漁師の心得 ―コミュニケーション編―
漁師を知る上で大切なのが、彼らが置かれている状況や、暮らしている場所を知るということです。
いつの時代も、誇り高き漁師たち。あなたがその世界に受け入れてもらうためのポイントを押さえましょう。
船上のやり取りは大きな声で
漁師の声が大きいのには、理由があります。漁師たちの職場である船の上は、エンジン音や機械の音などさまざまな音が溢れています。そのため指示はどうしても大きな声になりがちです。ときに強い(乱暴な)口調になることもありますが、これは瞬間的にそして的確に指示を出さなければならないためです。いつも怒っているというわけではないので、無闇に怯える必要はありません。ただし、仕事に油断・怠慢は禁物です。指示を出されたら瞬時に判断し、そして大きな声で返事をするようにしましょう。
あいさつ上手は愛され上手
漁師との上手なコミュニケーションのきっかけ。それは「元気よくあいさつをすること」です。当たり前のことですが、日本全国共通で、一番大事なことです。あいさつをすることは、相手への礼儀であり、「あなた」という人間が今ここにいることの証です。
お世話になる漁師だけでなく、見かけた人には元気よくあいさつをするようにしましょう。あいさつを交わすことで、漁師との距離もグッと近くなります。「人と話すのが苦手……」という人も、まずはあいさつから頑張りましょう。
ポイントは「元気よく」。明るいあいさつができれば、掴みはOK!そこから自然とコミュニケーションが生まれていくはずです。
もし漁師との会話に困ったら、若い頃の話や武勇伝などを聞いてみると良いでしょう。漁師は根っからの仕事好き。きっと喜んで話してくれるはずです。また自然あっての仕事なので、風の強さや風向き、波の高さ、台風の進路など天気予報はこまめにチェックしておくとよいでしょう。会話のネタや、仕事の段取りを一緒に考えるきっかけにもなります。
「信頼」なくして漁師になれず
「漁師の仕事は、周囲と信頼関係を築くことが大切」と、他の記事でも何度も触れてきましたが、なぜ漁師の仕事に信頼関係が必要なのでしょうか。理由はふたつあります。
ひとつは、漁師の仕事は危険と隣り合わせであるということです。船に乗ること自体に危険が伴うため、漁師同士はお互いの命を預け合って漁に出ます。事故などのトラブルを未然に防ぐためにも、周囲との信頼関係が非常に重要なのです。
その他、長期間の航海を伴う大型の漁船漁業では、船の上での共同生活も伴うため、トラブルの発生はたくさんの乗組員を危険にさらすことに繋がります。そのため、就業前の面談の際に人間性を問われる場合もあります。
もうひとつは、漁業はさまざまなルールのもと成り立っているということです。海は漁師の個人的な所有物ではなく、みんなの共有資源です。
漁師は、海で魚を獲ったり、育てたりするための一時的な許可や権利を受けて漁業を行っており、そこには使っていい漁具や船、漁をしていい区域や期間など、海を守るためのさまざまなルールが定められています。ルールを守らなかったり、常識を逸脱したりするような行為はあってはならないことなのです。
このように、漁師の仕事は「命」と「海」を守るという重要な責務を持ち合わせています。だからこそ、信頼関係のもとに成立しているのです。
信頼関係を築くのは難しいと思われがちですが、特別なことをする必要はありません。信頼を失うような行為をしなければ良いのです。あいさつをきちんとすること、仕事に真摯に臨むこと、ルールをきちんと守ること、相手を思いやること。小さなことから積み上げていきましょう。
漁村と生きるもの
日本全国津々浦々、漁村部の高齢化・人口減少が問題となっています。自治体によっては積極的に移住サポートや漁業の担い手を増やす取り組みを行っていますが、沿岸漁業を営む漁村部では「地域の一員」となる自覚を持つことが求められます。
日本の漁業は、代々その土地に住む人たちがルールを決め、助け合いながら行ってきたため、漁師である前に地域の一員であることを大切にしています。漁村部では、山の手入れや草刈り、消防団、地元のお祭りなど、多くのことを自分たちで行っていて、助け合いと分かち合いの精神に溢れています。「漁業の担い手=地域の担い手」と自負し、ぜひ地域活動に積極的に参加してみましょう。
漁村部は都会に比べると、お互いのことが丸見えなので慣れるまでは大変かもしれませんが、いつも地域に見守ってもらっていると思って、漁村暮らしを楽しんでください。
漁師の心得 ―服装・アイテム編―
実際に漁業体験に参加したり、漁師のお手伝いをするとなったときに困るのが服装です。「汚れてもいい格好」と言われても、どんな服装で臨んだらいいかわからない!という人も多いはず。気になる漁師の服装や、気をつけるべきポイントを紹介します。
身だしなみのマナー
漁師の仕事は、営業に行くわけでも、接客するわけでもありませんが、最低限の身だしなみのマナーがあります。身だしなみを整えることは、安全性確保のほか、仕事の効率をあげるためにも役立ちます。
- 爪は短く整える
- 風になびかない髪型に
- 裾、袖はジャストの長さに
爪の長さ
長い爪は怪我のもとになりますので、短く整えておきましょう。漁師は食べ物を扱う仕事でもあります。消費者心理を忘れず、衛生面へも配慮しましょう。
髪型
海上は陸上よりも風が強いため、視界が遮られるヘアスタイルはNGです。作業中は髪をかき分ける暇がありません。長い場合はゴムで縛る、目にかからないような長さに整えるなど、作業の邪魔にならないようにしましょう。
袖、裾の長さ
作業の際、動きやすさを損ねるような服装は厳禁です。袖が長すぎると作業の邪魔になったり、機械などに巻き込まれたりする可能性があります。同様に裾が長いと、踏んづけて転ぶ原因になることも。袖も裾もまくる必要のないちょうどの長さの服がおすすめです。
漁師の服装の基本
服装は動きやすく、汚れてもいいものを作業に応じて選びます。 体温の調節がしやすいように着脱可能なものを重ね着するのがおすすめです。気温や作業に合わせて半袖・長袖を選びますが、漁師の仕事は擦り傷・切り傷ができやすいので、迷ったら薄手の長袖を着ましょう。
漁師のユニフォームであるカッパは、 防水・防汚の役割はもちろん、風を通しにくいので冬場は防寒対策にもなります。 上着はフードを被れば雨よけにもなって便利です。
- 長靴を履いてから足を通します。
- 肩紐(ベルト)を止めます。
- 肩紐を調整します。
- 腰のだぶつきが気になるときは、脇のボタンや付属の腰紐(ゴム紐)で調整をします。
- 軽く動き、動きづらくないかチェックします。
- 足元も要確認! 裾を踏んでいると滑って転ぶ原因にもなり危険です。
帽子とねじり鉢巻きの秘密
屋外での仕事が多い漁師たちは、太陽の光を遮るために帽子を愛用しています。 風がある海の上でなぜ飛ばされないのか……それは常に、風を読んで仕事をしているから! 漁師の体の一部とも言えます。
漁師の代名詞「ねじり鉢巻」も根強い人気。 汗が目に入らないように額で食い止めてくれたり、ほどいて首からぶらさげれば汗拭きタオルにもなるので、かなり実用的です。
また大型の漁船漁業では、ヘルメット着用が義務付けられています。
海の男の視力
海の男たちにも、 メガネ派、コンタクト派、それぞれいます。 視力に自信のない方も矯正すれば大丈夫。ご安心ください。
漁師のメガネの選び方もさまざま。色付きメガネやサングラスで眩しさを軽減したり、最近人気のUVカットの機能を選ぶ漁師もいます。一方で作業や天候によって水滴や汚れがつきやすく、視界を遮られるデメリットも。潮風の影響で金属部分が錆びることもありますが、最近はプラスチックやチタン製のメガネフレームが主流になっているので、フレーム自体は錆びにくくなってきています。
コンタクトは動きやすいため若者を中心に人気ですが、作業中に目にゴミが入ってしまったときなど「外したい!」と思ってもすぐに外せない弱点もあります。そのため、作業に合わせてメガネとコンタクトを使い分ける人もいます。
救命胴衣を必ず身につけよう
漁船で作業をする際は、救命胴衣の着用が義務付けられています。救命胴衣を身につけず海に落ちた場合、自力で体を浮かせて呼吸を続けることは容易ではなく、短時間であっても体力を消耗します。特にカッパや長靴の状態で海に入ると、とても重いため危険です。
救命胴衣を着用していた場合の生存率は、着用しない場合の2倍以上。救助する際、船への引きあげがしやすい利点もあるので、助けてくれる仲間のことを考え、必ず国の安全基準を満たした救命胴衣を着用するようにしましょう。
※「令和2年海難の現況と対策~大切な命を守るために~」(海上保安庁)をもとに一般社団法人フィッシャーマンジャパン作成
漁師を知ることがまず初めの一歩
心構えから身だしなみまで、漁師の世界に飛び込む準備は整いましたか。自然と隣合わせの漁業の世界では、自分の身は自分で守るしかありません。
自分に合った服装を選び、漁師への仲間入りの準備ができたら、ぜひ漁師たちのもとに飛び出してみましょう。
現地でしか経験できないことがたくさん待っているはずです。
関連サイト:TRITON JOB「【漁師入門】新人漁師の心得」「【漁師入門】漁師コレクション2020」