高知県に学ぶ「データ農業」普及のための人材育成

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高知県に学ぶ「データ農業」普及のための人材育成

窪田 新之助

ライター:

高知県に学ぶ「データ農業」普及のための人材育成
最終更新日:2020年11月17日

今回は環境や管理、生体などのデータを活用した「データ農業」の普及について考えてみたい。そのために取り上げるのは前回に続いて高知県。同県では主要野菜7品目に限ると、施設内で環境データを測定する装置と炭酸ガスを供給する装置の普及率が53%に及ぶ。これだけの成果を挙げた理由に加え、この数字をさらに高める方策について、人材の育成という観点から紹介したい。

環境データの活用で5~30%の増収を達成

まずは高知県の実績を確認しよう。主要野菜であるナスとピーマン、シシトウ、キュウリ、ミョウガ、ニラ、トマトの7品目の平均反収をみると、トマトを除いて全国1位である。ちなみにトマトは全国4位で、収量が低くなりがちな高糖度トマトが主であることが大きな理由である(2018年、農林水産省調べ)。

これだけの実績を挙げている要因はデータに基づく環境制御技術が広がったからだ。県は2013年度から、施設内で環境データを測定する装置と炭酸ガスを供給する装置の普及を開始。その結果、導入した農家は反収を5~30%増やした。現在、両装置の普及率は主要野菜7品目の栽培面積の53%に及ぶ。県は収量が上がった分の経済効果だけで約26億円と試算する。品質ではメロンやスイカで玉揃いや糖度が安定するなど、実際にはより大きな経済効果を生み出しているとみている。

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半世紀にわたるオランダとの交流の歴史

では、なぜデータに基づく環境制御技術を普及できたのか。その理由について高知県農業振興部IoP推進監の岡林俊宏(おかばやし・としひろ)さんは「古くからオランダと交流してきた背景があったことは無視できない」と説明する。

交流の歴史は半世紀ほどに及ぶ。岡林さんいわく「いまから40~50年前、高知はテッポウユリの産地で、オランダに輸出していたそうなんです。オランダはその遺伝資源をもとに品種改良したオリエンタルユリを開発し、逆にその球根を高知に輸出するようになりました。いまでは取引額は10億円にもなります」。

ユリがオランダとの交流の第1弾としたら、第2弾は1990年代の養液栽培、第3弾は99 年からの環境保全型農業である。本稿のテーマとの関連で注目したいのは第4弾となる、2009年にオランダ・ウェストラント市と友好園芸農業協定を締結したことだ。主に環境データに基づいた環境制御技術の習得と学生の教育、企業の交流の三つの分野で友好を図ってきた。

オランダの視察や勉強会を定期的に開催

オランダとの交流が「データ農業」普及のきっかけになったという高知県農業技術センターの高橋さん

第4弾の交流の中でも重視したのは環境データに基づいた環境制御技術の習得だ。2009年のウェストラント市との協定締結から3年にわたって年2回、オランダの農業技術のコンサルタント会社から専門家を講師に迎えて、県職員向けに1週間の講習会を開催。講義の内容は植物生理や環境制御技術、経営戦略など多岐にわたるメニューの中から好きな項目を選択できるようにした。

講義はすべて英語。通訳は参加する県職員が務めた。言葉の壁もあってその場で内容を十分に理解できない職員は少なくない。そこで英語版の資料の日本語版を作ったほか、講義の内容を後日要約した資料を別に用意。それらを冊子としてまとめた。講義の内容について県農業技術センター技術次長の高橋昭彦(たかはし・あきひこ)さんはこう振り返る。「国内のどの本にも載っていない濃密なものだった。いまでも分からないことがあったら冊子を読み返すほどです」

講義の冊子

オランダの農業技術のコンサルタント会社の研修会で作った冊子

県内の農業関係者向けにも勉強会を開催。加えて協定の締結後に毎年30~50人の農業関係者を連れてオランダの施設園芸の現場を視察した。この中には農家や農業高校の学生も含まれる。その人数は延べ300人を超える。こうした地道な取り組みにより、データに基づいた環境制御技術が収量や品質の向上につながることの認識が広がっていったのだ。

すでに述べた通り、2013年度からは、主に先駆的な農家の施設で環境データを取る装置や炭酸ガスを発生させる装置の実証試験を県の費用負担で開始。さらに環境制御技術に詳しい職員を「環境制御普及推進員」として県内5カ所にある普及組織で1人ずつ任命。彼らが機器の効果的な使い方を指導していった。

実証試験が奏功して「儲かる」ことを確認してからは農家も変わった。自発的に実証試験や情報交換をするようになったのだ。同県はこうした農家による勉強会の開催を支援するとともに、環境制御機器類の導入に対する補助事業を創設して普及を推進していった。

関心高める人間関係

それでも環境データに基づく環境制御技術への関心の低い農家は少なからず存在する。既述の通り、施設内の環境データを測定する装置と炭酸ガスを供給する装置の普及率は主要野菜7品目の栽培面積の53%。他県よりはずっと高いものの、同県は現状に満足していない。
前回紹介した「IoP」と呼ぶ研究課題では農家所得の2割増を目標にしている。そのためには、データに基づく環境制御技術を一層普及させなければならないと考えている。では、関心が低い農家に、どうしたら第一歩を踏み出してもらえるのか。

その一つの答えとしてIoP推進監の岡林さんが注目するのは、農家を取り囲む仕事上の人間関係だ。

「農家に普及できるのは県の普及員と農協の営農指導員だけと考えられているけど、それは間違い。農家さんによっては、むしろ、より頻繁に会っていて、長い付き合いなのは農協の集荷場の職員だったり、肥料や農薬を農家さんの圃場(ほじょう)まで、注文に応じて届けている購買の職員だったりします。彼らが農家から『データ農業なんて必要なの』って聞かれて、『そんなんやらんでも、十分儲かってます』と言われたら終わり。普及できませんよね。だから彼らを巻き込んで普及しないといけないのです」

前回紹介した通り、施設園芸に取り組む農家には通信簿を配る予定。その配る役割として、農協の集荷場の職員や購買の職員に請け負ってもらいたいと考えている。

「集荷場や購買の職員にも農家の現状と目標を共有してもらうことが大事。目標に到達するために、こういう段取りを踏んでいこうという情報が共有できれば、『データ農業』が一気に普及していくはずです」(岡林さん)

データ農業に関する研究は全国的に始まっているものの、いずれの成果も普及しなければ意味を持たないのは言うまでもない。先駆者である高知県の取り組みが示唆することは多いはずだ。

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