真夏のキュウリで高単価を実現!戦略的な営農計画
釜石・大槌地域は、中山間地域が多く、傾斜地を利用した段々畑や棚田などの小規模なほ場が点在しています。大槌エリアは湧き水に恵まれ、釜石エリアは沢沿いに農地が開けていることから、内陸部のような農業用のため池は必要ありません。
夏は「やませ」と呼ばれる冷涼な北東風の影響で涼しく、冬は日照時間が長く、積雪もほとんど無い温暖な気候のため、古くから水稲を中心に少量多品目の野菜栽培が盛んに行われてきました。近年では振興作物であるピーマンとキュウリの作付面積の拡大に力を入れています。
釜石地域:キュウリ農家 菊池雄一さんの等身大の営農(就農7年目)
祖父の代から60年以上続く農家で育った菊池雄一(きくち・ゆういち)さんは、富山県立大学の短期大学部を卒業し、岡山県の観光農園に就職。ブドウやイチゴなど果樹栽培を学んだ後、2011年にUターン就農しました。2015年の結婚を機に、遊休農地を借り夫婦で独立就農を果たし、実家も手伝いながら3棟9aのパイプハウスで夏はキュウリ、冬はブロッコリーを栽培しています。
幼い頃から農業をする家族の姿を見て育ち、「自分もそうなるんだろうな」と思っていたという菊池さん。実家でもキュウリを栽培していたこと、進学先で植物病理学を専攻し、キュウリのうどんこ病研究の第一人者に学んだこと、そして経営面でも採算が取れることから、自身の栽培作物としてキュウリを選択しました。
「抑制栽培と促成栽培の間の時期に出荷できるように栽培計画を立てています。主な出荷先が産直のため、キュウリが品薄になる時期を狙って作付することで、戦略的に単価を上げています」。
食べた人の記憶に残り、リピーターになってもらえるよう品質にこだわる菊池さん。「スーパーに並ぶと誰が作ったのか分からなくなりますが、産直は生産者が分かるのが面白いところです。そして何よりも『美味しかったよ』と直接声をかけてもらえることが、大きな励みになります」と農業のやりがいを話してくれました。
釜石地域では、冬場の裏作にほうれん草などの葉物野菜を作る農家が多い中、菊池さんはブロッコリーを栽培しています。その理由を「誰も作っていないものを作りたいという気持ちと、キュウリ用のハウスやハウスのカーテン用シートなど、既存の資材を活用することでコストを抑えながら冬場の収入源としています」と菊池さんは話します。
農業経営を維持・発展させるためには農産物の収量の増加は売上に直結するため必要不可欠な要素と言えます。そのための手段の一つとして経営規模の拡大が上げられます。
しかし、規模を拡大すればその分手間がかかり、手間を省けば品質が低下してしまいます。
「ある程度のものをたくさん作るのではなく、食べた人の記憶に残る美味しいものだけを作りたい。確実に美味しものを届けるためには今の経営規模が最適なんです。無理をしない身の丈にあった営農が維持する秘訣です」と菊池さんは話してくれました。
「今は父のキュウリの方が人気があります。自分の名前のキュウリを探して選んで手に取ってもらえるよう努力し、いずれは父のキュウリを超えたいです。また、釜石地域は海からの涼しい風や昼夜の寒暖差があるため実は果樹栽培にも適した条件が揃っています。岡山のピオーネのようなブドウも作ってみたいですね」と菊池さんは今後の目標を語ってくれました。
『月給制』だから生活も安心! 地域おこし協力隊という選択肢
都市部の人材を積極的に受け入れて、地域協力活動を行ってもらい、その地域への定住を図ることで地域の維持・発展を目的とした「地域おこし協力隊」という制度があります。
大槌地域では農業への従事を地域おこし協力隊の活動内容とすることで地域農業の振興を図っています。
大槌地域:地域おこし協力隊「農業研修生1期生」佐々木佳陽さん(就農1年目)
大槌町生まれの佐々木佳陽(ささき・かよう)さんは酒米やピーマン、キュウリなどを生産する農家で育ち、将来実家を継ぐことを見据えて岩手県立農業大学校に進学しました。しかし卒業後の2021年4月に、親元就農という選択ではなく大槌町の地域おこし協力隊としての途を選びます。
「学校では2年間しか学んでいないので、今の知識や技術がどこまで通用するのか不安がありました。同じ作物でも気候風土によって栽培方法に違いがあるので、大槌町の風土に適した作物の栽培技術やほ場管理についてもっと学びたいと思い、地域おこし協力隊の農業研修生という進路を選択しました」と佐々木さんは話します。
現在、釜石・大槌地域農業振興協議会が運営する「農業入門塾」で少量多品目の野菜作りをしながら、6次産業化の講習会にも通い、大槌町の地域おこし協力隊第1期生として、地域の新たな特産品探しにも取り組んでいる佐々木さんに地域おこし協力隊として農業に従事するメリットを伺いました。
「親元就農の場合、給与面が曖昧になってしまうケースが多く、収量や売上にも左右されます。独立就農の場合は、収穫・出荷の時期までは収入が無く、果樹に至っては植樹から収穫まで数年かかることもあります。その点、地域おこし協力隊として就農する最大のメリットは、毎月安定した収入が得られることです。また、講習会などの必要な情報がもらえたり、協力隊メンバー同士の交流も大きな魅力です」と佐々木さんは話してくれました。
就農前、「自分の知識やスキルが通用するだろうか」という不安を抱えていた佐々木さん。「実際に作物を育てながら学ぶことで、自分に足りない部分がわかるようになりました。今では自分の考えで工夫して作業ができるようになり、先輩農家と専門的な会話もできるようになってきたので、今は日々自身の成長を感じています」と、抱いていた不安は徐々に解消され、日々成長を感じることで農業のやりがいを実感しています。
「大きな機械を動かすのも好きで、得意です」と笑顔を見せる佐々木さんは酒米約10ha、ピーマンハウス10棟を管理する研修先のほ場で、農業用ドローンを使用したカメムシの防除、刈払機での草刈り、田植機・トラクターの操縦を任され、自在に扱えるようになりました。
最後に今後の展望を伺うと「私の任期が終わっても5年、10年とバトンをつないで、農業による地域おこしが継続できるようしっかりと土台を作っていきたいです」と佐々木さんは笑顔で答えてくれました。
無理のない就農に向けて、一人ひとりを個別にサポートします
釜石・大槌地域農業振興協議会では、海と山に囲まれた豊かな大自然の中で自分のペースで就農したい、という夢の実現をサポートしています。未経験でも、様々な野菜を育てながら栽培方法やほ場管理を学ぶことができる「農業入門塾」、安定収入を得ながら就農できる「地域おこし協力隊・農業研修生」など、誰でも無理なく農業を始められる環境を整備し、個々の希望をどうすればカタチにできるかを一緒に考え、ミスマッチのない就農へと導きます。
「来年度のオープンに向けて、釜石市に市民農園の整備を進めています」と話すのは、『釜石市 産業振興部 水産農林課』の大瀧忠和(おおたき・ただかず)さん。
新規就農希望者や地域おこし協力隊など農業未経験の方が実際に作物を育てながら農業について知り、学ぶ場として、そして市外・県外から移住した方が地元住民と交流できる場としての役割も期待されます。
また、ほ場や住宅の紹介、家賃・住宅購入費用の補助、初期投資費用の助成、農業研修費用の補助など、国の支援に加えエリア独自の支援制度も充実しています。
海のある釜石・大槌地域で、プライベートも楽しみながら農業を始めてみませんか。
問い合わせ先
《釜石地域》
釜石市 産業振興部 水産農林課 農業振興係
電話:0193-27-8426
ホームページはこちら
《大槌地域》
大槌町 産業振興課 一次産業活性化班
電話:0193-42-8717
ホームページはこちら
《関係機関》
(1)岩手県沿岸広域振興局農林部
電話:0193-25-2704
(2)岩手県大船渡農業改良普及センター
電話:0192-27-9918
(3)JAいわて花巻遠野地域営農グループ営農センター沿岸
電話:0193-42-7715