恵まれた自然条件と立地で、施設栽培が発展
群馬県の南東部、関東平野に位置する邑楽館林地域は、遠くの山まで見渡す平地に米麦の圃場が広がり、野菜栽培のハウス群が点在しています。肥沃な土壌、豊富な地下水、冬の日照時間に恵まれ、JA邑楽館林管内の野菜生産額は100億円。その5割を施設キュウリが占めています。キュウリ生産者は約500戸、年間出荷量は1.7万tで全国トップクラスです。
多くの農家が促成栽培(1月~7月)と抑制栽培(9月~11月)の年2作型。販路が確保され、比較的高値で販売できるのは産地の強みです。首都圏に近く東京まで約100km、朝採りの新鮮なキュウリをその日のうちに消費地に届けることもできます。
魅力たっぷりの産地ですが、非農家からの新規就農に施設栽培はハードルが高いかもしれません。
そこで、JA、出荷組合、市町、農業委員会、県農業事務所が、邑楽館林施設園芸等担い手受入協議会(以下、協議会)を組織。先進農家での研修(2年間)、空きハウスの仲介、各種申請手続き、就農後の経営安定まで産地一丸となってサポートしています。
会社員から転身、施設キュウリで独立目指す研修生
この制度を利用して施設キュウリ農家を目指しているのが、地元・館林市の根本 亮(ねもと たかし)さんです。以前は空調設備施工会社に勤める会社員でした。「自分で時間の使い方を決めて働きたい」と就農を考えていた時、インターネットで協議会の支援を知って説明会に参加。1日農業体験で意思を固めて、2020年4月に先進農家での2年間の研修をスタートしました。
「研修に入った4月5月は収穫の最盛期で、最初の2週間は毎日筋肉痛になっていました。しかし作業に慣れると、植物がぐんぐん育っていくのが面白くなってきました」。箱詰めなどの出荷調整作業、誘引など樹の管理を実習しながら、1年目は群馬県立農林大学校で土壌学や植物生理学を受講して知識を深めていきました。
2年間の研修も残すところ3カ月。「樹を見る力がついてきたので、自分で栽培するときをイメージして作業していきたい」と話す根本さんは、同時に就農準備も進めています。農地は協議会の紹介で空きハウスを借りて、父と2人、およそ2反(20a)でスタート。研修期間中に父はパートで一緒に働いてきたので栽培方法の擦り合わせもバッチリです。
「教えてもらったことを確実に実践し、キュウリを穫り切ることが最初の目標です。泰平(たいへい)はすごい収量を採っているので、見習って収量を上げていきたい」と抱負を語ってくれました。
根本さんが「泰平」と呼ぶ受け入れ先農家の小山 泰平(こやま たいへい)さんは、なんと地元の同級生。偶然の巡り合わせでしたが、小学校のサッカークラブ時代からの知り合いでした。
そんな小山さんは技術力が高いことで知られ、地域でも収量トップクラスの若手生産者。根本さんは、農業は自分で取り組んだ分だけ自分に返ってくることを、その仕事を見て確信しているといいます。
受入農家は元同級生、反収40t狙う地域トップクラスの技術を惜みなく伝授
受入農家の小山さんは、就農して約12年。大学卒業後すぐに父が栽培していたキュウリづくりに取り組み、4年前に経営を引き継ぎました。圃場規模は40aで年2作型。普段は家族4人と、繁忙期はパート従業員7、8人の力も借りて営農しています。
水稲や露地野菜を並行して栽培する農家が多い中、小山さんは施設キュウリに集約して収益性を追求。この地域では珍しい更新型つる下ろし栽培を導入するなど新たな取り組みも行っています。誘引に労力がかかるぶん高収量が期待できるということで、研修生の根本さんもこの栽培方法を取り入れます。
「自分で取り組んだ分、自分に還元されるのがキュウリ農家の醍醐味。根本にも研修で覚えたことを維持してほしいです」と、小山さんは旧知の友人でもある根本さんにエールを送ります。そのほかにも、促成作と抑制作の間に土壌太陽熱消毒をする8月の3週間を夏休みにするなどメリハリをつけて働けるようにしていて、労務環境においてもモデルケースになりそうです。
農業を目指す人へのアドバイスを聞くと、「農業は目標を立てることが大事。1反あたり何t穫っていくら稼ぐかを明確にして、手を抜かないで管理する。目標がないと管理する面白みに欠けます」とプロフェッショナルな答え。地域の平均反収が22tのところ、小山さんは35t以上の収量を挙げていて、当面は40tが目標だそうです。
地域の人と支援もアツイ、キュウリ栽培をするなら邑楽館林
協議会の事務局を務めるJA邑楽館林の若柳雅大さんと高際直人さんは、各種支援制度の相談を受け、研修生の現場をフォローにまわっています。
これまでも新規就農者を受け入れてきた邑楽館林地区ですが、協議会の発足で研修から就農後の営農までより手厚い支援体制を整えました。
1期生の根本さんに次ぐ、2021年度の2期生は県外から2人の新規就農希望者が研修を開始。2人は、他の地域とも比べた結果、消費地にも近いことなどから「キュウリをやるならここだ」と邑楽館林を選んだそうです。若柳さんは「これからもキュウリに興味のある方に来ていただきたいです」と話しています。
2期生のように、地元以外からもキュウリに興味のある人を呼びたいと、研修期間中には月1万円の家賃補助が新設されました。都市部に近くアクセスのいい地域では珍しいことだそうです。「キュウリ農家で生計を立てたいと強い思いのある方は、ぜひお問い合わせください」と、高際さんも熱意を込めます。
農業経営は軌道に乗るまで5年間かかると言われますが、就農後も研修受入農家とJA邑楽館林をはじめ、関係各機関が一丸となって栽培技術や経営面をサポート。手厚い支援と産地の強みで、施設キュウリで非農家からの新規就農をかなえます。
日本一暑い邑楽館林は、担い手育成に厚く、人もアツイ産地でした。
お問い合わせ先
邑楽館林施設園芸等担い手受入協議会事務局(邑楽館林農業協同組合 園芸部内)
電話:0276-73-4991
邑楽館林農業協同組合
住所:群馬県館林市赤生田町847
電話:0276-74-5111