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ひとりで働くだけが漁師の仕事じゃない! 雇用型の若手漁師インタビュー

ひとりで働くだけが漁師の仕事じゃない! 雇用型の若手漁師インタビュー

宮城県石巻市の海苔漁師のもとで働く磯島雄大さん(25歳)は、岡山県出身。漁業就業支援フェアに参加したことをきっかけに、漁師の世界に飛び込みました。海苔養殖は船や設備投資に莫大な金額がかかり、また多くの人の手を必要とするため、一人ではできず、独立することが難しい仕事です。漁師歴5年目、今では後輩の指導役にあたる磯島さんが、どのように漁師の仕事と向き合ってきたのかを伺いました。

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21歳の誕生日。すべてはそこからはじまった

Q.漁師になったきっかけは?

昔から「この仕事をしたい」という明確なものがなかったんです。高校を卒業して、なんとなく大学に行こうかなと予備校に通ったけど、うまくいかなくて。漠然と「東京に行ったら何か変わるかも」と思って、東京で不動産や建築関係の仕事をしている父の手伝いをはじめましたが、やっぱりやりたいと思えることが見つからなかった。そんなときにふと、農業とか漁業とか、自然の中で働く仕事はどうなんだろう?と思ったんです。子供の頃から、海や川によく連れて行ってもらっていて、それがすごく楽しかった。農業はなんとなく想像がつくけど、漁業はどんなことをするんだろう?……そんな好奇心から、漁業の仕事を調べはじめて、「漁業就業支援フェア」というものがあることを知りました。その日は自分の21歳の誕生日で、きっとすべてがうまくいく。なんだかそんな予感がしていたんです。

21歳の誕生日。すべてはそこからはじまった

就業フェアでいくつか回った中でも特に印象的だったのが、今の就業先の浜を管轄をしている宮城県漁協石巻地区支所。すごく熱心というか、本気で漁業の担い手を探しているんだという熱意が伝わってきて。後日お電話で、「若い人と働いてみたいという海苔漁師がいるんだけど、一度来てみない?」と連絡をいただきました。岡山から宮城は遠いとよく言われますが、自分はあまりそうは思っていません。どちらの県も、何かあれば飛行機も新幹線もある。連絡をもらったときも、なんとかなるだろうという気持ちで車に荷物を積んで、岡山から石巻に向いました。

ワンポイントアドバイス

漁業就業支援フェア
情報を提供し、新たな漁業の担い手を確保・育成することを目的に一般社団法人全国漁業就業者確保育成センターが行っている国内最大規模の就業フェア。東京・大阪・福岡などで開催され、日本各地の漁師や漁業会社と直接話ができるほか、地域情報や支援制度などの資料も多く揃います。

2019年の漁業就業支援フェアで磯島さんが石巻市の新人漁師代表として参加者にアドバイスを行っている様子

2019年の漁業就業支援フェアの様子。フェア参加経験者でもある磯島さんは、石巻市の新人漁師代表として、参加者にアドバイスを行いました。

Q.研修から就業への流れはどのように決めた?

漁協さんから紹介された海苔漁師の千葉さんは、ご両親と、忙しい時期は同じ地域の漁師の手を借りて仕事をされている方で、「若い人と働いてみたい」とずっと思っていたそうです。自分はすごく人見知りな面があるんですけど、親方はいつも同じ目線で話してくれるし、意見を求めてくれるので、すごく話しやすくて。自然体でいられるような雰囲気作りをしてくれたので、すぐに馴染むことができました。

親方の千葉さんとお父さん、磯島さんの写真

写真右から親方の千葉さんとお父さん、磯島さん。本当の家族のようなアットホームな雰囲気。

最初は2週間の研修という話だったんですけど、自分としては2週間とは言わずに自分がやれる範囲でやり切ろうと思っていたので、8月から働き始めて、結局漁期が終わる5月まで一度も地元に帰りませんでした。仕事の内容というよりも、岡山で育っているので、東北の冬の寒さに耐えられるだろうか……というのが一番心配でした(笑)。寒いのは寒いですが、なんとか耐えられたし、いつの間にかここにいることが当たり前になっていました。

Q.故郷を離れての暮らしは?

最初の頃は、石巻市が整備している新人漁師専用のシェアハウスで暮らしていました。多いときで5人くらい住んでたんですけど、それぞれ他県から漁師や水産仲卸で働くためにやって来ていて、年齢や境遇が似ていたこともあり仲が良かったです。それぞれが就業先から食べ物をたくさんいただいて帰ってくるので、食べ物には困りませんでした。逆に太りましたね(笑)。職場以外で話せる仲間がいるというのは、すごく心強かったです。

シェアハウスに同世代の仲間が遊びに来た時の様子

シェアハウスに同世代の仲間が遊びに来た時の一コマ。若者たちの交流の場所にもなっています。

とにかく必死だった1年目。負けず嫌いに火がついて

Q.漁師の仕事は、やってみてどうだった?

親方を見たときの第一印象は、「体格がいい」ということでした。体格というか、体幹というか……とにかく体ができあがっているんです。実際に仕事をしてみたら、何をするにも道具や資材が重い。忘れられない出来事があって、働きはじめて1ヶ月過ぎたあたりで、人生初のぎっくり腰になってしまったんです。ちょうど海苔の種付けで、他の漁師と一緒に作業をしなくちゃいけない時期だったので、申し訳なさでいっぱいでした。もともと自分は体が細い上、肉体労働に慣れていなかったので、体の使い方がうまくなかったんだと思います。

石巻にやってきたばかりの頃の磯島さんの写真

石巻にやってきたばかりの頃に撮影した写真。親方と並ぶまでもなく、今よりも体の線が細い印象。

そのときの悔しさというか、申し訳なさが忘れられなくて……改めて、体が資本の仕事だということを実感したし、それからは体力づくりのためのランニングや、筋トレやストレッチ、健康管理などをしっかりするようになりました。

ぎっくり腰になる2日前に撮影した写真

漁師の仕事は力を使う仕事だけでなく、かがんだり、腰をひねる作業も多い。ぎっくり腰になる2日前に撮影した写真。

Q.一番最初に苦労したことは?

船を止めるとき、筏での作業、網の修理と、漁師の仕事は「結ぶ」「繋ぐ」といったロープワークが必須になります。仕事で必ず使うし、絶対に失敗できないので、早く覚えなくてはと家に帰ってからも練習をしました。ただ覚えるだけじゃなくて、どうやったらもっと早く結べるかを考えてみたり、とにかく自分のものにしようと、家中のロープというロープを結んだりしていました。自分の場合は、できないことが悔しいというか、とにかくできない自分が嫌いなんです。人ができているんだから、できないわけがない! 性格は昔から変わってないんですけど、いい意味で漁師の仕事は、自分の「負けず嫌い」の一面を引き出してくれたんだと思っています。

ロープとロープを結び目なく繋いだり、輪っかにしたりする「綱さし」をする磯島さんの写真

ロープとロープを結び目なく繋いだり、輪っかにしたりする「綱さし」も今ではお手の物。

Q.海苔漁師の働き方は?

海苔養殖は、お盆過ぎから種付けがはじまって、収穫が終わる4月までは基本的に荒天日休み。一方で、5~7月は種牡蠣の作業もやっていますが、週1休みがあります。自分はいつもGWと絡めて2週間くらいのお休みをもらっていて、そのときに地元に帰省しています。メリハリのある働き方だと思います。

1年間のスケジュール

繁忙期と閑散期のある日のスケジュール

Q.漁師の仕事のやりがい、大変なこと

海苔養殖でいうと、種付けをして成長を見守って、収穫をして、製品(乾海苔)にするところまでが仕事なので、全工程に携われるのは楽しいし、いい評価をもらえるとやっぱり嬉しいです。大変なことは、自然の力に振り回されるということ。自分は今年から種牡蠣作業の一部を任せてもらったんですけど、原盤を海に入れる時期だったり、それをあげるタイミングだったりがすごく難しくて。自然相手の仕事なので、人間の力では及ばないこともあるんですけど、少しでも自分で対応できる力や知識をもっと身につけたいと感じています。

漁師の仕事のやりがい、大変なこと

一緒に仕事を考える仲間として、自覚を持つ

Q.今、どんなことに挑戦している?

1年目は1年目でやらなきゃいけないことがあるように、5年目を迎えた自分がやらなくちゃいけないことがあると思っています。実は、自分の下に二人新しいメンバーが入ってきたんです。19歳と21歳。自分より若い二人が入って、職場の雰囲気もすごく明るくなりました。自分がずっとやっていたポジションを彼らがやってくれているので、今度は自分が親方がやっていたことをやらなくちゃいけない。常にどうしたら効率的にできるかというのを考えています。親方と相談しながら指導の仕方も考えているんですけど、人に教えるのは難しいですね。二人とも個性があるので、お互いのいいところを伸ばせるようにと思っています。

親方の千葉さんと磯島さん、若いメンバー二人の写真

親方の千葉さんと磯島さんのもとに若いメンバーが加わり、さらにフレッシュなチームになりました。

Q.漁師の仕事は稼げる?

自分としては、月の給与+海苔の業績に応じてボーナスもいただいているので、十分もらえていると思います。去年から一人暮らしをはじめましたが、毎月の生活費や車のローンの支払いを引いても手元に十分な生活費は残っていますし、毎月の貯金もしていて、好きなことに使えるお金も貯めるようにしています。ちょっと前に30万円くらいのベッドを買ったんですけど、みんなにびっくりされました(笑)。
就業先の体制でいうと、昨年大きな変化がありました。親方が、長い目で自分たちと一緒に働くことを見据えて、個人経営から会社経営に切り替えたんです。すごくありがたかったし、安心できる部分もあります。会社にできるというのも、しっかり稼げている証拠と言えるのかもしれません。

ワンポイントアドバイス

漁業の法人化
沿岸漁業の多くは家族単位=個人経営がほとんど。しかし近年は、漁師同士で合同会社を立ち上げたり、水揚額に応じてまたは体制が整う中で、法人化する漁師も増えてきています。雇用型の場合は、就業先の社会保険の有無で仕事を決める人も多くなってきています。

Q.雇用型で働く人へのアドバイスは?

自分はいつも、どうしたら良くなるかというのを一緒に考えて、やれることを精一杯やっているだけなのですが、仕事に関しては「やらされている」という意識は全くありません。多分、「ただの従業員」と思ってしまった時点で、仕事が楽しくなくなってしまう気がしています。信頼して仕事を任せてもらえるように、きちんと当たり前のことをできるようになることはもちろん大切ですし、自分らしく働くためにも、働く環境や人間関係はずっと大切にしていきたいと思っています。

同世代の働く仲間と磯島さんの写真

たった一人で飛び込んだ漁師の世界。今では同世代の働く仲間もでき、浜にはいつも笑い声が響いています。

雇用型という、シンプルで新しい働き方

漁師の仕事は、独立して経営者になることだけがすべてではなく、「親方の右腕になる」「みんなでひとつのチームをつくる」といった働き方もあります。磯島さんをはじめとする若者たちを受け入れる親方の千葉さんは、彼らを「労働力」と思ったことは一度もありません。大きな可能性を秘めた未来ある若者をサポートしていくことが自分たちの役目であり、彼らと一緒に働くことで、もっともっと成長できると感じているそうです。

関連サイト:TRITON JOB「集え若者。希望の旗を掲げよう。

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