気候を生かした「夏いちご」作り
この10年で20軒が新規就農を実現
北に日高山脈、南には太平洋の雄大な景色を望む、人口約1万1600人(2022年4月末現在)の浦河町。北海道の大自然が間近な町では、軽種馬、いわゆるサラブレッドの育成が盛んで約150もの牧場があり馬の姿を各所で見ることができます。
浦河に魅力を感じて移住を希望される方もいますが、それには仕事が必要。
しかし、馬の牧場を新規就農でいきなり経営するのは資金的にも困難です。
馬に続く農業として、そして新規就農しやすい点から注目されたのが「夏いちご」です。本州では夏の間、仕入れの大部分を輸入に頼っており、需要が期待できたからです。
浦河町は夏の気温が30度を超えることはほとんどなく、冬の積雪も最深で十数センチ程度。生活に必要な施設も揃っていて暮らしやすい環境です。
「移住して就農を目指す方の不安を軽減できるよう、町としても出来る限りの補助を行っています」(浦河町 池田さん)
品種テストや試験栽培を重ね、【すずあかね】という6月中旬から収穫できるいちごを統一品種として、各農家さんに拡大していきました。
有名スイーツショップでも使われる、
市場評価の高い浦河町産【すずあかね】
【すずあかね】という名前は一般の消費者にはあまり知られていません。それは業務用に使われるケースが多いからです。「甘酸っぱい味わいで、適度な硬さがあり身が崩れにくく輸送にもむいているため、ショートケーキの上に飾られたりします。全国的に有名なスイーツショップにも使用されています」(浦河町 池田さん)。
浦河町産の【すずあかね】が市場での価値を持つための取り組みも行いました。「選果基準を他地域より高く設定したのです。傷や虫食いがないことはもちろん、形や色も上質なものをより高く評価しています。『徹底した栽培管理の下、品質の良いいちごをたくさん出荷すること』に農家さんが取り組み、いちごが高値で取引され、農家さんの経営も安定するようになりました」(JAひだか東 工藤さん)。
【すずあかね】を統一品種にしてから約10年。20軒以上が新規就農を果たし、町とJA、農家さんが一体となることにより、昨年度は浦河町産だけで2億超の売上を記録。「日本有数の夏いちご産地」として評価され、需要が増しているのです。
会社員を辞めてUターン就農成功
「研修や親方の助言のおかげです」
実際に浦河町で新規就農を果たしたのが櫛桁寿樹さん(35歳)です。
「自分は浦河町出身です。札幌で営業マンをしていたのですが、帰省したときに新規就農者を募集していることを知りました。サラリーマンを続けることへの漠然とした不安もあり『やってみよう!』と。同じ条件で就農された先輩もいたので結構軽く決めてしまいました(笑)」。
夫婦でJAの子会社が運営している場所で2年間研修を行った後、2016年に自営の農家となりました。
「夫婦だけでハウス4棟を管理しなければいけない、天候は気になる、夏場のハウスの中は暑い、失敗したら収入が…、など実際やってみると肉体的にも精神的にも大変でした。でも、研修してくれた親方が足しげく通ってアドバイスをくれたのです。おかげで結果が出て、自信もつきました。気が付けば今年で7年目になりますね。今後は新しい就農希望の方への指導も行っていくつもりです」。
「自分のルールで動く生活に満足しています」
借金への不安が少ない仕組みも助けに
「うちの場合、忙しい時期は朝6時半くらいから作業を始めて夕方5時くらいまで働きます。昼に2時間ほど休憩しますが(笑)」。
会社員時代は夜遅くまで残業をした後にお酒を飲みに行くなどしていた生活は一変しました。「太陽が昇って沈むのに従う生活は自分に合っていますね。今は自分が決めたルールに従って動けているので会社員時代に抱えていたストレスも感じなくなりました。頑張れば収入は増えて、さぼったら減る。全て自己責任と割り切れています。妻や子供と過ごす時間も大切にできているので、就農して良かったです」。
櫛桁さんは、新規就農にあたって多額のお金を借りる必要がなかったことも大きな助けになったと話します。「ビニールハウスを一から建てるとなると、4棟で3000万円以上は必要となります。でも浦河町の場合、用意されたハウスを使えてリース料を払う方式です。10年続けると自分のものになるのでやりがいもありますね」。
途中でやむなく離農することになっても、追加で返済する必要もないそうです。借金や返済へのプレッシャーが小さい点も、多くの就農希望者が集まり定着する理由の一つなのです。
沖縄から移住して、いちご農家に
「新たな方にどんどん来てほしいですね」
統一品種として【すずあかね】を採用することになった初年度に浦河へ移住し研修に参加したのが吉田隆さん(40歳)。現在は町のいちご生産振興会の会長を勤めています。
出身は千葉県ですが、移住して、サトウキビ刈りなどをしていた沖縄県石垣島で、浦河町が実家の女性と出会い結婚。何度か町を訪れているうちに「ここで農的な生活をしたい」と考えるようになり、夫婦で就農を果たしました。
「別件が忙しくて手間を掛けられなかったり、作業している夫婦の雰囲気が悪いといちごの出来に直結するのですよ(笑)。いちごは大変ですが、とても面白い作物です」。
【すずあかね】生産の先駆者である吉田さんですが、『理想的な収量と出来』となったのは10年目のこと。「良い年、悪い年、色々経験してきました。これから就農する人にそれを伝えていきたいですね」。
「頑張るところ、抜くところのバランスが大事。教えることの難しさも学ばせてもらいました。今年、【すずあかね】の育て方マニュアルの浦河版が完成したので、上手く活用しながら新たな就農者を育てて、浦河産夏いちごをもっと盛り上げていきたいですね」。
就農しやすい補助と仕組みを準備
ブランド力を高める活動も推進
浦河町は夏の気温が30度を超えることはほとんどなく、冬の積雪も最深で十数センチ程度。生活に必要な施設も揃っていて暮らしやすい環境です。「移住して就農を目指す方の不安を軽減できるよう、町としても出来る限りの補助を行っています」(浦河町 池田さん)。
■就農研修補助金
就農研修期間(1年以上2年以下)中、月額8万円。
夫婦で研修の場合は合わせて月額12万円を補助
就農時年齢50歳未満
■就農支度補助金
就農研修終了後、100万円/1経営体を補助
就農時年齢65歳未満
■経営安定補助金
新規就農者に対し、就農開始年度の翌年から農業経費の1/2を補助
(補助期間:就農年度から4年以内)
(単年限度額100万円、補助期間内における限度額200万円)
浦河町では先輩農家のもとで2年間夏いちご生産の研修を受け、その後町有リースハウス等へ就農できる仕組みを用意し、安心して就農できるようサポートしています。
「近年、北海道内で夏いちごの生産に取り組む地域も増えています。ライバルとなりますが、これは市場に求められている証拠でもあります。選果や販売、様々なお手伝いをしながら町と一体になって今以上にブランド力を向上させますよ。【すずあかね】に続く品種の試験も進んでいますからね」(JA工藤さん)
「いちご農家!とすぐに決断できない方は『地域おこし協力隊』として、浦河町の様々な産業を体験することも可能です。興味を持ったら、一度浦河にお越しいただきたいです。スマート機器をの導入試験も行っている町のビニールハウスへご案内しますよ」(浦河町 池田さん)
【お問い合わせ】
浦河町役場 産業課
北海道浦河郡浦河町築地1丁目3番1号
TEL:0146-26-9016
FAX:0146-22-1240