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農家を目指さないのが農家への近道【ゼロからはじめる独立農家#01】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

農家を目指さないのが農家への近道【ゼロからはじめる独立農家#01】

今、農業の大変革時期。これまでにない価値観で農家になりたい人が増えています。ただどうやれば農家になれるのかなど、簡単そうで分かりづらいのが農業。それは漠然としたイメージが先行しているからではないでしょうか。ひと言で農家といっても兼業農家もあれば農業法人に務める人もいるなど多様化してきました。ここではゼロから独立農家を目指す人に向けて、自身の経験から書いていきたいと思います。

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気づいた人は農に向かう!

私は石川県で少量多品種で野菜を育て販売している、自称日本一小さい農家(耕地面積30アール)、菜園生活 風来(ふうらい)の代表・西田栄喜(にした・えいき)です(代表と言っても私しかいませんが……)。まったくの素人、ゼロから農家になって20年になります。

3年ほど前に「小さい農業で稼ぐコツ」(農文協)、「農で1200万円!」(ダイヤモンド社)という本を出したこともあり、これまでたくさんの視察を受け入れてきました。団体視察も多いのですが、最近は個人視察も増える傾向にあり、個人視察でこれまで200人近くの方に来ていただきました。そんな個人視察の中でも、以前は家族経営農業者が6次産業化や販売方法について学びたいと来ることが多かったのですが、最近はゼロから就農したいという人の相談が多くなってきました。

私は「気づいた人は農に向かう!」と思っています。環境や、経済至上主義、政治、食料問題……なにかがおかしいと感じている人が文字通り地に足をつける農を求める。実際、私自身農家になって価値観が大きく変わりました。農は価値観を変える扉だと思っています。

そういった問題意識がキッカケだったり、ビジネスチャンスがあると感じたからなど、農家になりたい動機は人それぞれ、まさに千差万別ですが、農業を続けられず離農する理由はほぼひとつ。資金が底を尽いた、お金が続かないというところ。中には体を壊してというのもありますが、経営がまわっていればそこまで体を酷使することはなかったという例も多くあり、結果的にはお金の問題というのが一番の理由になるかと思います。

農家になるのは極端に言えば簡単。家庭菜園程度でも野菜を育てて、直売所で売ったりして、農家になったと言えばいいのです(厳密には認定農業者という制度もありますが)。ただ農業だけで経済的に自立する、継続していくというのがとても難しい。自営業というだけでも経営のリスクが高いのに、農業の場合はそこに自然のリスク、また市場リスクによっても大きく左右されるからです。そのリスクをいかに回避していくか。それが継続の鍵になります。

農家を目指さない

そこで私が新規就農相談に来る人に必ず言う言葉が「農家を目指すな、百姓を目指せ!」です。

「百姓」は今、蔑称ということであまり使われなくなりましたが、私は大好きな言葉です。百姓とは百の仕事ができるということ。田んぼをやるなら野菜を育てろ、漁にでろ、冬は縄を編めというのはリスクの分散。自然の脅威に対して百の仕事でもって生き延びてきた。そして歴史の表舞台がどんなに荒れようと生き抜いてきた。そんなしたたかさがあったからこそ、ここまで継続してこられたのです。ちなみに「したたか」とは漢字で書くと「強か」と書きますが、これからは農家に限らず、この世界で生き抜いていくにはしたたかさが必要になってくるコトでしょう。

ベランダからの風景 やればやっただけ風景が変わる

今の農家は総合的な能力が必要になってきますが、中でもITは欠かせない存在。パソコン、スマホは今や農機具と言っても過言ではありません。そういった技術を就農準備のひとつとして位置づける。また手に職ということでは、衣食住に直接かかわるものも有効です。例えば、中古の古民家を100万から200万で購入してリノベーションする。時間はかかりますが、住まいに対するローンがなければそれだけ精神的にも楽になります。生きていくのに必要なものが自給できればできるだけ、お金がかからなくなってきます(子どもの教育費は別)。出るものが少なければ入ってくるものが少なくてもやっていけます。もちろん、外に出て直接お金を稼ぐのでもOK(我が家ではバイトに行くことを外貨を稼ぎに行ってくると言います)。

固定観念をはずす

実際、視察に来て農家になった、そして継続している人々に共通しているのは最初はなんでもしているということ。就農相談で一番困るのが 固執してしまっている人。こうでなければならない。私の理想はこうですと思い込んでいる人。人間相手の商売でも難しいのに、ましてや自然は思い通りになりません。何があっても柔軟に受け止めましょう。

成功の鍵はまず固定観念をはずすこと。農家だからといって農産物を育てて売りさえすればという考えではやっていけません。広い農地があって大型機械もあり、農業技術もあるという農家さんですら大変という世界。そこにつっこんでいくには、別のスキル、武器が必要です。

いろいろな野菜を混植。百姓的な畑

最初から農業一本で食べていけるという考えを捨てる。何せ農産物は種をまいてから収穫するまでだけでもかなりのタイムラグがありますし、基本1年1作なので1種類の技術を習得するには時間がかかります。同時進行で栽培技術、加工技術などスキルを一姓、一姓獲得していく。百のスキルを身につけた時、何にも負けない力が身につきます。

焦らず少しづつ百姓になっていこうと考えたら人によって時間のかかるかからないはあるかもしれませんが、できていくものだと思います。なにせ日本の農家の平均年齢は65歳を超えているという世界ですから。農家になるのを目的にせず手段にしてゆっくりいきましょう。

菜園生活 風来

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