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産学官連携による「ICTを活用した畜産生産システム開発プラットフォーム」から生まれた “次世代閉鎖型搾乳牛舎システム”が示す畜産の未来

産学官連携による「ICTを活用した畜産生産システム開発プラットフォーム」から生まれた “次世代閉鎖型搾乳牛舎システム”が示す畜産の未来

栃木県大田原市にある有限会社グリーンハートティーアンドケイの牛舎で未来型の畜産が始まっています。ここでは搾乳から給餌、ふん尿清掃までをロボットが自動で行い、各種センサーで牛の位置や行動を把握することにより病気発生や発情状態を検知します。ICTを活用した衛生管理や生産性向上を目指す「次世代閉鎖型搾乳牛舎」を主導する宇都宮大学農学部の池口厚男教授とグリーンハートティーアンドケイ代表の津久井宏哉さんに、プロジェクトが目指す未来やシステムの導入効果などを伺いました。

畜産業の課題をロボットやAIなど最先端技術で解決

農林水産省による産学官連携研究を推進する取り組み―「知」の集積と活用の場🄬―において、畜産✕DX(デジタル・トランスフォーメーション)で畜産業の発展を目指す研究グループがあります。
活動主体となる「ICTを活用した畜産生産システム開発プラットフォーム」には、2017年に設立され、プロデューサーである宇都宮大学の池口厚男教授はじめ、趣旨に賛同するICTベンダーや電機メーカー、大学、研究機関、生産者らが名を連ね、新しい畜産の創造に取り組んでいます。ロボットやAIなど最先端技術が投入された「次世代閉鎖型搾乳牛舎システム」は、すでにパッケージ商品として販売され、全国10カ所以上で稼働中です。

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次世代閉鎖型牛舎

現在の畜産業の課題として、担い手不足、省力化、暑熱、防疫、悪臭、アニマルウェルフェア(家畜のストレスを減らし、健康的な生活ができる飼育方法をめざす畜産のあり方)などが挙げられます。
同プラットフォームでは各種センシング技術により収集したデータをAIで解析し、畜舎の環境制御や病気の早期発見などに活用し、生産性向上に役立てています。また、各種ロボット活用により作業負担を大幅に軽減すると同時に、働き方を進化させることで若手人材の獲得にも繋げたいと考えています。

世界でも類のない閉鎖型牛舎だからこそ可能な環境制御

グリーンハートティーアンドケイでは約1300頭の乳牛を飼育していますが、「次世代閉鎖型搾乳牛舎システム」を導入した牛舎は1カ所で、約80頭を飼育しています。同システムは換気扇による環境制御をはじめ、搾乳ロボット、自動給餌機、餌寄せロボット、自動敷料散布機、ふん尿清掃ロボットなどのロボット群で省力化を図っています。

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自動給餌機

また、各種センサーで牛の乳量や乳質、分娩記録などの生体情報や行動記録、牛舎の温湿度などのデータを蓄積してAIで分析することで、生体・環境の変化を検知し、蹄病や乳房炎などの早期発見や発情期の見極めに活用しています。

池口教授は「畜産の課題解決のベースは牛舎にあります。栄養や繁殖についての検討以前に適正な環境を整備することが先決です。特に夏場の熱ストレスは乳量の低下、種付けの不調、乳房炎などのトリガーになりやすいので、牛にとって快適な環境を提供することが最も重要です」と語ります。

同システムでは画像で牛群の位置を検知し、密集している所にはファンの回転数を上げて風を送るといった、世界でも例のない緻密な制御を実施しています。一方、冬場に換気を減らすと空気中の微生物などが増えるため、光触媒の空気洗浄機を設置し、99.8%の微生物を除去しています。

「ブドウ球菌などが乳房炎の原因になることがあるので、空気の状態をクリーンに保つことで衛生管理を徹底しています。これは閉鎖型牛舎だからこそ実現できるメリットです」(池口教授)
給餌については自動給餌機が時間ごとに餌を撒くと同時に、牛が選り好みして遠くに押しやった餌をまた牛の近くに戻す「餌寄せロボット」も活躍します。

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餌寄せロボット

「餌は目標の乳量を生産するために決まった量をあげていますから、残さず食べてもらう必要があります。これまでは手作業で人間が掃いて戻していましたが、自動化して労働の軽減を図りました」(池口教授)

従来の開放型よりも生産量が16%増加

グリーンハートティーアンドケイの津久井さんがプラットフォームに参加した動機の一つは、以前から夏場の暑熱による生産性へのダメージをいかに解消するかという問題意識があったからです。
「池口教授からアプローチがあった際には二つ返事で参加を決断しました。従来の開放型の牛舎では自然換気や扇風機の送風で換気を行っていましたが、気象条件によっては換気が十分に行われていませんでした。閉鎖型では早い風の流れをつくることで、気流で牛から熱を奪い、快適な環境を保つことが可能です。システム導入した2015年から乳量について開放型と閉鎖型のデータを取っていますが、実際に閉鎖型では16%生産量が増加するという好結果を得ています」(津久井さん)

省力化についてもこの牛舎内では画期的な進化を遂げています。
「通常は牛を搾乳パーラーまで誘導して人の手で搾乳しますが、自動搾乳ロボットが誘導から搾乳までしてくれるので、そういった作業の必要がありません。また、給餌や清掃についても基本的に機械では手が届かない部分を手作業で補う程度で、従来よりも総労働時間を約97%削減することができました」と津久井さん。

ロボットによる自動化が進み、クリーンな環境で牛たちのアニマルウェルフェアへの配慮が行き届いた環境は、地域の若者にとっても関心の的となっており、畜産のイメージアップや担い手不足解消にも貢献しています。

未来の畜産形態のビジョンの実現に向け、広く賛同者を募集

今後の課題の一つとしてはシステムの導入の費用対効果の見極めがあります。導入によって生産性が向上し、省力化や負荷低減、労働時間短縮、人件費削減などに繋がり、持続的経営にどれくらい寄与できるかです。さらには、それが担い手不足解消にどれだけつながるかといったことがあります。
「実際には各種ロボット等必要機器を完備したフルスペックの閉鎖型牛舎の導入は、牛舎の建て替えなどのタイミングでないと難しいと思います。そのため、今は既存の開放型の牛舎にシートなどを使って簡易的な閉鎖型牛舎を造り、低コストで同程度の効果が得られるシステムの開発に着手しています」(池口教授)

現状ではシステムが導入されているのは農場のごく一部ですが、今後については津久井さんも順次拡張の方向で検討しています。
「今後も気温上昇が予測されますので、夏場だけでなく秋口の生産量の減少もあり得ると思います。牛舎の建て替えなどの場合はやはり暑熱対策に特化していくことが避けられないでしょう。問題はコスト面ですが、多くの農家で導入が進むことが全体のコスト低減に繋がっていくことを期待しています」(津久井さん)

最後に池口教授は個別技術の追究以前に、未来の畜産形態のビジョンを描くことが重要だと強調します。
「例えば餌作りから糞の処理まで、あるいは生産現場に限らず流通段階までを見据えた理想的な経営スタイルを描いた上で、技術開発を行う必要があると思います。そのグランドデザインについても構想が固まりつつありますので、プラットフォームの今後にもぜひ期待してください」。

生産者の方の加入をお待ちしております!

現在、「ICTを活用した畜産生産システム開発プラットフォーム」には、宇都宮大学をはじめ地方の大学、IT企業、生産者らが参加しており、今後も幅広い分野の会員を募り、畜産分野におけるDXを目指していきます。

また、「知」の集積と活用の場では、このような研究開発プラットフォームが約170形成され、畜産分野にとどまらず、農林水産・食品分野で産学官連携研究に取り組んでおります。参加申込にあたっては法人・団体だけでなく、生産者や大学・研究機関の研究者の方が個人で参加することも可能です。

最新技術に興味がある、技術実証に協力したい、現場の課題を解決して欲しい、などといった思いをお持ちの生産者の方の加入をお待ちしております。

『「知」の集積と活用の場🄬』に関する詳細等こちらから

【取材協力】
宇都宮大学農学部農業環境工学科生物資源循環工学研究室 池口 厚男 様
有限会社グリーンハートティーアンドケイ 津久井 宏哉 様

【お問い合せ】
「知」の集積と活用の場 産学官連携協議会事務局
(農林水産省農林水産技術会議事務局研究推進課産学連携室)
 TEL:03-3502-5530
 E-mail:fkii@maff.go.jp

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