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夏の高温や異常気象をどう見る?その対策は【現役農家の緊急座談会#2】

西田 栄喜

ライター:

夏の高温や異常気象をどう見る?その対策は【現役農家の緊急座談会#2】

自然環境の影響をダイレクトに受ける1次産業。今回は、それぞれ立場の違う農家が気候変動における影響やその対策、さらに農家だからこそできることの提案についてクロストーク。地球温暖化をはじめ、気候変動への危機感が高まっている中、読むと勇気が出てきます!

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参加メンバーはこちら

たけもと農場代表 竹本彰吾(たけもと・しょうご)さん
39歳。石川県能美市在住。
大型稲作農家(50ヘクタール)。JA出荷のほか、ネット販売にも力を入れる。イタリア米、スペイン米などの変わった品種も育てている。

山ノ上農園代表 山ノ上慎吾(やまのうえ・しんご)さん
37歳。宮崎県宮崎市在住。
JA出荷を主とするキュウリ農家。家族経営。自らロジカルファーミングゴリラと語るスマート農業の先駆者。

鴨志田農園代表 鴨志田純(かもしだ・じゅん)さん
36歳。東京都三鷹市在住。
都市型農業を営み、主に野菜セットを直売。コンポストアドバイザーとして教室も開催している。

筆者:菜園生活風来(ふうらい)代表 西田栄喜(にした・えいき)
53歳。石川県能美市在住。
自称日本一小さい農家。家族経営の少量多品種栽培で直売を行っている。

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気候変動の影響

西田(筆者)

今回のテーマは「気候変動を見据えた農家の対策」です。まずは、それぞれどのような影響を感じているか教えてください。
このところ、夏の高温が米の品質にだいぶ影響を与えています。日中の気温の高さもさることながら、夜に気温が下がらないのも原因で、ここ5年くらい毎年のように「しらた」と言われる「白未熟粒」が出ています(※)。

あと、私が就農した16年前の北海道では、毎年冷害に悩まされていたそうですが、今や稲作の適地になっているのも驚きです。

竹本さん

※ 夜間の高温は稲の呼吸作用を増加させ、 日中に生産したデンプンを消費することで穂に送り込む量が少なくなり、登熟歩合の低下をまねき白未熟粒ができやすくなる。

甘長唐辛子を育てているのですが、これまでは11月に霜が降りてきてその作を終えていました。ところが、2年前の冬は12月中頃までとれましたし、岐阜県などの山菜でも出てくる順番が以前と違うとのこと。また、5月に雹(ひょう)が降ってきたりと気候が年々変わってきていることを実感しています。

鴨志田さん

三鷹市にある鴨志田農園の様子

宮崎では冬があまり寒くなくなりました。近年の影響としては、これまでは土壌消毒さえしておけばよかった里芋に疫病がでるようになりました。また、海水温の上昇から台風の大型化も感じています。もともと九州は台風が多かったのですが、さらにしっかりした施設にしなければならないのでコストがかかります。

山ノ上さん

西田

石川県の能登でもイノシシがどんどん北上してきて被害が拡大していますね。また、うちでも育てている石川県のリンゴの品種「秋生(しゅうせい)」というのがあるのですが、開発のキッカケは既存の品種ではリンゴの色がきれいな赤色にならなくなったからとのことです。リンゴの色は夜と昼の寒暖差で大きな影響がありますしね。
お話しいただいたように、温暖化や異常気象によってさまざまな影響がありますが、逆に気候変動による農業への恩恵はあるのでしょうか。

CO2と農業

環境制御をしている身としては、気温が高くなってCO2が増えると野菜がおいしくなる利点があると思います。うちではキュウリのハウスの中にダクトを入れてCO2濃度を上げるために灯油をたいて、ブロアーで送っているくらいですから。

山ノ上さん

CO2と水があって光合成することで糖にして、その植物全体の成長に使う。山ノ上さんのように、気温によってCO2濃度をコントロールすることで収量が大きく違ってきますよね。CO2は肥料のひとつと思うと社会的認識が変わると思います。

CO2は悪者ではなく、植物に必要なものという認識を持つことも大切だと思います。

鴨志田さん

環境制御を生かした山ノ上農園のキュウリ

以前ポッドキャストで「二酸化炭素(CO2)ください」と言ったところ、それを聴いたとある鉄道会社の方から反応がありました。同社ではSDGsの取り組みに関するコンペで、所有する火力発電所で排出されるCO2をガス化して農家に運ぶという案を発表したとのこと。その会社の持つ火力発電所から排出されるCO2で、国内すべての施設園芸で必要な分すべてまかなえるようです。

残念ながらコンペでの採用は見送りとなりましたが、もし実現していれば、農家は安価でCO2を活用できて、灯油などをたく必要がなくなりコストとCO2削減にプラスになります。農家にこそCO2の価値を知ってほしいです。

山ノ上さん

西田

まさに農家にしかできないことですね。どんな企業も排出量取引でCO2を実質ゼロにできても、マイナスにはできない。農業や林業だけがCO2をマイナスにできる。農業のあらたな価値がこの時代だからこそ出てくると言えますね。

今後の対策、農家からの提言

西田

CO2こそ野菜に必要。あらためて大きな気づきでした。そんな農業の可能性や提言など聞かせてください。
気候変動の対応をひと言にまとめると「状況に合わせて変えるしかない」と思うのですが、そのヒントは横のつながりを持つことでもらえます。その人にとってはたいしたことがなくても、別の人が聞いたら大きなアイデアにつながったりとか。そうした考えもあり、私自身いろんなところに顔を出すようにしています。

竹本さん

竹本農場のポッドキャスト。「青いTシャツ24時」

個人的に思うところとしては、森林や植物だけがCO2を吸収してくれるのに、森林伐採や畑をつぶしてソーラーパネルを設置しているのはおかしい。やってることがあべこべ。目的をしっかり考える必要があると思います。
自分は無力だと思わないことも大切。これまで燃料、農業資材、肥料の高騰について国会に取り上げられることがなかったので、仲間と地元の国会議員の事務所に行き、農業のおかれている現状を話しました。そうしたところ今年2月に国会の質問で取り上げてもらいました。

言って損はない。動いたもの勝ちだと思います。

山ノ上さん

西田

農業だからこそ活用できるCO2と言えば、2015年にパリで行われたCOP21(国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議)において4パーミル・イニシアチブ(※)が提唱されました。これは土壌中の炭素量を増やしていく取り組みで、日本でも山梨県が果樹農家と連携して率先し動いています。

気候変動の問題に向き合うと、その中で農業は大きな役割を果たすとあらためて感じます。今回の座談会を通じて、環境教育の中にCO2や農業の役割を明記していくことも必要だと思いました。
具体的な動きとしてはビジネスモデル(参考記事「百姓的ビジネスモデルを考える【ゼロからはじめる独立農家#05】」)を作っていくことも今の社会では大切ですね。
その点において「サーキュラーエコノミー」に取り組んでいる鴨志田さん、いかがですか?

※ 「全世界の土壌に含まれる炭素量を、毎年4パーミル(0.4%に相当)ずつ増やしていければ、大気中のCO2を相殺することになり、結果的にCO2増加量をゼロに抑えられる」という考えによる取り組み。温暖化対策の切り札としても注目されている。

EUではSDGsよりサーキュラーエコノミーの方が検索されているのですが、日本ではあまり知られておらず、国内の第一人者である友人の安居昭博(やすい・あきひろ)くんと共に広げる活動をしています。
サーキュラーエコノミーとは循環型経済と訳され、環境負荷低減と経済成長の両立を目指しているもので、私が実践している堆肥(たいひ)づくりや生ごみ堆肥も大きく分けるとその中のひとつになります。

「人間には1日3回、何を食べるかで社会を変えるチャンスがある」と言われることがあるのですが、私はそれにプラスして、捨てる残渣(ざんさ)の使い方でゆるやかに社会を変えていくチャンスもあると思っています。

農家の収益になりつつ環境負荷も抑えられる実証実験を現在進行形でやっています。

鴨志田さん

西田

石川県の加賀地方では私が子供の頃、ゴミ焼却炉の能力が限界になるということで、スイカの皮を干す文化が定着しました。そのことで燃料代も抑えられたとのこと。

「レジ袋廃止で環境負荷が減るのか?」なんて議論もありますが、実際やるとなったらマイバッグを持ったり、またペットボトルのラベルをはがしたり、月1度の資源ゴミの回収に出すなど、キチンと従うのが日本人のよいところだとも思います。

生ゴミコンポストも面倒だから無理というのではなく、キチンと指し示すことで広まる可能性があると感じました。

農業には気候変動を改善する可能性はあると個人的には思っていますが、農家だけでは変えることはできません。ひとりひとりの意識が変わる。そのヒントを今回たくさんいただけたと思います。
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