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「ゼロから農家」と「後継ぎ農家」の違い【ゼロからはじめる独立農家#02】

西田 栄喜

ライター:

連載企画:ゼロからはじめる独立農家

「ゼロから農家」と「後継ぎ農家」の違い【ゼロからはじめる独立農家#02】

100ヘクタールと1ヘクタール。どんなに規模が違っても同じ農家と称される。冷静に考えると不思議だと思いませんか? 目指すものが違えばやり方も変わってきます。今の農業事情をとらえて「自分がやりたい農業の形」を明確にしていく、それが農家への近道です。そして、もしあなたが農地や栽培技術の取得から始める「ゼロから就農」の場合、重要なのは「お手本となる農家選び」。その方法とは──?

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多様化する農業~カテゴリー分けして考えよう~

よく新規就農希望者から相談を受けるのですが、考えてみると「就農」ってすごく漠然とした言葉ですよね。「農業したい」「農業に就きたい」とは言っても「工業したい」「商業に就きたい」とは言いません。何が言いたいかというと、それだけこれまでの農業はカテゴリー分けされていなかったということ。

職業的には歴史のある農業ですが、長らく家族でやることが経営の中心でした。それが機械化が進み、近年は大型化が進み育てる作物も専門的に。その一方で少量多品種の農家もどんどん出てきて、加工、販売まで手がける6次産業化という言葉も出てきました。栽培方法もさまざまなものが出てきて一気に多様化してきたのが近年の農業事情といえます。

これまでなら「農業をしたい」でよかったものがこれからはそうはいきません。農業の中でもどのような形態の仕事をしたいのか。そうでないとそれこそ「工業をしたい」「なんでもいいから飲食業をしたい」と言っているのと同じになります。

霜にあたってどんどん甘くなるキャベツ。無農薬栽培で一番苦労した野菜のひとつ

形態の違う農家より近くのパン屋さんを参考に

我が「菜園生活 風来」でもこれまでたくさんの視察をうけてきました。個人視察の場合はうちのことを分かって来ているのでいいのですが、規模や形態、目指しているものが全く違う団体視察の方が来られると困ってしまいます。逆に小規模農家さんの団体が超大規模農家さんのところに視察に行って自信喪失してからうちに来られるなんて方も。

そんな時には「まったく規模の違う、またやり方の違う遠くの農家に視察にいくより、近所の評判のパン屋さんを見た方がいい」とアドバイスしています。メーカー的な製パン工場と町のパン屋さんでは出来上がったものは同じパンでも目指すところが違いますよね。町のパン屋さんがメーカー的なパン工場のまねをしても価格的にはかないませんし、そもそも互いにライバルと思っていないでしょう。そして町のパン屋さんで長く続けていっているところ、人気のパン屋さんには何かしらの特徴があります。例えば天然酵母を使用していたり、米粉、国産小麦にこだわっていたり。また近所の御用達、子ども向けに特化したパン屋さんなどなど。

小さい繁盛店の特徴や大切にしていることを参考にする。そうすることで自分自身のコンセプトも明確になってきます。小規模農家こそ町のパン屋さん、また町で人気の小売業に多いに学び、特徴ある農家を目指しましょう。

「後継ぎ」は掛け算、「ゼロから」は足し算

新たに農家を目指す、新規就農者においても先述したように、どんな農業をしたいのか事前に調査して考えていく必要があります。方向性が違うところで学ぶことは、それこそメーカー的製パン工場で働くのと町のパン屋さんで働くのくらいの差があるからです。

ただどんなに目指す形態の農業を参考にしようと思っても気をつけなければならないのはその農家さんがゼロから農家なのか、後継ぎ農家なのかというところ。もちろん学ぶのは昔からその地で農業を営んでいた農家さん、または農業法人でいいのですが、そこまで一足飛びになれるかというと難しいのが農業の世界です。

どんなに耕作面積、経営規模が大きくなっても昔からの近所の人からは農家のあんちゃんと言われてしまう、それだけ地域との結びつきが強いということです。つまり信用がとても大切で、その信用は一朝一夕にはできません。またその時期に育てる野菜、穀物は基本一年一作。こちらの経験値を積むのにもゼロからだと時間がかかります。

大根の寒干し。知恵を学び伝えるのも農家の役割

農家の後を継ぐというのは例えどんなに規模が小さいとしても地域に根付いていた地盤があり、技術の継承もしやすいということ。少なくともゼロではなく10ぐらいのものを継げます。もちろん今の日本で農家を継ぐというのは大変な決断ですし、苦労も多々ありますが、その苦労はゼロからスタートするのとまた違った意味合いになります。

後を継いでその農業経営の規模を大きくしたり、6次産業化するというのは掛け算の世界。しかしゼロから農業をはじめるというのはまずゼロをイチにしなければなりません。つまり、足し算の世界。このゼロからイチにするというのは10を100にするのと同じくらいの思い切りやエネルギーが必要だと実感しています。

掛け算と足し算の大きな違い。なので目指す農業スタイルが既存の後継ぎ農家さんのところであった場合、もちろんそこを目標にするのもいいことですが、最初はゼロからスタートした農家さんの話を聞いたり、学んだりすることがとても大切になります。

ゼロからイチに、そしてイチから10にするまで地道に足し算。足し算というのは地域の信頼、農業技術の習得、加工技術の習得、また販路の開拓など自分の足をつかって積み重ねていくということです。そのあと、ある程度食べていけるようになってからそのやり方を生き方としてキープするもよし。また人を雇用して規模拡大していくというのもあり。そこからは掛け算の世界になります。

こう書くとゼロからスタートするのはとても大きなハンデと感じるかもしれませんが、ゼロからスタートするのが大変なのはどの世界も同じ。でも農業の場合は今の時代だからこそ、ゼロからやるメリットもあります。その点が分かっているとやるべきことが見えてきて、自分の武器に気付くことができます。

この連載ではまずゼロからイチに、そして10まで積み重ねていく技術の足し算を自分の経験から書いていこうと思っています。

菜園生活 風来

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