によって異なり、「肉食性の傾向が強いけれど、たまに他のものも食べる」「種子食性の傾向が強いけれど、たまには他のものも食べる」といった種もいます。なかにはチョウ目の幼虫を好む種もいれば、カエルにぶら下がった状態で食べる種もいて、食性は多様です。
ちなみにゴミムシという名前の由来は諸説ありますが、人間が捨てるゴミを食べるからというわけではありません。
益虫となる場合が多いゴミムシ類の種類
益虫となる場合が多い種の例
畑で多く生息するゴミムシ類の種は、大部分が害虫でも益虫でもない「ただの虫」ですが、害虫に対して捕食性の傾向が強い一部の種が、私たちにとって益虫になることもあります。
オオアトボシアオゴミムシ、セアカヒラタゴミムシ、キボシアオゴミムシ、キンナガゴミムシなどのゴミムシ類は、食性が主に肉食性で、ヨトウムシやコナガをよく捕食するので益虫になることが多いです。
害虫となる場合がある種の例
畑でよく見られるゴミムシ類の種で、害虫になる可能性があるという報告があるのはマルガタゴミムシ類の一部です。
マルガタゴミムシ、ニセマルガタゴミムシなどは食植性(植物を食べる性質)の傾向もあり、ダイコンやイチゴなどを食害することがあります。体長は7.5~10ミリ程度と、畑でよく見られるオオアトボシアオゴミムシ、セアカヒラタゴミムシより小さいのが特徴の一つです。
どんな害虫を捕食する? どんな被害の対策になる?
ヨトウムシ、コナガなどの天敵に!
ゴミムシ類の種のなかで、特にチョウ・ガの幼虫を好む種が畑の益虫になることが多いです。野菜の葉の上にも登り、ヨトウムシ、コナガなどを捕食します。
どんな被害に役立つ?
ヨトウムシによる各種野菜の食害、コナガやアオムシによるアブラナ科の野菜の食害などの対策に、ゴミムシ類は期待できます。
どこに生息している? 増やし方は?
分布
ゴミムシ類は全国に分布しています。地域や周辺環境によって種や生息数は異なります。
畑、牧草地、荒地に多い種は、オオアトボシアオゴミムシ、キボシアオゴミムシなどです。
生息場所
畑では土中の浅いところや落葉の下、下草の根元などに生息します。夜行性の種が多いですが、昼間にも活動する種もあります。
増やし方
2020年9月現在、ゴミムシ類は生物農薬としての販売はされていません。しかしだいたいの畑で、すでにゴミムシ類は生息している場合が多いです。作物の株元や通路などに刈り草やワラなどを敷くと、その下に定着しやすくなる種もあります。
また、畝間などに植物を植えて地面を覆うリビングマルチも有効な場合があります。ゴミムシ類には、特にムギやクローバーなどが適しています。ジャガイモの畝間にエンバク野生種を植える、リンゴ園に白クローバーを植えるといった事例で、ゴミムシ類の増加が確認されています。
~最後に~ 準備が大切!
ゴミムシ類の繁殖力はそれほど強くなく、ゴミムシ類が生息しやすいような環境を作っても、すぐに増えるものではありません。ヨトウムシなどによる被害が目立つようになってからでは遅いので、なるべく植え付ける前にゴミムシ類を増やすための行動を起こすことが必要です。じっくりと、畑とその周辺の環境を整えていくことが重要です。
※ ゴミムシ類の一部の種が、私たちにとって益虫になることが多いと考えられていますが、ゴミムシ類についての科学的な根拠は、まだそろっていない状況です。
参考文献:天敵活用大事典(農文協)