スマート農業時代、ロボット導入が求める作業体系の変革とは

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スマート農業時代、ロボット導入が求める作業体系の変革とは

窪田 新之助

ライター:

スマート農業時代、ロボット導入が求める作業体系の変革とは
最終更新日:2021年01月21日

北海道十勝地方のJA鹿追町でキャベツやタマネギの収穫や集荷をするロボットの研究開発が進んでいる。実用化の目標は2023年度。気になるのは普及の壁をどう乗り越えるかだ。高額になるためについて回る課題である。産学官挙げての共同研究プロジェクトで中心的役割を果たす同JA審議役の今田伸二(いまだ・しんじ)さんに研究開発の現状も含めて聞いた。

小麦を除き人手がかかる十勝の農業

インタビューに入る前に、鹿追町における農業とロボットの研究開発の概要を示しておきたい。

同町は人口が約5200人で、ほとんどが農業関係者。農家戸数200戸ほどの半数以上を占める畑作農家は主に小麦、バレイショ、テンサイ、豆類の4品目を輪作している。また、近年は加工用のキャベツやタマネギの生産が増えており、産地化に力を入れている。広い経営耕地面積を有する大規模経営体が多いが、後継者不足により農家の戸数は減少。残る農家がその畑を引き受け、1戸当たりの経営面積が年々増えているのは他の自治体にも見られる状況だろう。

課題は小麦を除き作業に人手を要すること。そこで同JAは労働力を確保するため、3年前から東京の大学生にアルバイトで来てもらうようになった。ただ、大学生の本分は言うまでもなく学業なので、雇える日数は限られる。おまけに今年はコロナ禍でそれが途絶えた。

こうした背景から立命館大学を代表にJAと農研機構、農機メーカーなどが2017年度から研究開発を始めたのがキャベツとタマネギの収穫と集荷をそれぞれ担うロボットだ。このうちキャベツの収穫ロボットは2020年度までの研究で、市販化されている乗用型の収穫機を改良し、無人でも走行できるようにした。ロボットに搭載したカメラやAIを活用して、玉の位置の特定や刈り取る高さを自動で調整することにも成功した。今回はキャベツの収穫ロボットのその後について、今田さんに尋ねた。

外葉の処理と機上での選別も自動化へ

今田さん

JA鹿追町の今田さん

現在、キャベツの収穫ロボットの研究はどこまで進んでいるのか。今田さんはこう説明する。
「2020年度は外葉の処理と機上での選別を自動化することを試しました。いずれの作業も前年度までは人が機上で行い、コンテナに入れていたんです。2020年度からは、刈り取った後に機上に送る途中で外葉を取るようにしました。選別については収穫した玉をカメラで撮影して、AIでその大小や良し悪しを見分け、規格外と判別した玉だけハエ叩きのような機材ではじき出します。結果的にコンテナには良品だけが残る仕組みになっています。そうはいってもAIの精度からして規格外を完全にはじくことはできないでしょうから、人は必要になると思います」

「高額」の壁を乗り越える「共同農場」

共同研究プロジェクトでは、タマネギの収穫機や集荷場で鉄製コンテナを運搬するフォークリフトの自動化も進めている。一連のロボットを実用化するのは2023年度。その先に待っているのは普及の壁である。特にロボットで懸念されるのは高額であることだ。

「たしかにロボットは高額ですね。でも、そこで思考が止まってしまったら何も始まりません。生産現場には高額なロボットを使えるようにする知恵が求められています。機械は固定費だから、使うほどに安くなりますよね。ロボットの能力を最大限に引き出す環境をつくらなければなりません」と今田さん。
「そのために来年度実験しようとしているのが、異なる農家同士の隣接する圃場(ほじょう)を1つにまとめて、10ヘクタール以上の大規模な『共同農場』をつくること。そこで農家が個々に作業するのではなく、一式のロボットや機械を使ってまとめてやってしまう。しかも同じ作物を作型をずらしながら栽培します。そうすると、その圃場では定植なら定植が、収穫なら収穫が毎日できるわけです。ロボットをあちこちの圃場に移動させずに済むので、その能力を限りなく生かせるわけです」

「共同農場」は作業効率を向上する点では納得できる。一方で気になるのは、農家が自らの営農上の判断に基づき作業ができなくなることだ。当然予想されるのは反発だ。
「その通りで、農家に『共同農場』を提案しても総論では賛成、各論では反対されます。十勝の農家は社長ばかりですから、まとまるのは難しい。とはいえ労働力の不足はさらに進むでしょうから、そうも言ってられなくなるのは目に見えています」(今田さん)
普及を進めるにあたっては、この点も課題の一つとなってくるだろう。

意識改革よりも世代交代

「ロボットの能力を最大限に引き出す環境をつくる」という観点から、今田さんは作業体系を抜本的に見直す試みも始めている。込み入った内容になるので詳細を述べるのはやめておく。一言で言うとすれば、収穫から集荷までの無駄と思われる個々の作業を省いていくことになる。では、そうした技術や作業体系を普及する好機を今田さんはどうとらえているのか。

「意識改革も大事でしょうが、それ以上に世代交代ですよ。十勝の場合、現経営者の平均年齢は50歳代半ば。彼らは従来のやり方と変えず、無難にいきたいんです。一方、その息子や娘は新しいことをやりたい。だから世代交代は早いほうがいい。長引いて子どもが40歳代に入ると、親と同じように『このままでいい』となってしまいます」

サプライチェーン関係者の意識改革を

一方、加工用野菜の生産から加工、流通、販売に至る関係者には意識改革が求められるという。収穫や集荷の作業の緻密さでいえば、いまのところロボットは人にはかなわない。たとえばキャベツの玉を刈り取る位置を間違えて、傷物が多く発生することはありうる。それをどう評価するのか。

「労働力が不足している中で生産を維持していくのであれば、農産物の規格を見直すのは当然ではないでしょうか。そもそも野菜の需要の多くは加工用。キャベツでいえば玉で売るのは約2割で、残りの約8割は加工用です。それなのに玉に傷がついていないということを評価する規格のままでいいのでしょうか」(今田さん)

産地に普及しているキャベツの収穫機

JA鹿追町が開発に協力したキャベツの収穫機

関連して今田さんが思い起こすのは、約10年前にメーカーと一緒にキャベツの収穫機の開発に取り掛かった時だ。それまでは人が畑に入り、刃物を使って一玉ずつを刈り取っていた(いまでも小・中規模で作る農家はその方式を取っている)。収穫物はコンテナに入れ、段ボール箱に詰めて出荷する。それが開発した収穫機では後部の台車に鉄製コンテナ(鉄コン)を置き、人が機上で選別して鉄コンに入れるようになっていた。だから省力化のため、鉄コンのまま出荷したいという思いは当然生まれた。

「開発している時、鉄コンでの出荷を認めてもらうよう加工業者に働きかけたんです。キャベツは収穫よりも箱詰めのほうがはるかに時間も手間もかかります。収穫機ができれば栽培面積を広げたい。ただ、そうなると箱詰めの作業が追い付かなくなってしまいます。だから鉄コンでの出荷を認めてもらうことは不可欠でした。加工業者ははじめは嫌がっていましたが、そのうちに鉄コンのほうが彼らも加工場で扱いやすいことが分かり、認めてくれる業者が増えていきました。いまでは鉄コンでの出荷は当たり前です。青果物の世界は保守的であるものの、挑戦してくれる人はいます。ロボットを普及するに当たっても、そうした人たちの理解が欠かせません」

こう語る今田さんは「産地で急な変革は起きえない」という。ロボットについても同様である。その普及にはサプライチェーンの関係者を挙げて地道に進むことが大事だと受け止めた。

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