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有機農業の販路あれこれ 令和だからこそできる販売方法と心構え

西田 栄喜

ライター:

連載企画:はじめての有機農業

有機農業の販路あれこれ 令和だからこそできる販売方法と心構え

有機JAS認証制度ができてから20年以上経ちました。「有機」という言葉は一般的になりましたが、日本の有機農業の取り組み面積(有機JAS認証取得農地のみ)は2017年時点で耕地全体の0.2%と言われています。先進国の中でも圧倒的に少ないのが現状です。その理由のひとつが販売の難しさだと思います。今だからできる販売方法と心構えを、無農薬農家歴22年の筆者が伝えます。

セット販売のススメ

我が菜園生活 風来(ふうらい)は22年前に起業しました。その1999年は有機JAS認証制度ができたタイミング。風来は、元々漬物の素材にする野菜を無農薬栽培することからはじまりました。今では生鮮野菜の販売と加工品の販売額は同じです。 

農家になってつくづく思うのは、栽培技術と同じくらい販売能力も必要だということ。農業は天候など自然環境、また市場価格に大きく左右されます。栽培と販売のどちらを優先すべきかは、ベテラン農家でも難しいところです。ただこれからは販売能力を磨くことが生き延びていくのに不可欠だと思います。

私が思う、現在の農産物販売チャネル(販路)はこちら。

  • 市場出荷(生産部会、主にJA)
  • 大型野菜直売所、道の駅
  • 自然食品店・自然食品宅配グループ
  • インターネット販売
    ・個人ホームページ
    ・オンラインマルシェ(ポケットマルシェ、食べチョクなど)
    ・大手通販サイト(アマゾン、メルカリ、ヤフオクなど)
    ・SNS(Facebook、Twitterなど)
  • イベント販売
  • ふるさと納税返礼品

特に大型野菜直売所ができたことで、野菜の販売自体は容易になりました。ただたくさんの生産者が出品しているところでは安売り合戦になってしまいがち。なぜなら「安い」ことは一番分かりやすい魅力だからです。そうでなくても私が感じるのは、野菜単品の単価は低いということ。たとえば1袋150円のもので1万円の売り上げをあげるとしたら、67袋の販売は必要。当たり前のことですが、そう分かった時は本当に農家は大変だなあと思いました。

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安売り合戦の土俵にのらずして単価を上げる。そのために風来では野菜セットのインターネット販売をメインにしています。
1セット2500~3000円のセットなら、4セット売れば1万円の売り上げに達します。もちろんセット売りをするなら、複数の野菜をそろえなければなりません。風来の場合、税別2500円のセットには約12~13種類の野菜が入ります。量をそろえるのが単品販売と同じかそれ以上に大変では、と思うかもしれませんが、ひとつひとつを安売り商品と比較されないこと、セット内容はこちらで決められるので、その時にたくさん収穫できるものを多めに入れられることなどのメリットがあります(あまりに農家の都合を優先すると、リピートしてもらえませんが)。

野菜の食べ方や紹介

野菜の食べ方や畑のマップを書いたチラシを野菜セットに入れて、畑の雰囲気ごとお届け

今は野菜定期便として週1・隔週・月1回の3パターンの予約販売で、セット用に育てた野菜の8割を出荷しています。残り2割は予備として扱い、予定通りかそれ以上に収穫できる時、またできそうな時は、単発で野菜セットを販売しています。さらに野菜が余りそうな時は、直売所や自然食品店で販売する形にしています。野菜定期便という主な販路があることで、販売の不安が解消され安心して栽培ができています。

そんなセット売りをするのに必要なのが、自身の野菜の魅力を伝えるということです。直売所で販売するにしても、農園の連絡先などを書いたショップカードを袋に入れるなど、お客さんとダイレクトにつながることができるよう心がける。また自分のホームページやSNSで情報発信していく。どんなにこだわりがあっても、発信しないと存在しないのと同じことです。慣れないと情報発信も大変ですが、セットだと単価が高いので、手間をかける価値はあります。風来ではSNSの記事キッカケで野菜の定期便を注文してくれている人が何人もいます。中には10年以上続けてくれている人も。3000円のセットを月2回、それを10年。つまり、SNS投稿には72万円以上の価値が生まれたことになります。

最近では出産の内祝いなど、贈答用の注文が増えてきました。これもセットになっているからこそ。単品の商品開発の大切さはもちろんですが、3000円、5000円のセットをつくれるかどうかで広がりに大きな影響を与えます。その価格帯はお中元、お歳暮で多く使われ、また今はふるさと納税の返礼品としての需要があるからです。

食へのこだわり、そして安心感のある有機、無農薬の価値を最大限に引き出してくれるのがセットだと思っています。

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「有機」「無農薬」という看板だけで売れるか?

風来では新規就農の相談をよく受けていますが、「有機、無農薬栽培をしたい」という人がほとんどです。最近は、最初から農法にこだわるのではなく、「どんな農業をしたいのか?」さらには「どんな生き方をしたいのか?」を考え、そこから逆算して農法を選ぶように勧めています。イメージ的にはとてもよい有機、無農薬栽培ですが、実際にやるとなると大変。金銭的コストも労力も慣行栽培より掛かるので、よほど芯を持たないと続けることができないからです。

有機、無農薬で育ててみたい農家もいるし、売ってほしいユーザーさんもいる。一見、需要と供給が均衡しています。ただし長年の実体験からすると、実際に有機野菜に消費者が出せる価格は、慣行栽培もののせいぜい1.2倍まで、さらに有機、無農薬野菜の収量は大ざっぱではありますが全体的に慣行栽培の半分ぐらい。売り値1.2倍に対して、収量半分。このギャップがなかなか埋められません。

EU諸国のように有機栽培が広まっている国と、そうでない国。その差は有機農産物を買う動機の違いにあるのではないかと思っています。EUでは有機農産物を環境のために買うという人が多くいますが、日本の場合は自分や家族の健康のためという人がほとんど。環境面で考えると、輸送エネルギーの掛からない、より近場で作られたのものを買おうという考えにおよぶのですが、自分の健康のためとなると遠くのものでもいい、もっと言えば海外のオーガニックのものでもよくなります。この意識が変わらない限り日本で有機、無農薬栽培のものが大きく広がるのは難しいと思います。

コンパニオンプランツ

トマトと大豆などコンパニオンプランツをいかした風来の無農薬栽培

それでは日本で有機、無農薬栽培農家をやるのは無理かというと、そうではありません。その鍵は、前述の「セット売り」、そして「お客さんと直接つながる」ということです。

農林水産省の青果物経費調査によると、青果物(主要16品)の小売価格に占める流通経費は52.5%。生産者受取価格の割合は47.5%になります(2017年調べ)。

そこから肥料、機械、苗、農薬、人件費、箱代などの原価がかかりますので、販売価格に対して2割から3割が農家の本当の手取りとされています。つまりスーパーで1袋100円のほうれん草を売ったとしたら農家の利益は20~30円程度となります。

たとえば同じ100円で販売するとしても、直接販売であれば流通経費の52.5円が手元に残るので72.5~82.5円の利益となります。1つあたりの利益が3~4倍になる。売り先と直接つながることで大きなメリットが生まれます。問題は大規模化するのが難しいことですが、ある程度の規模までなら効率よくできます。そんなスケールメリットならぬ「スモールメリット」をいかす方法が日本の有機、無農薬栽培農家に向いていると思います。

農法ではなく……

風来を起業した年に有機JAS認証制度ができました。その時に思ったのは、いろいろな栽培方法があるのにもかかわらず、同じ「有機」でくくっていいのかということです。有機農業では堆肥(たいひ)や米ぬかなどから自分で肥料をつくり、工夫をこらした手づくりの資材で防除することもあります。市販の有機認証農薬・肥料を使いつつ有機JAS認証を受けた農業と、そのような農業は性格が異なるので、同じ有機と呼ぶのには違和感があります。

もちろん認証を設けたメリットもあります。大手スーパーでの販売など、大規模流通においては客観的に品質を担保するものが必要だからです。また、それまで減農薬、エコ栽培、有機農法、無農薬栽培など、消費者からは違いが分かりづらい栽培方法が乱立していたところを整理できたのは、おおいに意義があったと思います。

人柄ことお届け

野菜を誰がどう育てているかを知らせることも付加価値(写真は筆者)

ただ、他の農家とどう違いが出せるのだろうかという点では疑念が残ります。今はネット上で何でも調べられる時代。自然栽培や自然農法、自家採種、無肥料、動物性肥料不使用などなど……。

私は同じ有機、無農薬栽培であってもどこまでこだわり、そしてどこまでこだわらないか、その農家自身が線を引く必要があると思っています。そうしないと「業」として続けていくのは厳しいと実感しています。

農法を冠にせず、農法を下敷きにして自分のこだわりや思いを出していく。農法だけを売りにすると、その農法の中で比べられ、差別化できないまま競争になってしまいます。そうではなく、「○○さんが作ったものだから買う」と、作り手への信頼感から選んでもらえると、なりわいとしての持続性につながります。しっかりと過程を説明することで、お客さんと関係性を築く。それが農業を長く続けていくコツです。そのためにも、普段から情報発信を心がける。個人でもこんなに気軽に情報を出せる時代になるとは以前では考えられませんでした。そんな今だからこその武器を活用していきましょう。

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