産学官の連携で小規模農家の持続的経営を支援する「ICTでつなげる地域共生アグリ・バリュースペース研究開発プラットフォーム」とは|マイナビ農業

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産学官の連携で小規模農家の持続的経営を支援する「ICTでつなげる地域共生アグリ・バリュースペース研究開発プラットフォーム」とは

産学官の連携で小規模農家の持続的経営を支援する「ICTでつなげる地域共生アグリ・バリュースペース研究開発プラットフォーム」とは

紀伊半島の南東部は耕地面積の約50%を柑橘中心の樹園地が占めています。三重県南牟婁郡御浜町にある株式会社オレンジアグリ(JA伊勢100%出資)は、マルチ栽培の早生温州みかんを中心に、柑橘類を周年で栽培出荷する農業法人。ここでいま、産学官の連携によるみかん栽培へのICT導入による省力化、経営効率化への取り組みが進んでいます。プロジェクトを主導する鳥羽商船高等専門学校の白石和章教授、株式会社オレンジアグリの田岡大樹さん、紀州地域農業改良普及センターの鈴木賢さんに活動の狙いや成果などを伺いました。

高専ならではの低コスト・地域密着型のアプローチ

農林水産省による産学官連携研究を推進する取り組み『「知」の集積と活用の場🄬』では、「スマート農林水産業」「持続可能な農林水産業」等の5つの産業領域で170近くの研究開発プラットフォームが研究成果の現場実装に向けた活動をしています。今回のプロジェクトの推進母体となる「ICTでつなげる地域共生アグリ・バリュースペース研究開発プラットフォーム」には、プロデューサーである鶴岡工業高等専門学校(以下高専)の渡辺考一客員教授はじめ、中核となる6つの高専(※)、大学、農業試験場、IT企業などの関係者、生産者らが名を連ねています。

『「知」の集積と活用の場🄬』の研究開発プラットフォームの中でも、工業系の高専が主体となったプラットフォームは異例の存在。高専の多くは高齢化や過疎化が進む「第二地方都市」に立地しているため、地域の持続可能性に貢献する農業への取り組みが期待されています。

低コストICT農業の活用により、低コスト・安心安全な食品流通を実現し、将来的には高価値農産品の輸出も視野に入れた最適な6次産業化による高収益化を目指しています。
※鶴岡高専、仙台高専、鳥羽商船高専、阿南高専、香川高専、熊本高専

低価格で操作が簡単、日々進化し続ける「ウェザーステーション」

共同研究から生まれたコア技術の一つである「ウェザーステーション」は、気象観測装置と自動給水システムの連動、スマートフォンでのモニタリングや遠隔操作が可能なシステムで、樹体環境を容易に制御することが可能です。

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スマホ操作イメージ

「農家が使えるものでないと意味がないので、低価格で操作が簡単なシステムを目指しました。必要な機能を絞り込み、ユーザーインターフェイスは極力メニューをそぎ落として、何もしなくても圃場の気温などに合わせて1週間分のメニューが表示される仕組みです。ウェザーステーションが地中のドリップ潅水及びスプリンクラーと連動していて、夏場で設定気温(32℃想定)以上になるとスプリンクラーで樹体・果実温度を下げて、みかんの日焼けを抑えることができます」と白石教授。

プログラムは株式会社オレンジアグリの田岡大樹さん、紀州地域農業改良普及センターの鈴木賢さんらのアドバイスを得ながら随時書き換えを行っています。
「以前は暑いときにずっとスプリンクラーを回しっぱなしにしていたのですが、実際は水分を蒸散する際、気化熱として放出されることが大切なので、5分水をあげて30分休んで乾かして、また5分あげるといったサイクルにするといった改良を随時行い、進化し続けています」(白石教授)

プラットフォームには共通コアに関して「開発部会」「活用部会」「教育部会」の3部会が設置されており、白石教授は開発部会の阿南工業高専の吉田晋教授らと密に連絡を取り合い、それぞれの現場で得た最新情報を交換し合うことで開発のスピードを早めています。

スプリンクラー散水制御の導入で日焼け果発生率を低減

三重南紀地域においても生産者の高齢化や後継者不足による耕作放棄地の増加、栽培面積や生産量の減少が大きな課題となっています。

株式会社オレンジアグリは柑橘を中心とする地域農業の維持・振興を図ることを目的に2015年に設立、新規就農者でも営農が始めやすいよう省力化を目的としたスマート農業にも積極的に取り組んでおり、「ウェザーステーション」は約5年前に導入しました。現在は約20aの極早生温州みかんの圃場にシステムを導入しています。

「課題としてはやはり夏場のみかんの日焼けがあります。夏場は摘果で追われて人力で水まきに割く時間が限られてしまい、秀品率の低下はやむを得ないものと考えていました。それがスプリンクラー散水制御の導入後は、慣行圃場で日焼け果の発生率が23~25%だったのに対し、実証圃場では16%にまで改善されました(2020年8月時点)。これにより加工などに回していたものも商品化できるようになりました」(田岡さん)

生産管理システムというと煩雑な入力作業などがネックとなり現場では敬遠されがちですが、本システムは基本的に自動制御であり、生産者は時折スマートフォンなどでデータ上大きな変化などがないかをチェックするだけです。

「水やり作業は1つの木に1人の人間がついて水を撒かないといけないので肉体的な負荷が大きい。スマホ1つで水やりを無人でやってもらっている間に、私たちは100%手作業の摘果作業に集中することができます」と田岡さんは導入効果を強調します。

適切な温度管理により、光合成効率と樹勢の向上へとつながり、収量や果実品質(糖度)の向上にも期待がかかります。実際に株式会社オレンジアグリの極早生みかん全体では10a当りの収量が2085㎏(2019年)から2514㎏(2020年)と約2割向上しました。白石教授と田岡さんを仲介する鈴木さんも、「こうした最先端技術を取り入れることで、収量アップや負荷軽減を実現し、持続的な経営で産地を支えることができるというモデルを提示したいと考えています」と地域創生への意気込みを語ります。

次代の農業の担い手にこそ仲間に加わってほしい

今後のステップについて白石教授は次のように語ります。
「圃場の潅水制御の要素技術としてはほぼ完成に近づいています。この先は完全自律型の潅水制御システムへの移行、あるいは液肥を混ぜる機械も設置済みですので、液肥の最適な配合の制御などにもトライしていきたいと思います」

鈴木さんも「温州みかんに限らず複数の品種のマルチ栽培のプログラムについても8割方目処が立ってきました。これを組み入れれば年間通じて自動での潅水が実現できます。白石教授の言われる液肥の供給についてもすでにシステムを導入してやり始めている若手農家がいますので、その成果を取り入れていくこともできると思います」と続けます。

最後にプラットフォーム参加のメリットについて鈴木さんは次のように強調します。
「農業の枠の中だけで農業を考える時代は終わったと思います。とくに果樹などの生産の場合、長年培われてきた匠の技術を伝えていくことが大切でしたが、なかなか感覚で伝えるのは難しい。これをちゃんと見える化して伝えられるようにするには、やはり工業系の考え方が不可欠だと思います。プラットフォームに加わることで、若い農業の担い手が農業以外の技術を取り込んで、それを元にベテラン農家の知見をそこに反映していく。そうすれば10年経験しないと得られないような技を若い就農者でも実践することが可能になると思います」

生産者の方の加入をお待ちしております!

現在、「ICTでつなげる地域共生アグリ・バリュースペース研究開発プラットフォーム」には、全国に高専を設置・運営する国立高等学校専門機構をはじめ、大学、IT企業、生産者らが参加しており、今後も幅広い分野の会員を募り、産学官それぞれの強みを活かしたスマート農業機器の研究開発とそれによる地域振興を目指していきます。
また、「知」の集積と活用の場では、このような研究開発プラットフォームが約170形成され、農林水産・食品分野のあらゆる領域で産学官連携研究に取り組んでおります。参加申込にあたっては法人・団体だけでなく、生産者や大学・研究機関の研究者の方が個人で参加することも可能です。
最新技術に興味がある、技術実証に協力したい、現場の課題を解決して欲しい、などといった思いをお持ちの生産者の方の加入をお待ちしております。

『「知」の集積と活用の場🄬』に関する詳細等こちらから

【取材協力】
国立高等専門学校機構熊本高等専門学校/渡辺 考一様
国立高等専門学校機構鳥羽商船高等専門学校/白石 和章様
紀州地域農業改良普及センター/鈴木 賢様、杉本 竣作様
株式会社オレンジアグリ/田岡 大樹様

【お問い合わせ】
「知」の集積と活用の場産学官連携協議会事務局
(農林水産省農林水産技術会議事務局研究推進課産学連携室)
 TEL:03-3502-5530
 E-mail:fkii@maff.go.jp

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