ジャンボスイカ品評会とは?
熊本の夏の風物詩としても知られる、ジャンボスイカの品評会。大きいものでは100キロを超えるスイカを生産者が持ち寄り、重さを競う。
JA鹿本園芸部役員植木地区OB会の取り組みによるイベントで、30年ほどの歴史がある。
ジャンボスイカには、食用として出荷しているスイカとは全く別のカロライナクロスという品種が使われる。特に大きな実をつけるスイカで、原産国のアメリカでは家畜のエサや観賞用として栽培されてきた。
ジャンボスイカの品評会が始まった経緯について、同OB会会長の栗原和則(くりはら・かずのり)さんに聞くと「暇にまかせて、遊びで始めたことだけん」という意外な答えが返ってきた。
それでも、ジャンボスイカは見た目のインパクトやコンテストの話題性は大きく、毎年多くのテレビクルーや新聞記者が取材に訪れる。植木のスイカ、そして熊本のスイカの周知に一役買っていることは間違いない。
植木町は、古くからスイカの名産地だったわけではない。きっかけは、1955年に新町制にて植木町が発足した時だった。
合併された町や村の農家が一致団結して競争力を高めようと知恵を出し合う中で、皆でスイカを作ろうという意見が出たという。それまで麦やタバコなどを作っていた農家たちは、次々にスイカの栽培を始めた。
とはいえ、手探りで始めたスイカの栽培にはさまざまな苦労があった。雪の重みでハウスが倒壊したり、大雨で全滅したりというトラブルもあったという。
地域よりも小さいコミュニティー「組」を作り、相互扶助を行ってきた。安定して同じ品質のスイカを作るという点では今も試行錯誤を続けているが、経験を重ねることでノウハウが蓄積されてきている。
農家がより甘くおいしいスイカを作り、JAや行政は広くPRを行う。
「ブランディング」という言葉も知られていない時代に、植木をスイカの町にしようとJA・行政・農家が三位一体となり協力してきたからこそ、今のような植木ブランドが生まれたのかもしれない。
昨年の王者、菊川さんに聞く
2020年の優勝者である菊川敏徳(きくかわ・としのり)さんを訪ねた。
菊川さんが代表を務める菊川農園では、主にスイカとナスを栽培している。毎年11月ごろにスイカの種まきが始まり、ハウスに定植して育てる。出荷は5月から6月ごろだ。
2020年に通常の農作業に加えジャンボスイカを作ってみたところ、重さ114キロ、胴回り158センチのスイカができ、参戦初年度にして優勝した。
連覇を目指し、2021年もジャンボスイカを作ることを決めた。5人の孫たちにそれぞれ担当のスイカを割り当て、一緒に世話をするのも楽しい作業だという。
ジャンボスイカは大きすぎるがゆえに、生育途中で茎が折れてしまうこともある。添え木をしたり、余計な葉を払ったりしながら慎重に育ててきた。ハウスの温度管理はもちろん、梅雨時でも雨が少ない場合は、水を多めにやるなどのこまめな調整も欠かさず世話をしてきた。
ジャンボスイカは品評会の前日に収穫する。大人4人がかりで行う、大変な作業だ。
大切なスイカを落として傷つけぬよう、毛布に包んで慎重に運び出す。
全部で6玉のジャンボスイカがあるが、3つ目を積んだところで軽トラの荷台がいっぱいになってしまうほどの大きさだ。
孫と一緒に記念撮影を行う菊川さんに手応えを尋ねると「100キロ超えとるとは思うばってん、梅雨の間も晴れが多かったけん、今年はどこも育ちが良かて聞くけんね」との答えだった。
結果発表! 2021年のジャンボスイカ
決戦の地、ジャンボスイカ品評会の会場となるのは、JA熊本経済連の第一集送センター。敷地内にはJA鹿本瓜類選果場がある。
出品された77玉のスイカは、どれも信じられないほど大きい。
年を追うごとにジャンボスイカを作るノウハウが蓄積されてきたのに加え、2021年は温暖で降雨量が少なかったことが功を奏したようだ。
いよいよ品評会が始まった。リフトでスイカを運び、昔ながらのはかりを使ってひとつひとつ計量する。
生産者や関係者、複数のテレビクルーや新聞記者などが固唾(かたず)をのんで見守る中、100キロを超える数字が出ると、拍手が上がる。100キロを超えるスイカは合計17玉。前年比で9玉も増えた。
優勝したのは恵義秋(めぐみ・よしあき)さん。
恵さんのジャンボスイカは重さ130キロ、胴回り175センチと過去最高記録を更新する巨大なものだった。
残念ながら菊川さんの2年連続優勝の夢はかなわなかったが、今年も100キロを超えるスイカが2玉できた。菊川さんは「今年は完敗ばってん、また来年リベンジせなんね」と語った。
12年ぶりの記録更新に加え、2位のものでも128キロという豊作ぶりに会場は盛り上がった。集まった新聞社やテレビ局のカメラが、ジャンボスイカと生産者を取り囲む。品評会が終わると、1位・2位のスイカは熊本県庁や熊本市役所などに展示される。
こうして今年も「植木のスイカ」は、テレビや新聞を通じて広く発信される。食用の小玉スイカ・大玉スイカとは異なる品種とは言え、植木のスイカが不動のブランドを保つ上でジャンボスイカの存在は欠かせないと言えるだろう。
編集後記
ジャンボスイカの品評会は、2021年も新聞紙面やローカルニュース番組をにぎわせた。
このどこかゆるくて平和な品評会のニュースを見ながら、熊本県民は「今年も植木のスイカを食べたいな」と思う。
取材帰りに買った小玉スイカは、シャリシャリとした食感にさっぱりした甘みでとてもおいしかった。
スイカの町・植木で、きっと来年以降もジャンボスイカ作りは続いていくのだろう。