スマート農業とは
先端技術を活用する、スマート農業
スマート農業は、農林水産省によると「ロボット、AI、IoTなど先端技術を活用する農業」と定義されています。過去にはハイテク農業とも言われ、簡単に説明するなら「コンピューターやインターネットを取り入れた農業」と言い換えてもいいかもしれません。
スマート農業の導入により期待される効果は後に詳しく紹介しますが、省力化や生産品質の向上などが見込まれ、農業の労働力不足や国内の食料自給率の改善などの課題解決に役立つと考えられています。
世界的な注目分野
もちろん日本だけでなく、世界でも先端技術を活用した農業が行われています。
世界ではAgritech(アグリテック)とも呼ばれるこの分野には、SDGsなどに示される食料の生産量向上という観点からも期待がかかっています。
例えば、ドローンを使って広い農地を管理できるようになれば、農業の大規模化によるコストが下がるため、大規模農家が増えることも考えられます。
スマート農業が注目されるようになった背景
日本でスマート農業が注目される理由は、こういった食料の生産量向上という点も一つでしょう。特に日本の食料自給率(カロリーベース)は38%(2023年度)となっています。輸入に頼る食料も多く、輸入先国の環境や貿易関係によって輸入が難しくなれば、家庭の献立にも影響するかもしれません。そのため今後の改善が期待されています。
また何より、農業では担い手不足や高齢化などが大きな課題となっています。
後を継ぐ担い手がいなければ優れた技術も途絶えてしまいますし、喫緊の課題として高齢化によって日常的な農作業が難しくなっている現状があります。
スマート農業は、こうした農業の現場の課題解決手段としても大きな注目を集めているのです。

スマート農業の目的、得られるメリット
スマート農業には期待されるメリットが多様にあり、そこから派生してさまざまな目的が挙げられます。
- 農作業の効率化・負担軽減
- 課題の明確化
- 農作物の品質向上
- 農作業や経営管理におけるコスト削減
- 農業技術のスムーズな継承
- 食料自給率向上への貢献
- 持続可能な環境づくりへの貢献
農作業の効率化・負担軽減
まずスマート農業のメリットには、農作業の効率化や負担軽減が挙げられます。
農地の様子を知るにも、あらかじめドローンやセンサーなどでチェックすれば、見回り回数を減らせるでしょう。スマートフォンへの通知と組み合わせて、それまでよりも早く異常を知ることができるかもしれません。また、自動運転農機や収穫ロボットなどによって重労働が減れば、体への負担も軽くなります。
これらは、農家の高齢化や労働力不足という課題に大いに役立つと考えられます。
課題の明確化
また、課題の「見える化」も、先進技術が得意とする分野です。
「誰が・いつ・どこで・どんな作業をしたか」ということをデータとして記録していくことで、傾向や問題点が分かり、改善策を立てることができます。農作物の生産の改善ができるだけでなく、従業員の教育にも役立てることができるでしょう。
農作物の品質向上
栽培時のリスクを回避し、より良い農作物を作る方法が分かれば、生産性や品質も向上していきます。結果的に農家にとっては収益改善にもつながります。
例えばIoTセンサーで土壌や気候のデータを取得し、AIが最適な施肥や灌水タイミングを判断することも可能です。また栽培履歴をデータとして記録することで効率的にPDCAを回すこともできるでしょう。
農作業におけるコスト削減
これまでは人が行っていた作業を、AIやプログラムによって自動化もできます。効率化が図れるため、コストが削減できます。
ロボットによる自動作業やドローンによる上空監視は、人的作業を減らし人件費の削減に役立ちます。IoTセンサーによる監視で、見回りの労力を減らすことも可能でしょう。また監視によるピンポイントでの施肥や農薬散布により、肥料や農薬の使用量軽減にもつながります。
農業技術のスムーズな継承
作業記録のデータ化やAI分析などによって、ベテラン農家の「経験と勘」も再現可能な技術として引き継がれやすくなると考えられます。また、スマート農業により効率化され負担も軽減されれば、働きやすい環境を作ることができます。
働きやすく、結果も出しやすい貴重な農業技術を、スムーズに後世に継承できるでしょう。新規就農者を支援したり、若手のスタッフを育成する上でも大きなメリットです。
食料自給率向上への貢献
日本の食料自給率は改善が求められており、政府は2030年までに現在の37%から45%に引き上げることを目標としています(いずれもカロリーベース)。
スマート農業により、広範囲の農作業を効率的に進めることも期待できます。生産性を上げていくことで、食料自給率の向上にも貢献します。
持続可能な環境づくりへの貢献
さらにスマート農業のメリットとして、持続可能な環境づくりも挙げられるでしょう。
土壌や生態系への影響の懸念からも、肥料や農薬などは適切に使うことが大事です。そこで、AI分析を用いて農薬を必要な箇所にだけ使うスポット散布も一つの手となります。使用量を抑えることで、コスト削減にもつながります。

スマート農業導入のデメリット、課題
一方、先進技術を扱うスマート農業は、導入にあたって課題が残る場面もあります。
- 導入コストの高さ
- 機器間の互換性の乏しさ
- 一部地域で不十分な情報通信基盤
- 人材確保の難しさ
導入コストの高さ
第一に、スマート農業には導入コストがかかることは念頭に置かなければなりません。無料から使える経営・生産管理システムもありますが、1000万円超の機器もあります。初期費用や運用費用などを確認して、費用対効果も検討したうえで導入すべきでしょう。
ただし、長年使用することで効果を発揮していくサービスもありますから、中長期を見据えることも重要です。
機器間の互換性の乏しさ
またスマート農業は比較的新しい技術のため、異なるメーカー間での互換性が乏しいという課題もあります。そのため、農業に関する情報の中で使われる名称などを統一し、互換性を高めようと、各種データの項目名や農作物名などのガイドラインが作られつつあります。
一部地域で不十分な情報通信基盤
さらに一部の地域では情報通信基盤が十分に整っていない場合もあり、データ通信が難しかったり、GPS位置制御が不安定になったりすることもありえます。
技術は日進月歩で開発されているため、今後の改善に期待がかかります。
人材確保の難しさ
先進技術を扱える人材がいるかどうかも、スマート農業では課題です。
知識が必要になることや、扱いが難しいこともあるでしょう。しかし、どんな道具でも初めてのときは慣れないもの。使い続けて、勉強してみることで、慣れてくることも少なくないはずです。
農機メーカーやICTベンダーでも、より使いやすくなるように開発を進めています。

スマート農業の導入例
こうしたスマート農業について、今日、さまざまな導入事例が生まれています。どのような作業に導入できるのか、主な例を5つ紹介します。
無人トラクター・コンバイン・田植え機
まず、農機の自動運転技術は効率化に大いに役立っています。
この分野では、井関農機、クボタ、ヤンマーアグリジャパンなどのメーカーがトラクター・コンバイン・田植え機などのロボット農機を開発・販売しています。近年では国内最大手のクボタが自動運転技術に強い海外企業に対し買収を行うなど、各社こぞって技術開発を行っている分野です。
これらの農機は1000万円以上と決して安くはありません。しかし、自動運転技術を備えた農機では、1人で2台を同時に走らせるなど、効率的な作業が可能となります。リースの活用や複数の農家による共同購入など、個々の農家の負担を分散したり、各種助成金を利用したりして導入を進めることも戦略の一つです。

農業用ドローン
小型化や安定走行技術が急速に進むドローンは、さまざまな業界での活用が期待されています。
これは農業でも同じです。一例として農薬散布用ドローンは、2019年には約1900台だった販売台数が翌年には約5600台と約3倍に増えました(農林水産省調べ)。
DJIやヤマハ発動機、ナイルワークスなど、多くのドローンのメーカーが機体の性能を向上させているほか、農薬メーカーによるドローンに適した農薬の開発も進んでおり、今後さらなる普及が予想されます。
また、農薬散布以外にも下表のような多様な用途があります。
| 用途 | 概要 |
|---|---|
| 農薬や肥料の散布 | 後述の「圃場(ほじょう)センシング」と組み合わせることで、必要な時期に必要な量の農薬や肥料を効率的に散布 |
| 播種(はしゅ) | 中山間地域など作業性が悪い場所でも、短時間で正確な場所への種まきが可能 |
| 受粉 | 手作業で行っていた受粉を空中からの散布などにより省力化 |
| 農作物などの運搬 | 収穫した農作物や農業資材などの運搬の負担を軽減 |
| 圃場センシング | 画像分析などで葉の色や虫の付き方などをチェックして、生育状況や病害虫の発生などを可視化 |
| 鳥獣被害対策 | カメラ撮影により生息実態の把握や捕獲現場の見回りなどの負担を削減 |
自動収穫機・選別機
一般的に人手が必要になる収穫時期も、先進技術により効率化を図れます。
ロボットが自動で農作物を収穫する自動収穫機は、扱える品目が増えてきています。トマト、アスパラガス、ピーマン、キュウリなどで実用化が始まっているほか、果実に一度も触れずに収穫するイチゴ自動収穫機などもあります。
また、選別機についても果実や野菜などを自動選別する機械が増えてきており、重量や大きさで選別するほか、非接触型のセンサーを利用して糖度や質で選別するタイプもあります。

センシング・モニタリング(センサー・画像分析)
離れた場所にいながら、圃場の温度や湿度、照度、田の水位などのデータをセンサーや画像で確認するセンシング・モニタリングも広がっています。
圃場やハウスの内外に設置したセンサーやカメラから得たデータをパソコンやスマートフォンに送り、確認することで農地に足を運ぶ手間を省けたり、異変に早く気づけたりします。また、取得したデータをAIで分析し収穫量を予測するなどの、さらなる活用の可能性が高まってきています。
IoTとビッグデータの活用
IoTによるデータ収集の自動化と、それによるビッグデータの活用は今後ますますの発展が期待されます。
センサーやネットワークにより、ビニールハウス内の温度や湿度、土壌成分などさまざまなデータをリアルタイムで取得できます。取得したデータはクラウドに集約され、ビッグデータ分析によって農業管理を最適化できるでしょう。
高知県やJA高知県、大学や研究機関、NTTドコモ、富士通などの企業が参画する「IoPクラウド」もその一例です。IoPクラウドというクラウド型のデータベースシステムにより生産環境や、農産物の個々の出荷に関するデータまで集約し、栽培指導や生育予測、ソフト開発の基盤となる仕組みを作っています。
経営・生産管理システム
スマート農業は機器の導入だけを指すものではありません。
パソコンやスマートフォンにソフトウェアやアプリケーションを入れて、データ管理を行うこともスマート農業の一種。経営・生産管理システムは比較的に安価という点で、導入しやすいと言えるでしょう。
作業記録をはじめさまざまな営農管理が行えるアプリ「agmiru(アグミル)作業管理」(リデン)、栽培記録を残せるアプリ「畑らく日記」(イーエスケイ)や、農業専用会計ソフト「農業簿記」(ソリマチ)など、各分野で利用できる、さまざまなサービスが提供されています。
先進的なスマート農業の実施例
各種技術を実装しながら、農作業や経営に生かす企業は世界に多々あります。もちろん日本でも多くの取り組みがあり、そのほんの一部を紹介します。
オランダは国土が日本の九州とほぼ同じにも関わらず、世界有数の農業輸出国です。背景にあるのがスマート農業で、特に施設園芸における自動栽培システムなどが注目されています。
また世界で最も人口の多いインド(2025年現在)も農業の盛んな国で、特に酪農では生乳生産量が世界一位です。一例としてインドのスタートアップ企業、ステラアップス(Stellapps)は酪農へのIoTソリューションを提供しています。特徴は生産現場だけでなく、サプライチェーンの各段階に対してもサービスを提供している点。卸売業者などがセンサーで品質を判断し、価格に反映することで、生産者と卸売業者の双方にメリットが生まれています。同社は、ビル&メリンダ・ゲイツ財団からの支援を受けるなど世界的にも注目されています。
更に米国発のスタートアップ、Oishii Farmが米国ニュージャージー州に作った世界最大級の、イチゴの植物工場では環境制御が自動化されています。温度や湿度、二酸化炭素、光などをシステムにより管理するだけでなく、それを2.2ヘクタールの大型施設で稼働させている点でも先進的です。
施設栽培では日本でも自動化が進んでいます。株式会社サラダボウルでは、作業者のもとにレタスがレールに乗ってくるというシステムにより、労務コストを大幅に削減しています。同じ面積の露地栽培に比べれば、収穫量は3~5倍ともいいます。
他にも100ヘクタールの圃場で水稲を栽培する株式会社ヤマザキライスは、ヤンマーのGPS可変施肥田植え機により圃場ごとの施肥量をコントロールしています。導入に当たってはBASF社のxarvio®(ザルビオ)フィールドマネージャーの衛星センシングにより、可変施肥マップを作成。これらを組み合わせることで、効率的に栽培を行っています。


先端技術を導入したOishiiFarmの植物工場(提供:OishiiFarm)
固定観念にとらわれない農業を
ICTの世界は技術の進化が早く、スマート農業の世界でも便利なサービスが生まれ続けています。
ここに挙げたものも一例に過ぎません。生産だけでなく販売にも目を向ければ、ECサイトや販売アプリなどのサービスもあります。
固定観念にとらわれず、さまざまな入口から、自分なりのスマート農業に取り組んでみてはいかがでしょうか。

















