熊本県の南端、フルーツの里
熊本県南部、宮崎県との県境にある球磨(くま)郡錦町には、のどかな田園風景が広がっている。
さまざまなフルーツの産地として知られ、人口は1万人ほどの小さな町だ。
まるふくファームの福山弘樹(ふくやま・ひろき)さんは、祖父母とともにこの錦町で果樹園を営んでいる。
1ヘクタールほどの面積で栽培する梨をメインに、桃は30アール、ブドウは10アールほどの畑で作っている。
基本的には家族4人で作業をしており、繁忙期には知り合いや親戚に手伝いを頼んでも多忙を極める。ブドウの花が咲く季節には、夜まで作業が続くことも珍しくない。
収穫する時期をずらすために、梨は7品種、桃は8品種、ブドウは5品種作っている。取材時は梨の最盛期で、「秋麗」の出荷がピークを迎えていた。収穫のタイミングは、表面を触ってみて、わずかな触感の変化で判断するという。トレードマークの編み込んだ髪、ドレッドヘアを木にぶつけまくりながら、福山さんの作業は続く。
秋麗の畑を見せてもらった。福山さんは、木と木をつなげて育てる「ジョイント栽培」にも精力的に取り組んでいる。新しい手法ゆえに手探りの部分もあるが、成長を早めることで収穫までのサイクルが短くなる利点があるという。味見させてもらった秋麗は、みずみずしく爽やかな甘みがあった。
「令和2年7月豪雨」災害の影響
2020年の7月、のどかで美しい町を突然の豪雨が襲った。普段は農作物に豊かな恵みをもたらしてくれる球磨川が、「令和2年7月豪雨」で氾濫したのである。
水没した街の様子が頻繁に報道されていたのは隣接する人吉市だが、錦町はその上流側に位置しており、浸水した地域もある。
まるふくファームの畑は球磨川から離れており、幸いなことに浸水被害は受けずに済んだものの、大雨にさらされた影響は小さくなかった。そもそも雨に弱いブドウは、梅雨時などには病気に注意が必要だ。豪雨の後にブドウの病気が出始め、さらに収穫間近にまで育ったブドウの中には、大雨で実が割れてしまったものも少なくなかったという。
また、人吉・球磨地域全体への豪雨災害の影響は大きく、鉄道や主要な道路が不通となった。
まるふくファームが果樹を卸している「道の駅 錦」への遠方からの客足も激減したという。もともと熊本県内をはじめ鹿児島県や宮崎県からドライブでやってくる買い物客も多い立地だが、コロナ禍と豪雨災害により以前のような集客は望めない状況が続いている。
取材した2021年8月にも長雨が続いたため、栽培途中のシャインマスカットの粒が割れる事態が起きていた。
粒の数が多いシャインマスカットはそれなりに手間もかかるが、人気の品種だ。雨の多い土地でおいしいブドウを安定的に作るためにはさまざまな苦労がある。雨よけなどの基本的な対策をしながら、この土地に合ったおいしいブドウを作るための試行錯誤がこれからも続く。
自分を覚えてもらうのに、大好きなものが役立つ
レゲエ好きの福山さんは、個性的なドレッドヘアがトレードマーク。
農産品の生産者を紹介する「農カード」にもドレッドヘアで登場している。
髪型について聞くと、こんな答えが返ってきた。
「もともとレゲエが好きでドレッドにしているのですが、インパクトがあるのですぐに覚えてもらえるという利点があります。道の駅に置いている商品にも農カードを付けていますし、髪型で目を引く、すぐに覚えてもらえるというのは強みになるかな、と思っています」
ドレッドヘアは親しくしている美容師の知人に無理を言って、およそ8時間もかけて作ってもらっている。これ以上髪が長くなったら手間がかかりすぎるからもう嫌だ、と言われているという。
ドレッドヘアの農カードをきっかけに、まるふくファームの果物を手に取ってもらう。一度味を知ったことでリピーターになってくれる人もいるほか、SNSを通じての注文も増えてきた。
大好きなもの、自分らしいスタイルを貫くことで差別化ができ、ブランディングにつながっている。
編集後記
夫婦二人三脚で6人の子供たちを育てながら、おいしいフルーツ作りを追求している福山さん。豪雨災害から復興途中の球磨地方にあって、販路の開拓にも精力的に取り組んでいる。
福山さんへ将来の夢を尋ねたところ、「一つは畑でレゲエイベントを開催すること。もう一つは球磨地方で一番おいしいブドウを作れる農家になること」という答えが返ってきた。レゲエが流れる畑で育つおいしいブドウ。これからのまるふくファームが楽しみだ。
まるふくファーム
https://www.facebook.com/marufukufarm27