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レタス農家の求人募集 連絡があったのは「人材紹介会社だけ」【コロナ禍のレタス王国を歩く<後編>】

sawada_akihiro

ライター:

レタス農家の求人募集 連絡があったのは「人材紹介会社だけ」【コロナ禍のレタス王国を歩く<後編>】

コロナ禍で外国人の出入国に大幅な制限がかかるなか、前編では国内でも外国人依存度が最も高い長野県南佐久郡川上村の村長・由井明彦(ゆい・はるひこ)さんに、生産現場の現状と技能実習制度に対する課題を聞いた。現在、生産現場を支えるのは在留資格を「特定活動」に変更した帰国困難な元技能実習生や、失踪した元技能実習生。政府も彼らと人手不足現場のマッチングを後押ししている。ただ、現場を歩いてみると、新たな課題も見えてきた。

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失踪者SNSコミュニティーにも求人が

出入国在留管理庁は昨年4月から、帰国困難になった技能実習生や留学生に加え、コロナ禍で解雇されたり、技能実習の継続が困難になったりした外国人の在留資格を就労可能な「特定活動」に変更するなどの、雇用維持支援を始めている。

その一環として、彼らを採用したい求人事業者と、再就職を希望する外国人のマッチング支援も行っている。2021年7月28日時点で公開されていた89社の求人情報のうち10社は川上村の農家だった。

1_川上村案内板

日本有数の高原野菜の産地である川上村

8月初旬、マッチングサイトに求人を出す川上村のある農家を訪ねた。経営者にマッチングサイトの効果を尋ねると、鼻で笑って、こう答えた。

「再就職を目指す外国人からの連絡はゼロ。その代わりに、人材紹介会社など10社以上から連絡がありました。紹介料は会社によって違いましたが、1人当たり30万円から50万円で外国人を紹介するという営業電話ばかりです」

それでも、最長5年間の在留が認められる特定技能外国人なら、長く日本で働き続けることができるため、高い紹介料を払ってでも採用する価値はあるだろう。

ただ、川上村では例年、11月から3月頃までは畑が凍結するなど、作業ができない。年間を通じた技能実習計画がたてられないため、これまで川上村の農家の大半は8カ月程度の短期間で技能実習生を受け入れてきた。冬場に別の産地で仕事を与えることなどができなければ、特定技能外国人の受け入れは難しい。

7月13日時点で、川上村で農業に従事する外国人は668人。そのうち、404人が最長1年間の特定活動の在留資格で働く。コロナ禍で元技能実習生が特定技能に移行する動きが増えているが、川上村の特定技能での在留者は57人に過ぎない。

最長1年間の特定活動で働く外国人は、農家としても受け入れやすい。失踪した技能実習生などの不法在留者が情報交換をする在留ベトナム人のFacebookグループ「Bộ Đội(ボドイ)」には、川上村も含め、農繁期の短期アルバイトを募集する求人が数多く上がっている。現在、失踪者などの不法在留者でも、特定活動に在留資格変更すれば、週に28時間、働くことが認められている。

原価率は約8割 レタス農家の実態

川上村と同じ佐久地域北部に位置する長野県小諸市のレタス農家「株式会社ハヤシファーム」にも足を運んだ。同社では2004年から中国人研修生(技能実習生という在留資格が創設されたのは2010年)の受け入れを始めた。社長の林和広(はやし・かずひろ)さん(66歳)はこう話す。

「それまでは日本人アルバイトを募集して、最も忙しい収穫期を乗り越えていました。しかし、葉物野菜は機械化ができず、とても重労働。日本人は応募してきても、すぐに辞めてしまう。中国人研修生を受け入れて以降は、ずっと外国人の力を頼ってきました」

2_ハヤシファーム社長の林和弘さん

ハヤシファーム社長の林和広さん。日本人の後継者を探しているという

植え付けから収穫までの短期間での雇用では実習生が集まりづらくなると、冬場も作業のできる群馬県にも圃場(ほじょう)を借り、通年の作業を作って実習生を受け入れた。作付面積は小諸市の圃場を含め、10ヘクタールを超える。

林さんが「日本人はすぐに辞めてしまう」と言うレタスの収穫作業を筆者(40歳)も体験した。収穫期は、朝の4時から11時頃までレタスの収穫作業が続く。レタスが傷つかないように、一つ一つ、根元を専用のナイフでカットする。切断部を水で洗い、段ボールひと箱に12個を詰める。多い日は、一日で500箱を出荷するという。

3_レタスの収穫風景

みずみずしさの残る明け方からレタスの収穫が始まる

段ボールをトラックに載せる作業を3時間ほど手伝ったが、体力には自信のある筆者でも、なかなかの重労働だ。それでも、腰を下ろし、一つずつレタスを収穫する作業と比べれば、随分と楽だろう。

作業は午前で終わりかと思ったが、午後は別の圃場でキャベツの収穫をしたり、収穫を終えた圃場の整備を行ったり、炎天下での作業が続く。これだけの重労働でも、手元に残るお金は決して多くはない。

4_手作業のレタス収穫

葉物野菜の収穫は機械化が難しい

「コロナ以前はひと箱1200円程度が相場でしたが、コロナ禍で需要が減って相場は800円程度になっています。段ボール代や運送費などを差し引けば500円程度しか残りません」(林さん)

年商にすれば1億円程度になるが、農業所得は2000万円程度。そこから人件費などを支払えば、決して儲かる商売ではないと言う。

外国人に頼らざるを得ない現実

外国人労働力に依存してきたハヤシファームも例外なく、コロナ禍で大きな影響を受けた。実習期間中の中国人技能実習生が1人いたが、2021年3月に入国するはずだったベトナム人技能実習生2人が入国できなくなった。

川上村の農家がそうであったように、林さんは外国人の支援団体などを通じ、元失踪者なども含めた3人のベトナム人元技能実習生を採用した。レタスの植え付けが始まる春に働き始めたが、夏の収穫期に残ったのは1人だけだった。2人は「怒鳴られた」「嫌われている気がする」などと言い、仕事を辞めていった。

「屋外の作業だし、大きな声を出すこともあります。初心者なので、教えることもたくさんあります。それを怒鳴られたと言われると、困ってしまいます。臆測で嫌われている気がすると言われたら、もう返す言葉がありません」(林さん)

5_技能実習生

特定活動に在留資格変更し、ハヤシファームで働くベトナム人元技能実習生

特定活動に在留資格変更し、農業で働く外国人の多くが元は別業種の実習生。やはり、重労働には耐えられなかったのかと、林社長は感じている。

同様の話は、川上村の農家からも聞いた。特定活動を取得した外国人を確保しても、定着して働き続けてくれるわけではない。

「特に都市部で軽作業をしていた元実習生などは、徒歩圏内にコンビニもない農村での重労働に音をあげ、辞めていく者も少なくありません」

そう話す林さんは今夏、コロナ禍で職を失った外食業で働く日本人も1人受け入れた。30代とまだ若かったが、半日作業をして、辞めていったという。

6_レタス畑

高原野菜の収穫は外国人なしには成り立たない

「地元のハローワークに求人を出しても、重労働とわかっているから、10年以上前から人は来なくなりました。外国人頼りにならざるを得ないのが現実です。日本人の後継者も減ってきており、このままでは新鮮なレタスが食べられなくなる」

コロナの収束が見通せない中、ハヤシファームで働く中国人実習生も今年で3年間の実習を終え、帰国する。来年は人手を確保できるのか。それは、林さんだけではなく、外国人労働者に依存する佐久地域の農家すべてが不安に思うことである。

高原野菜をどう守っていくのか。コロナ禍で外国人の出入国が止まり、新たな課題が見えた今、対症療法ではない、根本的な議論が求められる。

前編はこちら
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