兼業農家の救世主! 農作業の時短と省力化で、家族との時間が増える
2021年6月下旬、岩手県一関市花泉町にある佐藤典之(さとう・のりゆき)さんの水田を訪れました。代々続く水稲農家の4代目として農地を引き継ぎ、現在は約10haもの水田を管理しています。約1ヶ月前に田植えを終えた「ひとめぼれ」の緑鮮やかな水田には、「田植機用溝切機」で軽快に溝を切る佐藤さんの姿がありました。
兼業農家である佐藤さんが、農作業に従事できるのは「平日の早朝」と「休日」に限られています。会社の休みにも限りがあるため、作業が計画通りに進まないことで、稲の生育に影響を及ぼすことが多々ありました。
また、兼業農家に限らず高温多湿の中、限られた時間内で広い面積を溝切りしなければならないとなると、作業後の疲労感は計り知れず、肉体的負担に悩まされている農家さんも多いのではないでしょうか。
「兼業農家は時間的な制約があります。その限られた時間で1日3~4haもの溝切りをしなければ作業に遅れが出てしまいます。しかし、当時使用していたエンジン付きの乗用溝切機では股ズレを起こし痛みが出るのも悩みでした。そこで時短と省力化を機械の力に頼れないかと思い地元の販売店に相談したのが購入を考えるようになったきっかけです」。
その時に一番に勧められたのが『田植機用溝切機PDS-2』でした。
3社の製品カタログをもらいましたが、シンプルな構造、溝切り部の丈夫さ、そして何より購入後のクレームがゼロという理由から、佐藤さんは購入を決めました。
「田植機用溝切機に変えたことで、溝切りにかかる労力も時間も、今までの半分以下になりました。田植機に座って手元で操縦するだけなので、溝切り作業後の肉体的なダメージがほとんどないのが嬉しいです。また土日の2日間を費やしていた溝切りが土曜日の1日だけで完了するため、日曜日は子供と遊ぶなど家族と過ごす時間が増えました」と佐藤さんは笑顔で答えてくれました。
土壌の性質上ぬかるみやすく機械が入りにくいほ場は、適期に溝切りをすることで乾きやすくなり、稲刈りなどの秋仕事もスムーズになります。当初心配していたタイヤによって踏まれた稲も、稲刈りの頃には他と区別がつかない程しっかりと起き上がっていると、佐藤さんは話を続けます。
導入にかかる費用についてお聞きすると、本製品と中古の田植機を合わせても、従来のエンジン付き溝切機と同額程度とのこと。
「使い始めて10年経ちますが、一度も故障がなく、泥を洗い流す程度でメンテナンスも不要です」と佐藤さん。今後は、田植機の植付け部が故障しても、自走できるうちは下取りに出さず、次の溝切機用にストックしておくといいます。
低予算で時短・省力化を可能にし、田植機のリサイクルもできる「田植機用溝切機」。限られた時間の中で作業を終えなければならない佐藤さんにとって、手放せない存在となりました。
現場の生の声から生まれる、アイデア農機具づくり
『田植機用溝切機PDS-2』の開発・製作を手掛けるのは創業71年の歴史を誇る、アイデア農機具メーカー『株式会社美善(本社:山形県酒田市)』。
「当社の製品のほとんどが、農家さんの生の声をヒントに生まれています。『蒸し暑い時期に、ぬかるんだ田んぼを歩きながら手押しで溝を切る重労働から解放されたい』という、農家さんの声をもとに田植えの時と同じ幅で、タイヤが通った後にきれいな溝を付けられないかと考え、20年ほど前に田植機用溝切機が開発されました」と、話すのは同社代表取締役の備前仁(びぜん・ひとし)さん。
「溝切機」以外にも、同社では農家の声をヒントに田植機の再利用関連製品を展開。共通ヒッチで付け替えを可能にすることで1台の田植機で「溝切機」、「除草機」、「溝掘機」と3役をこなせることが大きな特徴です。
開発同様、既存製品の改良にも「農家の声」が存分に生かされているのも同社の特徴。
「PDS用のウエイトフックという重りは、佐藤さんのアイデアから誕生した製品です」と備前代表。「もっと早く、深く刺されば、よりきれいな溝が切れる」と自作の重りを付けて使っていた佐藤さんのニーズに対応し、20kgと30kgの2タイプのウエイトフックを製品化しました。
「僕らは作るのは得意ですが、社内ではアイデアは出てこない。アイデアは現場でしか生まれません。だからこそ、生の声を聞くために日本全国どこへでも出向いていきます。播種が始まる3月から7月頃まで、週2〜3日はユーザーさんのほ場に足を運んでいます」。
植付け部が故障した田植機は下取り価格が安いこと、予備で古い田植機を捨てずに持っている農家さんが多いことなど、農家さんに直接話を聞くことで気付くことが多いといいます。現状を知ることが、農業機械の積極的な再利用という発想に結び付きました。
「実はPDSは、高齢者をターゲットにした製品でした。佐藤さんのような体力のある若手農家さんの導入に驚いたというのが本音です。実際に現場へ足を運び、佐藤さんを訪ね、ご家族に会うことで、時短・省力化により家族の時間を生み出していることに気付きました」と備前代表は続けます。
企業の代表取締役がなぜ、ここまで現場に足を運ぶのでしょうか。改めてその理由を訪ねてみました。すると、「モノづくり」の根本とも言える、ユーザーへの思いを明かしてしてくれました。
「SNSを見た時に、農家さんが負い目を感じて遊んでいるのを感じました。機械化により時短や省力化が実現できることで、小さいお子さんがいる農家さん、釣りやキャンプなど趣味を楽しみたい農家が、世代を問わず、そして負い目を感じることなく堂々と遊べるようになって欲しいですね」。
スピード感と情報量で、ユーザーと直でつながる美善スタイル
ユーザーを訪ね、ニーズを拾い、開発・試作・試運転・改良を繰り返しながら、数々のアイデア農機具を世に送り出してきた同社。その中で、サービス提供のスピード感の重要性を実感しているといいます。例えば、農機具の不具合や故障は、作業中に発生します。修理を終えるまで作業がストップしてしまうため、迅速な修理対応が求められています。
「当社の製品の多くは、農家さん自身で取り付けができ、メンテナンスできますので、ウェブサイトから直接部品を取り寄せるユーザーさんが増えています」と備前代表。
機械いじりの好きな方やスピード重視の方からは、メーカーと直接やりとりすることで、修繕にかかる時間が短縮化されると好評です。製品情報や取扱方法など、欲しい情報が見つかる情報量で、スピード感のあるサービスの提供を実現しています。
現在、田植機の再利用の新たな可能性として、畑作への展開を考案中の『株式会社美善』。
「車輪が細く、大きく、車高が高いという田植機の形状を生かし畝間に入っていく作業で、例えばうね立てやマルチ張りなど、マンパワーによる作業を機械化できないかと模索しています。どんなアイデアでもいいので、畑作農家さんの声を聞かせて欲しいです」と備前代表は話します。
「もっとこうしたい」「こうなればいいな」という農家さんの生の声が、『株式会社美善』のモノづくりの原点となっています。
「アイデアは現場でしか生まれない」この言葉を体現し、アイデア製品で農業の現場で起こるさまざまな課題を解決している『株式会社美善』に、「現場の声」を届けてみてはいかがでしょうか。
問合せ先
〒998-0832
山形県酒田市両羽町9-20
株式会社美善
TEL:0234-23-7135
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