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イチゴ産地の維持に欠かせない選果ロボット パッキングセンターでの導入目指す

窪田 新之助

ライター:

イチゴ産地の維持に欠かせない選果ロボット パッキングセンターでの導入目指す

イチゴを重量に応じて選果するロボットの実証実験が、JA阿蘇(熊本県阿蘇市)で進んでいる。産地のイチゴを一元的に選果するパッキングセンターで深刻化する人手不足の解消を図る。開発チームに試作機を見せてもらった。

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作業負担が大きいことが離農につながる

JA阿蘇

JA阿蘇のパッキングセンター

一般にイチゴの産地では、選果とパック詰めの作業を農家が個別にこなしている。農家にとってその負担が大きいことから、高齢になるほど離農につながりやすい。営農とは別の部分で労力を要するため、栽培面積の拡大を阻んでいると言え、全国でイチゴの生産量が減っている要因となっている。

こうした事態を防ぐため、各地で整備が進んでいるのが、これらの選果やパック詰めなどの作業を担う「パッキングセンター」である。農家は、イチゴを詰めたコンテナを持ってくるだけでいい。後はパッキングセンターの従業員が、選果から調製までを請け負ってくれる。

JA阿蘇は全国でもいち早く、パッキングセンターを稼働させてきた。ただ、最近になって問題化してきたのは人手の確保。地域の人口が減少するなか、労働力を確保するのが難しくなってきた。コロナ禍もあって、外国人技能実習生にも頼りにくい状況だ。

ロボットが重量ごとに選別して、容器に移し替える

ロボット搭載の選果機

ロボットが稼働している選果機

そこで、人に代わって果実を選別するロボットを備えた選果機の開発が2019年度からJA阿蘇で進んでいる。取り組んでいるのは、農研機構や秋田県立大学などの開発チームだ。
JA阿蘇の中部野菜センターを訪れると、女性ばかりの従業員たちが三つの区画に分かれて、それぞれで選果とパック詰めに大忙しというところだった。その脇で試作中なのが、細長い筒状のロボットを備えた選果機である。

案内してくれた秋田県立大学生物資源科学部の准教授(農業機械学)・山本聡史(やまもと・さとし)さんによると、このロボットが持っている主な運動機能は上下と横の移動、回転の三つ。先端部分では、空気圧を使って果実を吸着するようになっている。
開発中の選果機の仕組みは次のとおりだ。コンテナを載せたレーンを真ん中にして、その左右に空の容器を載せた三つのレーンが並んでいる。ロボットはこの上に設置されている。

それぞれのレーンの容器に入れる1粒当たりの重量はあらかじめ設定しておく。するとロボットは、コンテナに載った果実を1粒ずつ吸着すると同時に重量を計測。回転して向きを整えながら、左右の移動によって適切な容器に移し替えるということを繰り返す。

容器には、包装資材メーカー・大石産業(福岡県北九州市)が開発した「ゆりかーご」を採用している。鶏卵の容器のようにイチゴを1粒ずつ入れられるほか、衝撃を吸収する構造になっている。ロボットはイチゴを置くのではなく、少し上空から離すため、衝撃を吸収する構造を持つ容器が欠かせない。

ロボットに任せるのは「粗選果」のみ

当初の構想では、ロボットに選果からパック詰めまでを一切任せるつもりでいた。だが、それは技術的に難しいことが分かった。ロボットは、人がやるようにすべての果実を同じ方向にしてパックに隙間(すきま)なく詰めるということができないという。

このため、開発中の選果機に代行させるのは、重量に応じて果実を選別して「ゆりかーご」に詰める「粗選果」だけ。粗選果した果実の傷の有無などを確認して、パック詰めする作業は、従来どおり人に任せる。

現状、ロボットの粗選果にかかる時間は6秒である。今後普及させる選果機では産地の要望に合わせてロボットを複数台稼働できるようにして、一度に選果できる量を増やせるようにする。

効率化の実証試験も検討

取材をして気になったのは、粗選果しかできない選果機を導入することが、産地にとってメリットなのかどうかだ。
一般にパッキングセンターでは、人が選果からパック詰めまでを1粒当たり4秒程度でこなしている。作業は重量を計測して、傷の有無を確認するというものだ。
しかし開発中の選果機を導入すれば、重量を計測する必要がなくなる。農研機構の調査によれば、粗選果をすることでその後のパック詰めの効率が3割程度高まるという。

一方で、選果機にコンテナや容器を補充したり、粗選果を終えた「ゆりかーご」を人がパック詰めする場所にまで運んでくる手間が新たに発生する。
この選果機の効率化について、山本さんは「来シーズンにぜひ実証試験を実施したい」と話している。

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