栄養価コンテストで実証された栽培技術
長野県佐久穂町、八ケ岳北麓の標高1000mの高原地帯に広がる8haの野菜畑。「のらくら農場」では、化学合成された肥料・農薬を一切使わずに年間50~60品目の野菜を有機栽培しています。代表の萩原紀行さんは今年で就農24年目。収穫のタイミングだけでなく食味や栄養価まで「狙って作る」多品目栽培を目指しています。
重視するのは、土壌分析、施肥設計、そして観察。萩原さんの栽培技術の高さは、オーガニックエコフェスタ「栄養価コンテスト(※)」でも実証されています。2019年はグリーンケールとカブが最優秀賞、レッドケールは優秀賞で、総合グランプリに輝きました。2021年に品目別で3連覇を達成したグリーンケールの抗酸化力の高さは、栄養分析を担当した研究員も驚くほどの数値でした。
※栄養価コンテストとは、一般社団法人日本有機農業普及協会が主催する、全国の生産者が生産物の栄養価の高さを競う年に一度の審査会のこと。対象は米に野菜、果樹そして農産物加工品とさまざまで、ビタミンCや硝酸イオン、抗酸化力など5項目の成分が検査対象となる。
萩原さんは非農家からの新規就農。勤めていた会社を辞め、埼玉県の有機農家で住み込み研修をしたのち、妻と二人で長野県で就農して75aの畑を耕し始めたのは26歳のとき。「当時は有機栽培どころか農業のことをよくわかっていなかった」と振り返ります。
土壌分析でわかった3年間の思い込み
萩原さんが就農した1998年当時、有機栽培の肥料といえば鶏ふんか米ぬかがほとんど。技術体系もまだ確立されていませんでした。研修地の埼玉県と就農地の長野県では、気候も栽培品種も違います。代々農家を営む師匠が堆肥にしていた牛ふん、鶏ふん、米ぬか、籾殻などを、同じように調達することはできず、代わりに何を使えばいいのかもわかりませんでした。
ニンジンは6割が裂根。たまたま良くできても、なぜ良くできたのかがわからない状態。同業者から情報を得ようとするも、会話の内容が「鶏ふんを何袋、米ぬか何袋」では解決に至りません。今でこそ、鶏ふんや米ぬかは成分換算で理解でき、ニンジンの裂根の原因はカリウム過多による水の吸い過ぎとわかりますが、把握する術はまだありませんでした。
「3年間つくり込んだら土ができてくると言われていましたが、土壌分析をしてみるとミネラルのバランスはガタガタで全然できていないことがわかりました。汗水たらしてやってきたのは科学的根拠のないことで、全力で空振りし続けた3年間でした」と萩原さん。農業でちゃんと食べていきたいと考えて、農学の教科書を読んで知識はつけたものの、現場の畑にはまったく生かせなかったと言います。
『BLOF®理論』で腑に落ちた、失敗の原因
机上の論理を現場の実践論に置き換えてくれたのが、株式会社ジャパンバイオファーム代表取締役の小祝政明さんでした。有機資材の販売と技術コンサルティングを行う同社は、萩原さんの就農と同じ頃に伊那市に設立され、今日まで共に歩んできました。
「土壌分析をしなければ資材は売れない」と断られたことが小祝さんとの出会い。説いてくれたのは、自然界の仕組みとミネラルバランスの重要性でした。のらくら農場でナスの花が咲かない原因は、リン酸の欠乏だと改良普及所から言われていましたが、実はマグネシウム欠乏でリン酸が吸えない状態にあり、さらに水が足りていないことが追い打ちをかけていました。もしリンを入れていたら翌年の畑は翌年リン過剰症になっていたでしょう。
「現象と原因はイコールではないと気づきました。トラブルの原因を知るために、まず土壌分析で畑の状態を可視化すること。各ミネラルの働きをマスターして助け合いや反発し合う関係性を理解すれば、何をすればいいのか確実にわかります」と萩原さん。
小祝さんが説いていたことが、後の『BLOF理論』。科学的根拠および植物生理のデータに基づく栽培技術です。萩原さんは『BLOF理論』による施肥設計で、野菜の食味と栄養をデザインできると言います。
個々の農家の集合知が、農業をさらに発展させる
『BLOF理論』の最大の功績は農家同士の会話の質を高めたこと。のらくら農場では、スタッフ全員に『BLOF理論』を教えています。2年目の若手がすごいアイデアを出して、みんなの拍手に包まれたとき、現場のモチベーションは一気に高まります。
新規就農者が『BLOF理論』を実践できるツールとして、式会社ジャパンバイオファームとNTTコムウェア株式会社は、営農支援クラウドサービス『BLOFware®.Doctor』を開発しました。「のらくら農場では、初めて取り組む作物は2シーズン目にストライクゾーンに入れ、5シーズン目に極めます。『BLOFware.Doctor』を使えば、自分の栽培を一回一回、可視化できるので、新規就農者がPDCAサイクルを回して早く正解にたどり着くツールになるんじゃないかな」と萩原さん。
「もし私が『BLOF理論』と出会っていなければ、スタッフと会話ができずに、雇用も人材を輩出することも、出荷グループをつくることもできなかったでしょう」と話す萩原さんの目標は、栄養価コンテストの勝利ではなく、おかわりしたくなる野菜をつくること。
「農作物の価格を上げることができれば、理論上もっと栄養価を狙えます。作物によっては、例えば単価20円アップでビタミンCを2倍の値にすることも可能です。お客様を絶対に損させない自信はあるので、最強の肥料を組んで栄養価とおいしさでお客様に還元できるスパイラルに持っていけたらすごくいいですね」
『BLOF理論』という共通言語で有機栽培に取り組む農家の集合知で、萩原さんの理想を現実にできるかもしれません。その輪の中に、『BLOFware.Doctor』が新規就農者を導いてくれることでしょう。
次回は同じく『BLOF理論』を活用し、収量アップに成功した水稲農家2名の事例をご紹介していきます。
(取材協力/のらくら農場)
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