規模拡大に備えた「アップデート型」の乾燥調製施設 敷地面積変えず容量2.5倍に

マイナビ農業TOP > 農業経営 > 規模拡大に備えた「アップデート型」の乾燥調製施設 敷地面積変えず容量2.5倍に

規模拡大に備えた「アップデート型」の乾燥調製施設 敷地面積変えず容量2.5倍に

規模拡大に備えた「アップデート型」の乾燥調製施設 敷地面積変えず容量2.5倍に
最終更新日:2020年12月17日

滋賀県近江八幡市で水田220ヘクタールを経営するイカリファーム。2018年度に乾燥調製施設を建てたが、この時考え方の基礎としたのは「アップデート型」。集荷量の増加や機器の老朽化が進んだ際、箱物を新設や増設せずとも柔軟に更新できる設計にした。規模の急速な拡大が見込まれる農業法人が施設をつくる際のヒントを紹介したい。

異彩を放つオレンジ色の外観

乾燥調製施設の外装

イカリファームの乾燥調製施設

晩秋のくすんだ田園風景の中、外装がオレンジ色のその箱型の建物だけが異彩を放っていた。乾燥調製施設を目立たせることを提案したのはイカリファーム代表の井狩篤士(いかり・あつし)さんの妻で、役員の史子(ふみこ)さん。サラリーマン家庭に育ってきた史子さんは農村にはない新鮮な感覚を持っている。

「私からしたら、どこの農舎も地味なのが不思議でした。農舎って一番の広告塔ですからね。オレンジ色は膨張色なんで目に刺さるんですよ」
異彩を放っているのは外装だけではない。施設内に入った人がまず疑問に感じるのは、何も置いていない空間がなぜこんなに広く取ってあるのか、ということだろう。それは機器が並ぶ空間よりも広いかもしれない。

機器が拡張できる余地を残す

乾燥調製施設の内部

乾燥調製施設の内部。何も置いていない空間を広く取っている

「規模拡大に備えてアップデートできるようにしてあるんです」
井狩さんはこう説明する。たとえば乾燥機。現状は7基で、総容量は560石である。敷地面積を一切広げることなく、1400石にまで拡大できるという。

手法は二つ。一つは既に設置している7基の乾燥機のかさを天井近くまで上げていき、1基の最大容量を増やす。これで700石になる。
もう一つは乾燥機をさらに7基入れて倍の14基にする。乾燥機や貯蔵庫などをかなりゆったりと並べているのはそのためだ。14基に増やした時には、乾燥機を千鳥状に並べる。これは、限られた空間に最も多く入るようにするための独自の発案である。

さらなる規模の拡大に備えて、いまのうちから乾燥調製施設の道を挟んだ真向かいの土地を買い取っている。ここには貯蔵施設を建てる予定。乾燥調製施設にある貯蔵機能はそちらにすべて移す。

こうした施設の仕様を思いついたのは経営を継承する以前から。
「どこの農家も農舎を建てたときには、まさか規模の拡大がこんなに急速に進むとは思っていなかったはず。実際、以前はその時の経営規模に合わせた農舎を建て、ゆるやかな面積の増加とともに、農舎内のレイアウトを少し変えるだけで良かったんです。でも規模の拡大が想像以上に進んだから、建て増ししていくことになりました。だから農舎の高さはばらばら。レイアウトも無茶苦茶。結果、生産性が低い。それが親父の代の農舎だったんです。これからの規模の拡大には箱そのものを変える必要が出てきています」
こうした反省から生まれた着想を具現化したのが、オレンジ色をした乾燥調製施設なのだ。

赤かび病を除去できる色彩選別機

この乾燥調製施設ではコメと小麦、大豆を扱っている。イカリファームが栽培で注力している小麦の処理量についていえば、2019年産は920トン。2020年産は1100トンで、このうち自社分は380トン。国が義務付けているくん蒸処理だけは「毒物劇物取扱責任者」の有資格者が社内にいないので、JAに委託している。

余談ながら、色彩選別機は食品以外にも使える多目的型を導入した。価格は、コメだけを対象とした一般の色彩選別機と比べて3割ほど高い。ただ、画像を学習させることで、さまざまな異物を取り除ける。たとえば赤かび病もその一つ。赤かび病が発病した小麦の穀粒は外観がだいだい色や桃色に変色する。機械に発病した穀粒100粒以上を学習させることで、高精度に取り除けるような仕組みになっている。

県産のパンとビールの原料に

ビール

イカリファームの小麦を原料にした地ビール

集荷した小麦のうち「ゆめちから」についてはくん蒸処理を終えた後、奈良県の製粉会社を経由して、すべて丸栄製パンに納品する。長浜市に本社があるこの製パン業者は、県産小麦だけのパンを学校給食などで提供すべく、複数の品種を試している。

今年からはビール用でも小麦を出荷している。売り先はTWO RABBITS BREWING(ツーラビッツブルーイング)。オーストラリア人が3年前にビールの製造業と飲食業を兼ねて近江八幡市内で始めた会社だ。
「ビールの原料といえば大麦ですが、昔は小麦を使っていたそうなんです。今も小麦を原料にするホワイトビールがあって、TWO RABBITS BREWINGもそのビールをつくっています」
イカリファームはほかにも供給先を増やしていくつもりだ。

自給率向上への課題は製粉業者との連携

ここで小麦の食料自給率について言及すると、2018年までの過去10年間は9~15%で推移している。この低さは国内の小麦関連の食品産業が輸入原料を使うことを前提にして成長してきたことと大いに関係している。

そこに風穴を開けるには、一言でいえばバリューチェーンの構築を進めるしかない。個々の工程の連携が重要になる。その際、作り手である農業法人にとってまず課題となるのは、食品加工業者とともに製粉業者を見つけることである。

国内の製粉業は輸入小麦を前提にして成長してきたことから、製粉工場が受け入れる単位は大規模を主としている。一方、小規模や中規模の単位を相手にするところは限られる。

現在のところイカリファームが生産した分を受け入れてくれている製粉業者は、小規模には対応できるものの、さらに集荷量が増えた時に製粉できるかは不透明。中規模の単位でも扱ってくれる製粉業者がいまのところ見つかっていない。これはイカリファームに限らず、小麦の自給率向上を掲げる国を挙げた課題といえる。

関連記事
「小麦はコメの3倍以上もうかる」 反収599キロを達成できた訳
「小麦はコメの3倍以上もうかる」 反収599キロを達成できた訳
滋賀県近江八幡市で水田220ヘクタールを経営するイカリファームが栽培で注力するのはコメではなく小麦。全国で「捨て作り」と揶揄(やゆ)されているのを否定するかのように、代表の井狩篤士(いかり・あつし)さんは「コメの3倍以上も…
年収1000万円を捨てた稲作農家(前編) 就農で大事なのは「覚悟」と「準備」
年収1000万円を捨てた稲作農家(前編) 就農で大事なのは「覚悟」と「準備」
北海道鷹栖町のたかすタロファームは、夫婦そろって大手製薬会社を脱サラした平林悠(ひらばやし・ゆう)さん(39)と純子(じゅんこ)さん(35)が稲作をするため2016年に創業した。農林水産省の経営継承事業での研修を経て18年に独立…

シェアする

  • twitter
  • facebook
  • LINE

関連記事

タイアップ企画

カテゴリー一覧