有機JAS規格とは
有機JAS規格(以下、有機JAS)は、JAS法(日本農林規格等に関する法律)に基づいた生産方法に関する規格です。有機JASに適合した生産が行われていることを、登録認証機関が検査・認証します。認証された生産者や事業者には、有機JASマークの使用が認められます。認められるのは有機農産物、有機加工食品、有機飼料及び有機畜産物の4品目4規格です。
どうすれば有機JAS認証を受けられるのか
有機JAS認証を受けるためには、農林水産大臣に登録された第三者機関である登録認証機関に申請しなければなりません。登録認証機関は有機JASに適合した生産が行われているかどうかを検査し、その結果、認証された生産者や事業者のみが有機JASの認証を得ることができます。
認証されるのは生産の工程
有機JAS認証制度で対象となるのは農畜産物や加工品ではなく、それらを生産するために経てきた工程です。有機JASは生産工程を評価する制度なのです。有機JASマークが表示のある農畜産物や加工品は、有機JASの生産工程を経ていることが証明されているものとなります。
認証を受けるためには「生産工程管理記録」として、生産から出荷までの工程を日々記録しなければなりません。登録認証機関の検査員は、それらの書類審査と圃場の実地検査によって、有機JASに適した生産がされていると認定します。それによって有機JAS認証を受けることができるのです。なお、検査・認定・認証は、毎年行われています。
登録認証機関は、栽培圃場、種苗・育苗、肥培管理、病害虫管理、栽培計画・栽培記録などを検査します。併せて、認証を受ける生産者や事業者が栽培した農産物などが有機JASで認められていない化学合成農薬や化学合成肥料による汚染がないことや、有機農産物以外が混入されるリスクがないことなども検査の対象です。
農産物の生産方法の基準とポイント
有機農産物の生産は、自然循環機能の維持と増進を図るため、化学肥料や農薬の使用を避けることを基本としています。農地本来の生産力を生かし、環境への負荷をできるだけ低減した方法で栽培されることが原則です。
また自生している農産物においては、採取場とする場所の生態系の維持に支障を生じない方法で採取しなければならないとされています。
生産方法には主に以下のような基準が挙げられています。
- 周辺から使用が禁止されている化学肥料・農薬などの資材が圃場に飛来・流入しないように必要な措置を講じられていること。
- 果樹など多年生の植物から収穫される農産物に関しては最初の収穫前3年以上、それ以外に関しては種まき又は植え付けする2年以上前から圃場の土に使用が禁止されている化学肥料・農薬などの資材を使用していないこと。
- 用具などに使用が禁止されている化学肥料・農薬などの資材の飛散・混入がないこと。
- 種子、菌及び苗には 原則として、有機農産物の生産の方法に適合するものを使用すること。
- 入手困難な場合は天然物資または化学的処理を行っていない天然物資に由来する資材を使用して培養された種子、菌及び苗を使うこと。
- 遺伝子組換えの種子、菌及び苗を使わないこと。
- 使用する肥料はその農地で作られた農産物や周辺の生態系といったその土地の自然に由来する肥料分(堆肥など)で土作りを行うこと。
- 上記の方法では作物が十分に生育しない場合は、有機JASに許容される肥料及び土壌改良資材が利用できる。
- 病害虫防除に化学的に合成された農薬に頼らず、耕種的防除、物理的防除、生物的防除、又はこれらの手段を組み合わせた防除を行うことを基本とすること。
- ただし農産物に重大な損害が生ずる危険が急迫し、これらの方法では有害動植物を効果的に防除することができない場合は、有機JASに許容される農薬に限り、使用が認められている。
「有機」「オーガニック」を名乗るには有機JAS認証を受ける必要がある
農産物、畜産物、飼料及び加工食品は、有機JAS認証を受けていないものは「有機○○」「オーガニック」などの名称や、「自然」「ナチュラル」といったまぎらわしい表示を付けることができません。また認証を受けていないのに、有機JASマークのシールを貼ることも禁じられています。
これに違反すると罰則の対象となり、1 年以下の懲役又は100万円以下の罰金が適用されます。(JAS法第 76 条)また、有機JASの認証を受けずに有機、オーガニックなどと表記し、表示の除去や販売の禁止などの命令が出されているにも関わらず、命令に従わなかった場合、50万円以下の罰金が課されることがあるので注意が必要です。(JAS法79条)
何のための制度なのか
有機JAS制度は有機農産物などの品質を保証する基準を国が定めるために生まれた制度です。この制度がスタートしたのは2001年のこと。
それ以前は1992 年に農林水産省が示した「有機農産物等に係る青果物等特別表示ガイドライン」によって、有機農産物の表示の適正化が進められてきました。これは農産物の安全性への関心や健康志向が高まるなか、「有機」、「減農薬」などの表示のルールないことで混乱が生じていたため、それを適性化するために生まれたガイドラインです。しかし、強制力がないことから、不適切な表示や生産基準の不統一も生じていました。
特に加工食品に関しては明確な規定がされていませんでした。有機栽培された原料を使用していれば、加工・流通段階での取扱いが不明瞭であっても「有機」と表示することができ、消費者に誤認を与えることも懸念されていました。
欧米をはじめとする諸外国では、日本より一足早く食品の国際規格を定めるコーデックス委員会(FAO/WHO合同食品規格委員会)で、有機食品のガイドライン作成についての検討作業が開始され、1999年には、「有機生産食品の生産、加工、表示及び販売に係るガイドライン」が採択されています。
これらの動きを受け、日本にも第三者機関による認証制度が必要となりました。そこで1999年に改正されたJAS法に基づき、有機食品の検査認証制度として創設されたのが有機JAS制度です。
認証を受けるメリット
有機JAS認証は国が唯一認めた有機栽培に関する認証制度なので認められると、生産者や事業者にとって様々なメリットが生まれます。
新たな販路を獲得できる
都市部の大手百貨店の食品部門や生協などの食の安全・安心を重視する食品宅配事業者などと取引する際には、有機JAS認証を求められることもあり、取引先の広がりが期待されます。
信頼性の高い作物を生産できる
有機JASを取得していることが化学的に合成された農薬や肥料に頼らない方法で栽培していることの証明となり、作物への信頼性を高めます。消費者からは中々見えない生産工程が第三者機関によって審査され、一定の基準をクリアしたという事実も信頼性の向上につながります。
有機、オーガニックを名乗れる
認証を取得することで有機JASマークを農産物に貼ることができ、有機栽培やオーガニックといった名称で販売することができます。慣行栽培が中心のマーケットで、有機栽培であることが明確にわかるマークで違いをアピールできることや、栽培方法や品質についての保証があるという安心感があることが販売面での大きな付加価値となります。
有機農産物として輸出できる
有機JAS認証は国際的な認証でもあり、アメリカ合衆国やEU諸国など有機農産物がJAS制度と同等であると認められた国へ輸出をすることができます。
「有機」の名称は諸外国でも表示が規制されており、その国や地域での有機規格への適合性を認められなければ「有機」と表示できません。
ただし、国や地域間で有機の認証体制などについて同等であると認められれば、他の国や地域の有機認証を自国や自分の地域の有機認証と同等のものとして取り扱うことが可能です。これは有機食品の同等性といわれ、日本の生産者や事業者は、JAS法に基づく認定を受ければ、他の国や地域の有機認証を受けずに「有機」と表示した農産物等の輸出が可能です。
輸出を目指し有機JAS認証の取得に取り組む産地や事業者に対して、農林水産省による支援も行われています。これは農林水産省が2030年までに農産物の輸出総額を5兆円とする目標として掲げ、その実現に向け実施されている「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」の一環として行われているものです。有機JAS認証は国際競争力を強化するためにも大きな強みとなることの証といえるでしょう。
世界の有機食品売上が年々増加し、また、日本食が世界的なブームとなっている今、有機農産物の輸出ができることは、ビジネスチャンスを大きく広げる可能性を秘めています。
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農業に取り組む生産者や事業者には、取得によってさまざまなメリットが生まれる有機JAS認証。厳しい審査を乗り越えた証明となり、大きな付加価値が得られる一方で、有機農産物、有機加工食品それぞれの基準に沿った方法で生産しつつ、行程を各種伝票類や作業日誌などで記録し、管理していく必要があります。特に、初めて有機栽培に取り組む方にとっては、ハードルが高いと感じることでしょう。
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次回は「有機JAS認証」の取り方と認証機関の選び方についてご紹介していきます。
参考サイト一覧
一般社団法人 日本農林規格協会(JAS協会)
農林水産省「有機登録認証機関一覧」
農林水産省「有機加工食品検査認証制度ハンドブック(改訂第3版)」
農林水産省「有機農産物の日本農林規格」
農林水産省「有機食品の検査認証制度」
総務省「日本農林規格等に関する法律」
農林水産省「米国と有機畜産物等に関する輸出入の条件に関するプレスリリース」(令和2年7月14日)
農林水産省「日本と EU の有機同等性について」
農林水産省「2030年輸出5兆円目標の実現に向けた農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略の実施」
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