湘南の温暖な気候と太陽の光に育まれた大玉柿
海風を受けて大きく実り、秋空の下で色づいた大磯町の大玉柿が2021年10月、収穫期を迎えました。完熟で収穫される大玉柿は、10月中旬から11月下旬まで農家の庭先や直売所に並びます。
一般的な柿の重量が約200gであるのに対して、大磯町の大玉柿は350~400g。土壌検定に始まり、剪定は大胆に行い、摘蕾して一枝に着ける実の数を絞ります。さらに摘果を経て、残した実に栄養を集中させることで細胞が膨らみ、食味の優れた大玉柿に育つのです。
大玉柿はさまざまな品種で栽培されていますが、特に人気が高いのが「太秋」です。水分に富み、上品な甘さで、シャキシャキとした食感が特長。「柿嫌いが好きな柿」とも呼ばれるほど、一般的な柿とは一線を画する食味です。そんな大玉柿の想像を超える食味に衝撃を受け、自ら生産者となったのが、大磯うみのかぜファームの清水太一さんです。
大玉柿に魅せられ一念発起。地元・大磯町で新規就農
清水さんは、地元大磯町の出身。大学で農業土木を専攻して、東京の建設コンサルタント会社で農業部門に従事した後、35歳で町役場の職員として帰郷しました。大玉柿との出会いは、農業振興担当として地域を巡回中、柿農家で同町落葉果樹研究会会長の鈴木教夫さんに試食を勧められたのがきっかけ。初めて口にすると、一瞬にしてその食味に興味をひきつけられたと話します。
「柿のイメージを覆す食味に可能性を感じました。ゆくゆくは農業に関わりたいと考えていたので、やるなら大玉柿だと思いました」と清水さん。市場調査を進めると、大玉柿には付加価値がついて流通していること、日本の伝統果物なので風土に合って育てやすく、新規就農者でもチャレンジできる作物として、可能性を見出したと話します。
しかし、非農家の新規就農者には、農地、技術、機材も何もありません。苗木から育てるとなると、何年も無収入が続くのも苦しいところです。それでも農園の立ち上げに踏み切ったのは、神奈川県の農業技術センターで開発された最新農業技術の「樹体ジョイント仕立て」の存在があったからでした。
「ジョイント栽培」とも呼ばれ、一列に定植した苗の主枝を隣りの苗に接木して連結するこの方法。「省力化できて作業も安全、自動化モデルも実証中で従来の一本仕立てよりも経営面積を広げやすく、これからの時代に合った農法だと思う」という、柿づくりの師匠でもある鈴木さんの勧めもあり、「早期成園を可能にする技術で、苗木を植えてから3年目で収穫を目指せると知って就農を決めました」(清水さん)。
“希少な柿”をついに販売へ
清水さんが立ち上げた農園「大磯うみのかぜファーム」には、鈴木さんから借りた15aの園地にジョイント栽培で300株を定植。育てる品種はもちろん「太秋」です。
「(当初は)わからないことだらけでしたが、鈴木さんをはじめ、地域の農家さんの応援や、県試験所の指導員の方に助けていただきながらここまで続けてこられました」と振り返る清水さん。隣の畑で様子を見守ってきた鈴木さんも、清水さんが手掛けた柿は味も見栄えも良いと、太鼓判を押します。
勤めていた時から練っていた営農計画は、ここからが本番。これまで温めてきた「売り方」を試すときがきました。
産地の同町には寺坂地区を中心に約15軒の柿農家がありますが、大玉柿は栽培面積と生産量が限られるため市場には出回らず固定客で完売。希少な柿である所以ですが、生産規模を拡大するためには、ブランドとして認知されるために全国的に販売を広げなければなりません。
清水さんは、この大玉柿を贈答用にパッケージして、ネット直売を中心に地場産品を取り扱う町内の食料品店などにも展開。訳ありでお店に出せない実は、加工品にアップサイクルします。第一弾として、元役場の先輩が隣の平塚市で経営する「ダイニング カプリス」とのコラボで「大磯の大玉柿とほうじ茶のプリン」を商品開発。お取り寄せスイーツとしても販売予定です。
「大玉柿の栽培面積を増やして、産地を盛り上げる営農モデルが作れたら最高ですね。柿は日本古来の果物なので海外の方にも試して頂きたいですし、将来的にはジョイント栽培を軸にさまざまな果樹で農業の新たな可能性を探っていきたいですね」と今後の展望を語る清水さん。一緒に働く仲間も増やしたいと話します。技術コンサルタント事業との「兼業農業法人」として、土木・ITのエンジニアをしながら農業をするワークスタイルも開拓しています。
私たちにも幻の柿を味わうチャンス到来です。柿好きはもちろん、柿が好きでない人にも食べてほしい大磯町の大玉柿。想像を超える食味に、きっと衝撃を受けることでしょう。
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大磯うみのかぜファーム
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大玉柿は、大磯町のセレクトショップ地場屋ほっこりでも販売されます。