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【イベント開催レポート】日本農業が進むべき道を探る「農政フォーラム2021~食料自給国家の実現に向けて~」

【イベント開催レポート】日本農業が進むべき道を探る「農政フォーラム2021~食料自給国家の実現に向けて~」

2021年11月17日(水)、北海道札幌市のホテルポールスター札幌において、松下政経塾の主催による「農政フォーラム2021~食料自給国家の実現に向けて~」が開催されました。寺島実郎氏による基調講演、塾生の波田大専氏の研修報告、これからの日本の農業を語り合うパネルディスカッションという3部構成で行われたフォーラムの様子をレポートします。

「食料自給率を改善して、安全で安定した国家を」

平日の夕方という開催にも関わらず、会場に集まったのは235名、オンラインでも138名が参加したフォーラムは、元NHKアナウンサーで現在はフリーランスで活動しながら農業も営む総合司会、太細真弥さんの紹介により、松下政経塾 塾長 遠山敬史氏がご挨拶を行い、フォーラムの流れを説明しました。

■第1部 基調講演「日本の農業の現状と今後の展望」
一般財団法人日本総合研究所会長 多摩大学学長 寺島実郎氏

多数の著書を持ち、テレビ番組でも活躍する寺島実郎氏。今回研修報告を行う波田大専氏と出身高校が同じという大先輩にあたることから、今回の依頼を快諾したそうです。「工業による【ものづくり】を推進した松下氏が遺した政経塾が、波田さんのように農業分野にも踏み出していることに大きな意味がある」と寺島氏は語ります。戦後の日本が工業生産力によって発展してきたのは紛れもない事実。しかし、2000年から20年の間に世界GDPにおける日本のシェアは14%から4%まで下がっています。一方でアジアは7%から32%に上昇しているのです。寺島氏は「日本はアジアの中で静かに埋没しようとしています。では日本はこれからどうすべきなのか?」と問いかけます。
「本来の意味でのDX化、自らの会社が持っているデータをどれだけ生かせるかを今一度真剣に考えてもらいたい。先端的産業技術を用いて、今まで見過ごされてきた食料自給率の改善することも可能です」。日本の食料自給率は2020年現在、37%です。先進国の中でも群を抜いて低い数字となっています。「貿易の自由化が昨今問題とされていますが、食と農にも付加価値を生み出すことで成長は十分可能なのです」。生産はもちろんのこと、付随する加工、流通、そして調理分野まで全てにおいて戦略が必要と話します。「日本の第一次産業はGDPに占める割合はわずか1%です。これを改善しながら、医療・防災産業の基幹化を同時に進めて、安全で安定した国家を築いてもらいたいものです」。

「国民の生命を守るためには、まず十分な食料確保が大切です」

今回のフォーラムは、松下政経塾第39期生の波田大専氏による研修成果発表の場を兼ねて開催されました。北海道大学卒業後、ホクレン農業協同組合連合会に勤務している時代に日本農業の危機を実感した波田氏。自らがその状況を打破する力を身に着けるべく、入塾を決意したそうです。

■第2部 研修報告「農政ビジョン2040~食料自給国家の実現に向けて~」

波田氏がホクレンに勤務している際から、各地の農家は人材不足という課題を抱えていました。その打開策の一つとして先端技術を使用する「スマート農業」の推進が検討されます。しかし、その導入には立ちはだかる壁がありました。「例えば無人トラクタの使用時は人間が見守らなければいけない。ドローンの場合は操作する人の他に1名が現場で監視しなくてはいけない。人手不足を補うために人手がいる矛盾があるのです」。現状のままでは日本の農業は変わらないと実感すると同時に、地球規模での食糧危機が訪れる懸念も感じた波田氏は「自分が法整備に関われる政治家になる必要がある」と決意し、松下政経塾へ進み、4年間の研修を経て【6つの提言】をまとめました。

① 有機農産物の学校給食導入
有事を想定し、肥料や農薬など海外資材に頼らずに生産できる農地を拡充。給食導入により安定した供給先を確保しつつ、食育を進める
② 農地の指定管理
経済的な採算が合わず耕作放棄地となってしまう農地を公営化。農地の保全を行いながら新規就農者向けの研修場所としての役割を持たせる
③ 国が賠償責任を負う先端技術の規制緩和
世界をリードできる技術力を生かし、労働力不足を補える「スマート農業」の推進を加速するために、国が賠償責任を負うこととする
④ 農村における日本語学校の設立
労働力不足を外国人労働者で補うため共生しやすい環境作りを行う。日本語だけではなく生活習慣や文化も学び、地域との交流を深められるようにする
⑤ 潜在的な国内労働力の誘因
2040年までに105万人減少するとされる農業従事者。現状100万人いると言われるひきこもり状態の人を農業へ誘因し、自立を支援する場に。高齢者などの活躍できる場も作り出す
⑥ 予備農家の養成
予備自衛官制度のように、有事の際、食料生産に携われる人材を確保する。義務教育での農業体験などを経て、自分で食料を生産する自覚を促す

「日本はたくさんの課題を抱えていますが、全ては『国民の生命』があってこそ。そのために『十分な食料』を確保することが重要」と波田氏は訴えます。コロナ禍でのマスクのように失われてからありがたみに気づくのでは間に合いません。「日本も食料自給国家の実現に向けて取り組むべき時です」という言葉で発表を締めました。

各分野のスペシャリストが食料自給率の改善について語る

様々な角度から農業に携わっている5名のパネリストが登壇。波田大専氏がコーディネーターを務めながら【食料自給率】【スマート農業】【有機農業】の3つのテーマについて意見を交換し合う場が設けられました。

■第3部 パネルディスカッション「これからの日本の農業」

パネリスト
●北海道 農政部長 宮田 大氏
●北海道大学大学院農学研究院 ディスティングイッシュトプロフェッサー 野口 伸氏
●一般社団法人北海道消費者協会 会長 畠山 京子氏
●株式会社Kalm角山 代表取締役兼CEO 川口谷 仁氏
●アグリシステム株式会社 代表取締役社長 伊藤 英拓氏

波田氏「まず日本の食料自給率についてみなさん、どのようにお考えですか」

宮田氏「実は昭和35年、日本の食料自給率は75%だったんですよ。食生活の多様化、米消費の減少、油脂類の増加などが原因と言われています。主要な作物への生産設定を掲げておりますが、それ以外に消費者の意識も重要です。国産、地元産のものを購入するということが大切になっていますね」

野口氏「世界の人口は30年後までに20億の増加。その一方、気候変動などもあり生産量は15%の減少が見込まれています。食料自給率の向上は重要な課題となっています」

畠山氏「自給率の低い小麦製品を多く食するようになってきたことも要因です。消費者の意識も変えつつ、実情に合った生産計画も求められます。懸念しているのは輸入依存の問題ですね。国産品を食すること、食生活のスタイルを改めるなどの必要があります」

川口谷氏「牛乳は国内自給100%と言われています。しかし、牛が食べる牧草は78%、コーンなどの飼料は12%しか国内でまかなえていません。それを無くして100%自給は成立しません。カロリーベースで考えていくことが重要です」

伊藤氏「中国のとうもろこし輸入が近年、激増しています。穀物輸入がままならなくなる可能性は高いです。小麦の自給率が低いので日本人は米中心の生活に戻る必要もあるのではないかと。生産から消費まで地産地消で循環できれば良いですね」

波田氏「みなさん、色々な角度から自給率についてお考えですね。その解決方法の一つが『スマート農業』であると思いますが、詳しく伺ってみましょう」

北海道大学大学院農学研究院 ディスティングイッシュトプロフェッサー 野口 伸氏

野口氏「収穫ロボットの技術も進んでいます。導入による作業自動化で人手不足を補うのはもちろん、『スマート農業』は後継者不足によって途絶える知識や技術をデータ化して継承することも可能なんですよ。『WAGURI(農業データ連携基盤)』というデータ連携や提供機能をもつシステムも稼働が始まっています」

波田氏「ロボットの場合、技術的に大丈夫でも、法規制をクリアできていない問題は大きそうですね」

野口氏「そうですね。農道走行ができれば圃場間移動ができて便利なのですが。道路交通法で認められていないのが代表的な問題ですね。それと通信インフラが【スマート農業】では重要なので、その整備も課題となっているのです」

川口谷氏「うちは酪農で搾乳ロボットを8台導入しています。そのきっかけは大規模化だったんです。イニシャルとランニングのコストは既存の大規模化システムと遜色ないレベルまで下がっています。500頭の牛を4~5名で管理でき、24時間、牛の自発的行動で搾乳できるので生産性も向上しています。ロボットは永遠に動くものではないので今後は更新が必要となります。そのコストは課題です。国には補助を検討してほしいし、大企業の参入にも期待したいところです」

株式会社Kalm角山 代表取締役兼CEO 川口谷 仁氏

波田氏「更新のコストというのは長く続けるためには重要なことですね。ありがとうございます。では有機農業について、国内最大規模の有機農業を実践している伊藤様にお話を伺ってみましょう」

伊藤氏「まだまだ試行錯誤の段階ではありますが、従来の説とは逆に、私は大型こそ有機に適していると考えています。音更町で55haの農家さんが一人だけで小麦を収穫している例もあります。小麦は種を蒔いたら収穫まで手がかかりませんし、クローバーを植えて他の雑草が生える隙間を与えない方法が成功しているのです。収益は従来の1.5~2倍だそうですよ。国も世界もオーガニックを広げる動きが加速しています。私たちが蓄積してきた技術を有効活用できるコンサルティングシステムも構築中です。農業だけでなく、教育、医療健康面まで一体となって広めていきたいですね」

アグリシステム株式会社 代表取締役社長 伊藤 英拓氏

波田氏「雑草で雑草を制するという知恵もあるのですね。成功事例をどんどん共有できるのは素晴らしいことです。オンラインからの質問で『有機は消費者意識の改革が必要では?』とあるのですが、どうでしょうか」

畠山氏「安心と健康面への意識は消費者の間でも高まっています。しかし、実際にスーパーで商品を見比べると値段の面で躊躇する方が多いそうです。例えば3回に1回で良いので有機の商品を購入して品質を食べ比べてみてほしい。私も食べてみて、やっぱり美味しいということを実感しました。オーガニックが広がることで温暖化抑制や土壌改善などの効果もあるのです。消費者の方に情報が広がり、意識が少しずつ変わっていくことを期待します」

一般社団法人北海道消費者協会 会長 畠山 京子氏

波田氏「まず一度食べてみる。そこからのスタートですね。最後に北海道の農業の今後について宮田様に伺ってみましょう」

宮田氏「国によって、『みどりの食料システム戦略』が策定されました。安心な食料を安定的に生産していくために、新品種の育成、牛のげっぷなどのメタンガスを抑制する技術開発、有機農業の促進、スマート農業の加速化、生産基盤の整備、再生可能エネルギーの導入など、様々なことを進めていかなければいけません。北海道では生産性と持続性を高めて日本の食料生産への貢献を目指しています」

北海道 農政部長 宮田 大氏

波田氏「高くて困難な目標ですが、一歩一歩みなさんで協力して進めていきたいですね。本日はありがとうございました」

公的機関、研究者、現場で働く農家のみなさん、そして消費者までが一体となって、日本が食料自給国家への道へ進むことが期待されます。

■問合せ先■
公益財団法人松下幸之助記念志財団 松下政経塾
〒253-0033 
神奈川県茅ヶ崎市汐見台5-25
TEL. 0467-85-5811

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