「手荷役」を減らそう
まずは下の図を見てもらいたい。産地から東京都中央卸売市場までの距離とトラックでの輸送にかかる時間を示している。農畜産物を大消費地に輸送するため、これまではドライバーによる長時間の運転に支えられてきた。
それが労働基準法の改正により2024年4月1日以降、ドライバーの時間外労働時間の上限が年間960時間に規制される。月平均の規制はないが、ひと月あたりで考えるとおよそ80時間の計算だ。物流業者は違反すれば、「6カ月以下の懲役」または「30万円以下の罰金」が科せられる。
輸送にかかる時間を短縮するうえで改善すべき一つが「手荷役」だ。手荷役とは人手によって荷物をトラックや鉄道などに積み込んだり降ろしたり、倉庫や物流センターで動かしたりする作業のこと。農畜産物の物流ではこれらの作業が機械化されず、人手を要することが多い。農水産品の輸送にかかるドライバーの平均的な拘束時間は12時間で、この4分の1に当たる3時間が手荷役である。
たとえば野菜や果物を運ぶ際に使う段ボール箱。産地や卸売市場での積み降ろしの単位が一箱ずつという光景は一般的だ。代わりに段ボール箱を積み上げておくパレットを使えば、フォークリフトで積み降ろしや移動ができる。一例を挙げれば、10トントラックにタマネギを満載するのに要する時間は人手だけなら2時間半。一方、パレットなら30分と5分の1だ。
コメはどうか。JA全農のコメの取扱量は年間200万トンほど。輸送に使う資材は、おおむね1トンが入るフレコンと30キロが入る紙袋の二つ。それぞれの利用割合は半分ずつだという。紙袋も積み降ろしに人手を要するのは段ボール箱と同じだ。
現在地を特定
JA全農は事態の解消に向けて、パレットの普及にあたってはレンタル品を利用する。条件は「RFタグ」と呼ばれる電子タグを付けていること。専用の機器で「RFタグ」に内蔵されたID情報を読み取ることで、パレットの現在地を特定できる。それによって産地から卸売市場、仲卸や量販店を経由した後、回収して再び産地に戻ってくる循環をつくる。パレットの大きさの規格では国内で最も普及しているという1100×1100センチを採用する。
パレットによる輸送の効率を高めるには、段ボールの規格も見直さなければいけない。現状は産地や品目によってまちまち。同じ品目であっても異なる規格の段ボールを使っていることもよくあること。規格がパレットと合わなければ、そこからはみ出た格好で載せることになり、輸送時のトラブルにつながる。
フレコンの普及目標は2024年度までに60%
フレコンについてはその普及率を2020年度の50%から2024年産までに60%まで高める。併せてJA全農で規格を統一したフレコンの導入を推進する。規格は農水省が推奨するフレコンに合わせて、充填(じゅうてん)量目を1080キロに統一化することを目指す。現在の60キロ単位でカウントするコメのフレコンには、920キロや960キロ、1020キロなどの規格もある。その中で1080キロにするのは、トラックや保管倉庫での積載効率が高いから。
規格を統一したフレコンを推進する目的はもう一つある。JA全農物流対策課は「産地ごとに豊凶によりその年に必要なフレコンの枚数が変わってくる。同じ仕様であれば、産地間で融通することができる」と説明する。
JA全農は産地へのフレコンの配布や回収のほか、使用後の洗浄や補修まですべて請け負う。レンタル料は無料にして、産地に経済的な負担がかからないようにする。フレコンには二次元コードを付けて、パレットと同じく現在地を追跡できるように検討する。
さらに2024年度までに、JA全農は統一規格のパレットとフレコンの現在地を特定するためのデータプラットフォームを構築する。現状はパレットとフレコンともに返却されず、卸売市場や仲卸業者などで長いこと積まれたままになっていることがある。結果的に必要とする場所に行き届いていない。現在地を追跡することで、パレットとフレコンの偏在を減らして、適切な在庫の管理や配置につなげていく。