愛知県内トップの生産量 西三河のいちご栽培
愛知県の南部に位置する西尾市は、西三河エリアの中核的な都市として発展。日射量が多く、気候も比較的穏やかであることから、さまざまな農作物が生産されています。てん茶(抹茶の原料)やカーネーションなどは全国的にも有名ですが、いちごも特産品の一つです。「章姫」・「紅ほっぺ」を中心に販売金額は約11億円、部会員が多く平均反収が高いことが特徴です。
栽培に適した気候やICT導入などで高い生産性を実現、部会が一丸となっていちご栽培に取り組んでいますが、他のエリアと同じく、高齢化による生産者の減少が課題となっています。
「このまま何も対策をしなければ、10年後には西三河のいちご生産者は3分の1になる可能性がある」と話すのはJA西三河いちご産地振興委員会 委員長の齋藤和義さん。
そんな危機を前に、スタートさせたのが新規就農プロジェクト『いちごスクール』です。
いちご新規就農支援プロジェクト「いちごスクール」とは?
「いちごスクール」は、未経験から西尾市で施設いちご栽培での就農を目指せるプログラムです。いちごの栽培技術や販売網を次世代に継承するため、2019年にスタートしました。
研修期間は6月から翌年5月の1年間。苗の管理から栽培、収穫、そして出荷まで、いちご農家に求められるすべての知識や技術を、経験豊かな生産者たちが一から丁寧に教えます。
同時に、愛知県立農業大学の講座を利用して、植物の生理特性や肥料・農薬、経営管理や税務に関する知識など、専業農家として経営を行う上で必要な知識も修得。
研修と並行し、農地取得や栽培施設(ハウスなど)の準備、農地利用権設定の申請などを、JA西三河のサポートのもとで行い、将来的に西三河エリアでのいちご就農を目指します。
スクール生、受入れ農家インタビュー
第2期生として「いちごスクール」に参加している石原広貴さんと、受入れ農家として指導をされているJA西三河いちご部会部会長の石川良雄さんの2人に、実際の研修について話を伺いました。
参加の決め手は信頼関係【スクール生インタビュー】
まず、山梨県出身で東京在住だった石原さんが、なぜ西三河でいちご農家になろうと思ったのか尋ねると「以前は流通卸の会社に勤めていたのですが、いずれは自分で何かをつくるのが目標でした。たまたま参加した就農フェアで出会ったのが『いちごスクール』です」。
就農フェアでさまざまな地域の担当者と話をした中、一番丁寧な対応だったのがJA西三河の担当者だったそうです。
「スクールに参加するには、家族での移住が必要となるため、信頼関係が構築できるかが一番重要なポイントでした」と石原さん。仕事を辞めるタイミング、移住先での生活など、たくさん相談をするうち、不安は希望に変わり、挑戦を決意したといいます。
現在は、受入先の石川さんの圃場でいちご栽培について一から学ぶほか、愛知県農業大学に通ったり、いちご部会の集まりに参加したり、忙しいながらも充実した毎日を過ごしています。
「石川さんの実業家としての多くのアイデアは刺激になりますし、将来に向けて、夢と希望にあふれています。またコミュニケーションも活発で、いちご部会の方々とは、苗の共同管理などで月に一度は顔を合わせます。他県から来た私にも分け隔てなく接してくれるなど、とても人間関係が築きやすい環境ですよ」と石原さんが教えてくれました。
2021年5月に研修を終えた後は、すでに35aという中堅規模のハウスを経営する予定の石原さん。「現在は独立に向け、休日のたび自分の農地を整備しています。我が子が農地でカエルを捕まえたりどんぐりを拾ったり、自然と戯れる様子が見られるのは都会では叶わなかったこと。日が沈んだら家に帰って、家族みんなでごはんを食べる…そんな幸せを噛みしめています」と最後に石原さんは教えてくれました。
「どんな働き方をしたいのか」を大切に指導【受入れ農家インタビュー】
では受入れ農家として指導する石川さんは、どのようなことを心がけているのでしょうか。「いちご栽培に必要な技術を教えるのはもちろんですが、将来、どんな働き方をしたいのか、常に考えるように指導しています」と指導する石川さんは話します。
農家を営むということは、経営者になるということでもあります。石川さん自身も十数年前、脱サラをしていちご農家になった経験を持ちます。そのため、常に先を考え、経営的感覚を持った生産者になってほしいと、期待を込め指導しているそうです。
西三河いちご部会には、代々家族で経営している農家もあれば、大規模経営しているところもあるため、さまざまな経営スタイルのヒントが身近にあります。脱サラ経験者も比較的多いエリアのため、新規就農者にとっても心強い味方となることでしょう。
「いちごは10年ほど前から単価が上がっている数少ない農作物のため、安定した収入が見込めます。それに、手にした人がこんなに笑顔になる農作物は、いちごより他ないのでは」と最後にいちご栽培の魅力を話してくれました。
JAやいちご部会、たくさんの仲間が手厚くサポート
いちご農家が所属する「JA西三河いちご部会」は現在76名、県内屈指の人数を誇っています。メンバー内の情報も共有されるため、栽培の上手な生産者のデータを参考に、自身の栽培技術を磨くこともできます。
また、単に技術を教えるだけではなく、いちご部会の生産者やJAの情報網を駆使して、空きハウスを見つけたり、不要とされている農機具を安価で譲ってもらったり、スクール生の独立を全面的にバックアップしています。
「石原さんのように意欲的な方がスクールに参加してくれ、更に研修後もこの土地で地元に根差した生産者として活躍してくれる。西三河のいちごの未来は明るいと感じています。私たちも仲間として受け入れたいと思っています」と齋藤さんは最後に話してくれました。
JA西三河の「いちごスクール」には、知識・技術の修得以上に、頼りになる先輩農家との出会いが待っています。新規就農を目指す方には大変心強いスクールです。気になる方は一度問い合わせてみてはいかがでしょうか。
【お問い合わせ】
西三河農業協同組合(JA西三河)
〒445-0073
愛知県西尾市寄住町下田15
TEL:0563-56-3341