「小麦はコメの3倍以上もうかる」 反収599キロを達成できた訳

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「小麦はコメの3倍以上もうかる」 反収599キロを達成できた訳

「小麦はコメの3倍以上もうかる」 反収599キロを達成できた訳
最終更新日:2020年12月23日

滋賀県近江八幡市で水田220ヘクタールを経営するイカリファームが栽培で注力するのはコメではなく小麦。全国で「捨て作り」と揶揄(やゆ)されているのを否定するかのように、代表の井狩篤士(いかり・あつし)さんは「コメの3倍以上もうかる」と主張する。2020年産は超強力(きょうりき)品種「ゆめちから」で10アール当たり599キロ、強力品種「ミナミノカオリ」で560キロを達成した。高い収量ともうけの秘密に迫る。

稲作から麦作は始まっている

「ゆめちから」

イカリファームの青々とした2020年産「ゆめちから」の畑(左)

「収穫中にコンバインが全然前に進まへんのですよ。例年になく遅いと思ったら、この収量ですからね」
井狩さんは豊作を実感した時の様子をこう振り返った。今年産は全国的に収量が高かったものの、それでもイカリファームは都府県の成績としては群を抜いている(※)。
※ 2020年産小麦の都府県の反収は352キロ、近畿地方は309キロ(農林水産省調べ、2020年11月速報値)。

その理由はまず品種の力にある。作っているのは収量が多い特性を持つことで知られる超強力品種「ゆめちから」と強力品種「ミナミノカオリ」。加えて好天に恵まれた。ただ、これだけでは十分な説明になっていない。
イカリファームも2018年までの平均反収は波があった。それが2019年に「ゆめちから」で560キロ、「ミナミノカオリ」で520キロと過去にない数字に達した。井狩さんはその理由をこう説明する。
「稲作の段階で麦作は始まっていることに気づいたんです」

中干しの徹底やコンバインの急旋回の回避

両品種とも作付けは稲作の収穫が終わった田で行われる。井狩さんによると、2019年産からは後に待ち構える麦作のため、夏場に田を乾かすことに重点を置いた。この時にどれだけ乾かせるかが、小麦の播種(はしゅ)に至るまで田の水を切るのに良好な環境をつくり出すからだ。
その手始めとなるのは中干しの徹底である。溝切りの深さを10センチ程度にしたほか、ときにスコップを使って溝の末端を排水口につなげた。
「恥ずかしい話、これまで中干しには力を入れてきませんでした。大規模になると、それだけ手間がかかりますからね。でも中干しを徹底して一度でも土をカラカラに乾かしてしまえば、その後に水が入ってきても、水抜けがいいんです。これだけで小麦の反収が100キロくらい違う印象がありますね」(井狩さん)

稲の収穫ではコンバインの急旋回をやめるようにした。急旋回すれば土をねじり、そこに水が滞留して乾きにくくなるからだ。同じ目的から収穫後に残る稲わらはストローチョッパーで細かく砕く。

こうした栽培の工夫を生み出す源泉は「品種の力を損なわない」という発想。「品種にはそれぞれ反収の最大値が700キロとか800キロとかの生まれ持った能力がある。大事なのはそうした能力を損なう人為的な原因をいかに削っていくかだと気づいたんです」と井狩さんは言う。

増収するほどにもうかる仕組み

イカリファームの井狩さん夫婦

イカリファームの井狩さん夫婦

とはいえ麦作重視でいけば稲作の結果は悪くなりがちである。「中干しをやり過ぎると、稲の収量が落ちます。とくにうちが多く作っているハイブリッドライスの品種は過度の中干しに弱いですね。収量は最悪1割近く下がってしまいます」(井狩さん)

それでも麦作重視でいくのは、そのほうがもうかるからだ。これは「小麦は捨て作り」という認識がある多くの農業関係者にとっては意外に違いない。
井狩さんいわく「単位面積当たりの所得はコメの3倍になる」というからすごい。理由の一つは収量の高さにある。とくに「ゆめちから」について10アール当たりの収量が高いことはすでに述べた。

収量が高ければ、販売数量が上がるだけではない。農林水産省の「畑作物の直接支払交付金」には「数量払い」と「面積払い」がある。このうち水田で作付けした場合でも対象になる「数量払い」は収量を上げるほどに交付金が増えていく。

もう一つは超強力品種をはじめパン用と中華麺用の小麦を作付けする場合、畑作物の直接支払交付金で加算措置が付く。ただ、交付金を受けるには滋賀県産の「ゆめちから」が産地品種銘柄の指定を受けなければならない。井狩さんは3年かけて栽培試験をして、生育に関するデータを集めた。それを基に農林水産省に産地品種銘柄を申請して審査を通過した。
さらに水田転換畑で作付けする場合、「水田活用の直接支払交付金」の対象となり、転作するごとに10アール当たり3万5000円が付く。

滋賀県を小麦王国にする

以上の条件はいずれの水田農業経営体も同じ。唯一、イカリファームが違うのは小麦の乾燥調製施設を運営していることだ。JAに委託した場合に生じる乾燥調製料や手数料を省ける。これらを積み重ねることで、「所得はコメの3倍以上」という結果を生み出せるのだ。水田農業経営体で小麦の乾燥調製施設の所有と運用をしているのは全国を見渡してもイカリファームだけではないだろうか。

井狩さんは小麦のほうが稲よりももうかることを声を大にして伝えている。周囲の農家は最初こそ半信半疑だったものの、最近になって関心を示すようになってきた。2020年産ではイカリファーム以外では初めて「ゆめちから」の作付けをする農家も生まれた。収穫物はイカリファームで集荷して乾燥調製まで請け負った。

主に「ゆめちから」については学校給食向けにパンを作る県内の業者に、「ミナミノカオリ」についてはJAに卸している。
ほかにも県内外で小麦を作る意欲を持った農家や農業法人が出ている。彼ら彼女らと県産小麦を増産していき、県内で自給圏をつくるつもりだ。井狩さんの夢は「滋賀県を小麦王国にする」ことだ。

ただ、これから集荷量が増えていくとして、乾燥調製施設はどうやって拡張するのか。次回、井狩さんが「アップデート型」と呼ぶこの施設の拡張性と「小麦王国」という夢への第一歩を紹介したい。

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