全国で5県が「県1JA」
JAの数は平成の初め、1989(平成元)年3月末時点で3898(※1)だったのが2021年4月1日時点で562に減少している(※2)。32年間で約7分の1になった。これはJA同士の合併によるもので、1999年から2010年にかけて進められた「平成の大合併」と呼ばれる市町村合併とも無関係ではない。
合併のかたちでここ20年ほどで顕著なのは、県内のJAを一つにまとめる「県1JA」の誕生や、それに近い大型の合併だ。全国初の「県1JA」は1999年の奈良県で発足したJAならけん。その後は香川県と沖縄県、島根県、山口県が続いた。さらに福井県と岡山県では2020年4月1日、それぞれ1つのJAを除いて県内の残りすべてのJAが合併している。このほかJAの数が1桁になっている府県が13ある(JA全中調べ)。
※1 農林水産省調べ。JA系統以外の農業協同組合を含む。
※2 JA全中調べ。※1と同対象の場合は598。
要因は経営の悪化と先行き不安
こうした大型合併が進むのは、JAが経営の悪化と先行きへの不安に直面しているからだ。それはたとえば福井県JAグループが第25回JA福井県大会議案としてまとめた「県下1JA合併基本構想(骨子)」に表れている。この基本構想ではJAの「経営を圧迫する要因」として、①低金利政策による事業総利益の減少②公認会計士監査の導入③農業関連施設の老朽化に伴う財政危機を挙げた。それぞれについてもう少し詳しく見ていこう。
まずは①について。JAの経営の屋台骨といえば信用事業(銀行業務)と共済事業(保険業務)である。総称して金融事業と呼ばれる2つの事業はマイナス金利政策のために減益に陥っている。このため福井県JAグループの事業総利益は1997年に292億円だったのが2017年に182億円まで減少した。
②についてはこれまでJAの監査業務を行うのはJA全中(全国農業協同組合中央会)だった。ところが農協改革により、JA全中は2019年3月に特別認可法人から一般社団法人に移行するとともに、監査権を剥奪された。代わりに地域のJAの監査は公認会計士が請け負うことになった。福井県JAグループはその報酬として新たに年間で数千万円が必要になると見込んだ。
③については集出荷施設や選果場など農業関連施設が老朽化し、修繕費や建て替え費が増えていることを指している。更新したくても、その施工に関する補助金は大幅に減額されている。おまけに施設を利用する組合員も減っているので、難しい。これは全国のJAに共通する課題だ。
こうした事態が改善する見込みはほぼない。そこで福井県JAグループは先の基本構想で「県1JAによる効果」として、①県域のスケールメリット②県域の体制整備による専門性③JA総合力、この3つを発揮するのだという。これらの発揮すべき効果については「経営を圧迫する要因」ほどに明瞭な説明がないことはさておき、他県でも県1JAにする理由に福井県と大差はない。
正組合員とともに出資金も激減
筆者が調べた限り、現時点で「県1JA構想」の検討を始めているのは、秋田県と和歌山県だ。いずれも各県のJAグループが3年に1度開催するJA大会の前回大会(2018年)で表明している。
両県の合併の是非を巡る議論には次のことが影響するだろう。一つは大勢の離農に伴う正組合員からの出資金の大幅な減少だ。たとえばJAグループ秋田では出資金の年間の減少額は2020年までおおむね約5億円だった。それが2021年は約8億円になる予想だという。
これに拍車をかけるのが新型コロナウイルスの影響による米価の下落だ。外食需要の落ち込みから民間在庫がたまっている。コロナ禍が長引けば米価はさらに下落し、農家の離農は進む。自然、出資金が一層減ってJAの経営を圧迫するという構図が見えてくる。
呼び水となりうる日銀の支援
加えて合併への呼び水になりそうなのは、地銀の再編を支援する「特別当座預金制度」が地域のJAにも適用されることだ。日銀は2020年11月、経営統合する地銀を対象に、日銀に預ける当座預金に年0.1%の金利を上乗せすることを発表。3月から申し込みを受け付けている。
要件としてJAの合併も認めている。ただし、合併を決定する期限は2023年3月末まで。経営状況が悪化しているJAにとっては、どうせいずれは合併するのであれば手に入れたい支援だろう。
ただ、少なくともJAグループ秋田の場合はすんなりいきそうもない。次回は「県1JA」を巡って秋田県で生じた“内紛”を伝えたい。