建設業界から農業界に参入

四万十とまとの代表・山本さん
「次世代施設園芸拠点」とは、農林水産省がオランダの施設園芸に関する技術を国内各地に浸透させるため、全国に建てた実証試験を兼ねた施設だ。
四万十町にある「高知県拠点」の栽培面積は延べ4.3ヘクタール。航空写真で見ると、施設はL字型に横たわっている。6メートルと軒高が高い施設の区画は三つに分かれ、四万十とまと含めて3社が入っている。経営は別々であるものの、拠点は一括して見積もりを取って建てた。また、液化石油ガスや養液などの基盤に関する施設は共同で建てて共同で利用している。その原料は相見積もりを取って購入するなど、まずもって経費を抑えていることが黒字化できている理由の一つである。
山本さんは建設業の出身。一代でその会社を興した後、四万十とまとの創業とともに農業界に参入した。これだけの規模の施設を運用するに当たって、重視したのは生産管理と労務管理だ。
創業1年前にオランダや大学で知識や技術を習得
まず生産管理の組織体制をみると、「収穫と選果」「葉かき」「誘引」という作業別に三つの班がある。各班は担当する作業を主にこなしながら、必要に応じてほかの作業を手伝う。
班長は施設園芸の生産管理に慣れた人をもともと雇ったわけではない。というより、これだけの規模の施設の生産に習熟した人材は国内ではまれである。そこで生産を始める1年以上前に社員として雇い、オランダのほかに施設園芸の研究が盛んな千葉大学や愛媛大学で1年に及ぶ研修を受けさせた。
山本さんは「いくら優れた園芸施設や最先端の技術を導入したといっても、それを運用する人材が育っていなければ、効果を十分に発揮できるはずもない」と語る。
とはいえ、わずか1年の研修を受けた社員たちだけで、これだけの規模の施設を運営するのは心もとない。そこでオランダのコンサルタントに3年間常勤してもらい、指導を受けた。その費用は年間400万円ほどだったが、山本さんは「決して高くはない。彼がいなかったら、3年目での黒字化はなかった」と言い切る。
作業データで適材適所や給与査定

ICタグの読み取り機
山本さんが労務管理で強調したのは、社員やパート一人一人の作業記録を取っていること。施設内にはトマトを植えてある列が120あり、その奥行きは75メートルになる。その一つずつの列について誰が、いつ、何を、どれだけの時間でこなしたのかは自動的に集計される。それができるのは、施設内の要所にICタグを設置して、その読み取り機を全従業員に持たせているから。読み取り機で取ったデータは事務所のパソコンで閲覧できる。

圃場に設置されているICタグ
それらのデータから、主な作業である葉かきや誘引、収穫、選果などについて個々の従業員がどれだけの時間をかけたのかがみえてくる。そのデータを踏まえて一人一人の得手不得手を見極め、配置する班を決めているのだ。
働きに応じた給与やボーナスの設定
一連のデータは役員給与や時給、ボーナスに反映する。四万十とまとは社員だけではなくパートにもボーナスを支払っている。それらの査定は年1回、多い年には2回。評価基準の項目には意思疎通の能力や勤務状況などもある。それらの項目については社員だけではなくパートも自分以外の全従業員を評価する。代表である山本さんも評価されることにおいては例外ではない。
従業員の年齢構成は20~70歳台と幅広い。地域の人手が限られる中、一人一人に長く働いてもらうためにも、「働き具合に見合った時給にすることは大事」と山本さん。「働き具合に関係なく同じ時給にしてしまえば、仕事が速い人から遅い人に対して文句が出る。うちは職場での人間関係を大事にしているから、働き具合に合った時給は必要。仕事が遅い人も文句を言われる筋合いはなくなりますからね」
課題の増収に向けてデータ活用
生産したトマトのうち大玉はサイゼリヤに、房取りの中玉はデルモンテに全量を出荷する。取材する中で気になったのはそれらの反収で、10アール当たり大玉は45トン、中玉は30トン。複合環境制御ができる施設での反収としては決して高いとはいえない。
この課題を克服するうえで基本と考えているのは、取りためている作業のデータ。山本さんは「データを基に一人一人が適切な作業ができているかどうかを追究し、光合成がより活発になるような生産管理や労務管理に生かしたい」と話している。