年商9000万円、JAを一斉退職した男女3人がつくった「農業の何でも屋」

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年商9000万円、JAを一斉退職した男女3人がつくった「農業の何でも屋」

年商9000万円、JAを一斉退職した男女3人がつくった「農業の何でも屋」
最終更新日:2021年02月09日

福岡県築上町に「農業の何でも屋」を看板に掲げる会社がある。JAを一斉に退職した男女3人が2012年に創業した合同会社・アルク農業サービスだ。地域の農家の悩みを聞いているうちに、農作業の代行から始まった事業は自然と広がっていった。前編では創業までの道のりを描く。

柱は農作業の代行と直売所の運営

直売所

小倉駅に近い場所で運営するアルクの直売所

アルク農業サービス(以下、アルク)の事業の柱は農作業の代行と直売所の運営。前者の顧客は主に稲作農家で、田植えや稲刈り、もみすり、乾燥調製、草刈りなどを請け負う。後者では福岡第2の都市・小倉の商店街で直売所を運営。10ヘクタールの田で作るコメのほか、会員の農家の農産物や加工品を販売する。

もち

直売所で人気のもち

直売所でとくに売れるのは自社で加工するもち。自分たちで生産したもち米を木のせいろで蒸し上げるこの商品は、とあるサイトの「ふるさと納税」のもち部門の注文数で2年連続で1位を誇るという。
人気の商品をさらに増やすため、調理場がある自社の施設を1日1000円(ガス代込み)で貸し出している。農家の人たちにはまずはここで試作し、商品に達する段階まで腕を磨いてもらう。

この施設は飲食店営業のほか、菓子製造業と総菜加工業の認可を受けている。つまり多くの種類の農産加工品を作っても法的に問題が生じない。代表社員の永井洋介(ながい・ようすけ)さん(47)は「個人で施設を用意したり許可を取ったりしたらお金がかかるでしょ。みんなでわいわいやりながら、自然と儲かっている場所にしたい」と語る。
4月からは農機の点検と修理も事業化する。これまで細々と受けていた注文が増えてきたので、整備工場を建てて事業に据えることにした。

「足元の農業の発展のために」で年商9000万円

今でこそ事業の中身は創業した目的である「農業を営む人のため」に沿って段々と絞られてきたものの、そこは新興企業の常。できる仕事は何でも引き受けてきたと永井さんは言う。
「それこそ農業に進出した大手量販店が店にトラクターを展示するというので、うちで使っているトラクターを運んで貸し出したり。自衛隊のOBたちがボランティアで草刈りをするというので、草刈り機をそろえて指定の場所に持って行ったり。そういえば農業サイトの編集もしましたね」

農業の「何でも屋」という看板を掲げる会社は全国でも珍しいようで、遠方では関東地方からも依頼がたびたび舞い込む。ただ、今のところ作業を行うオペレーターは永井さんと共同創業者の清水祐輔(しみず・ゆうすけ)さん(29)の2人だけ。何より足元の農業の発展に尽くしたいということで、地盤はあくまでも本社を置く築上町とその周辺の市町村である。
年商は右肩上がり。初年度に1700万円だったのが2019年度には9000万円に達した。

農家のために壁を設けない

創業者の永井さん清水さん鶴田さん

左から鶴田さん、清水さん、永井さん

共同創業者の永井さんと清水さん、鶴田直美(つるた・なおみ)さんはもともと地元JAの職員。辞めるまでは3人とも、機械の修理や整備を請け負う農機センターの同じ支店に務める同僚だった。
店長の永井さんが長(た)けていたのは営業力。就任した初年度に1億5000万円だった売上高を3年後には4億5000万円と、3倍に増やした。永井さんによれば福岡県内に100店舗ほど存在するというJAの農機センターにあって、店長になった翌年から辞めるまで3年間は売上高で1位の座を譲らなかった。そのひけつは「農家のために壁を設けない」にあった。

「自分がJAに入った頃は、農機は購入先に修理に出すのが常識でした。だからJAはJA以外で買った農家の修理は受けないし、農家もそれを当たり前だと思ってきました。でも、それだと売り上げに限界が生じます。だから僕は店長になると、アンチJA含めてすべての農家に営業をかけました。たとえば農機メーカーが商談会を開けば、管内のすべての農家を招待するんです。店長になった年に商談会に農家を乗せていくバスは1台でした。それが退職する直前には11台にまで増えてましたね」(永井さん)

「農家のために壁を設けない」という姿勢が高じて、永井さんも清水さんも私的に農作業を受託していた。農家が高齢や機械の故障を理由に農作業が続けられない現状をどうにかしたかったからだ。受け皿の農業法人は体力をなくしており、集落営農法人が消滅する事態も生じていた。こうした地域の農業への危機感こそが創業への流れとなっていく。

資本金300万円での船出

転機は突然やってきた。公私ともに懇意にしていた農家が、後継者と見込んでいた息子を亡くしたのだ。その農家は身体的な理由で自分一人では農作業をこなせず、かといって周囲に委託できるあてもない。

翌日、永井さんはJAに辞表を提出した。一人で農作業を代行する会社をつくり、まずはその農家の仕事を請け負う決意を固めたのだ。
「会社が軌道に乗ったら、従業員として雇いたい」。以前から起業について打ち明けてきた清水さんにさっそくそう告げると、「従業員」の部分に反発された。「どうせなら自分も最初から経営者となり、決定権を持って参加したい」。清水さんは当時を振り返って、「無知だったから、できると思っちゃったんですね」と苦笑する。

続いて永井さんは、仲良くしていた鶴田さんに退職する理由を打ち明けると、「私ももう間もなく定年だから、少し早く辞めて一緒に働きます」と返ってきた。こうして3人はそろってJAを退職した。もちろん清水さんと鶴田さんが追随したのは、永井さんが辞めるに至った動機に共感することがあったからである。
3人は100万円ずつを出し合って、資本金300万円で会社を興した。農機や乾燥調製施設などは息子を亡くした農家から作業する面積に応じて料金を支払うことで借りることになった。

3人がアルクを創業するに当たって重視したのは「ビジネス」。一方で距離を置いたのは「相互扶助」。後者について永井さんは「嫌い」とまで言い切る。次回はなぜそうした心境に至ったのかをたどりながら、「決して安くない」とメンバーも話すアルクの草刈りサービスが人気を集める理由を探りたい。

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