甘くて柔らかく、みずみずしい
春が旬とされるホワイトアスパラガス。一方、馬場園芸が収穫する時期は12月から2月にかけて。
特徴は、早く出荷できることに加えて、味にもある。それは、同社の触れ込みをそのまま引用すれば、「トウモロコシのような甘さ」「生で食べられる柔らかさ」「口中にあふれるみずみずしさ」だ。これらが「白い果実」と呼ぶようになったゆえんである。果実を思わせるような味を引き出せる理由については、後ほど述べていきたい。
冬に出荷できる「伏せ込み」という栽培法
冬に収穫できるのは、「伏せ込み」という特殊な栽培方法を取っているためだ。これは、春から秋にかけて露地で根株を養成した後、冬になって掘り上げてハウスに用意したベッドに植え替え、しばらくしてから収穫をするというもの。国産のアスパラガスが出回らなくなり、価格が高い冬に出荷できるのが利点だ。
一方で難点は何か。通常の栽培法では、一度定植すると10年程度は収穫を続けられる。対して伏せ込みでは、収穫ができるのは1年だけ。しかも収穫期間は60~80日間と短い。馬場さんは「手間ひまがかかるので、伏せ込みは日本でしか行われていない」という。
培土法ではなく、遮光法を採用
馬場園芸が伏せ込みに使うハウスは、毎シーズンとも直前までは菊を栽培しているところだ。菊は日長を管理して開花を調整するので、ハウスには遮光カーテンが備わっている。さらにベッドに支柱を立てて遮光ネットをかけることで、ホワイトアスパラガスを作り出しているのだ。また、トンネル内は100%近い湿度を保っているので、「みずみずしくなる」とのこと。
ホワイトアスパラガスの作り方には、この遮光法とは別に、一般的な培土法がある。これは、萌芽(ほうが)する前に株元の土を盛り上げるというもの。馬場さんによると、培土法では土の圧力に耐えながら成長するため、太くなりやすい。さらに土の雑菌から体を守るために表皮が硬くなるほか、土や雑菌に触れることで作物体内で苦み成分のサポニンを作り出すという。ただし、このサポニンは抗酸化作用を持っている。
ホワイトアスパラガスは日に当てないので、光合成をせず、呼吸しかしていない。呼吸すれば、エネルギー(糖)を消費する。ただ、馬場園芸は伏せ込みによって、寒さで呼吸が抑えられている冬の間に収穫するので、甘い状態のまま出荷できる。
馬場園芸は、こうした栽培法の違いにより、冒頭で紹介したような味を生み出せているのだ。
地域に魅力的な職場をつくりたい
馬場園芸がアスパラガスを作り始めたのは2014年。理由は「魅力的な職場」をつくりたかったからだ。
馬場さんにとって、生まれ育った浄法寺町は自然が豊かで、「子どものころからディズニーランドに見えた」と言うほどに魅力的だった。
ただ、ほかの人たちにとってはそうではなかったようだ。中学や高校を卒業すれば、進学や就職を機に地元を離れていく。「分かりやすいのは祭りのときです。観客や出店が年々減っていきましたから」(馬場さん)。幼いころから通っていた本屋や焼肉屋は閉店し、時とともに、町から活気が失われていくことを感じるようになった。
この地域を元気にしなければならない──。馬場さんはそんな思いを強くしていく。そのための最大の問題は、地域に魅力的な仕事がないこと。だったら、自分でつくろうと決意した。
まず始めたのが冬場の仕事づくり。馬場園芸はもともと、稲と菊を作っていた。ただ、これでは冬場に仕事がなくて、通年で人を雇えない。
そこで、まず取り掛かったのは、ホウレンソウの栽培。これが軌道に乗ったところで、手がけたのがアスパラガスだった。
当初はグリーンアスパラガスを伏せ込みによって作っていたが、さらなる価値の創造に向けてホワイトアスパラガスの栽培に着手した。やがて出来上がったそれをレストランに持って行くと、高評価を得た。レストランで需要があることが分かったほか、収益性も高かったことから、ホワイトアスパラガスの割合をだんだんと増やしていった。いまではグリーンアスパラガスは作っていない。馬場園芸の経営面積は13ヘクタール。このうちホワイトアスパラガスは1ヘクタールだ。
今後は、地域の農家にその栽培技術を伝えながら、ホワイトアスパラガスを作ってもらう。収穫物を一元的に集荷して、レストランや個人客に直接販売する。馬場さんは「浄法寺町の主産業である葉タバコが衰退している。その代わりとしてホワイトアスパラガスを育てていきたい」と話している。