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NY発のスタートアップOishii Farmが200億円の資金調達「日本の農業を世界 に広める」挑戦

NY発のスタートアップOishii Farmが200億円の資金調達「日本の農業を世界 に広める」挑戦

世界が直面する食糧危機に対し、サステナブルな農業実現を目指し、アメリカ・ニューヨーク発の植物工場スタートアップ「Oishii Farm(オイシイファーム)」を立ち上げた古賀大貴(こが・ひろき)さん。同社が生産する日本品種の高級イチゴは、星付きミシュランのシェフやハリウッドセレブの間で人気で呼び、 この度約200億円の資金調達を達成した。なぜアメリカで起業したのか、古賀さんが考える農業の未来とは。マイナビ農業の横山拓哉(よこやま・たくや)が対談した。

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■古賀大貴さんプロフィール

Oishii Farm 共同創業者 兼 CEO
1986年、東京生まれ。大学卒業後、コンサルティングファームに入社。さまざまな業界のプロジェクトに参画する一方で、 農業にも興味を持ち、夜間の農業学校に通う。その後、UCバークレーでMBAを取得。2016年12月に「Oishii Farm」を設立し、2017年からアメリカ・ニューヨーク近郊に植物工場を構える。

■横山拓哉プロフィール

株式会社マイナビ 地域活性CSV事業部 事業部長
北海道出身。国内外大手300社以上への採用支援、地域創生事業部門などで企画・サービスの立ち上げを経験。2023年4月より同事業部長就任。「農家をもっと豊かに」をテーマに、全国の農家の声に耳を傾け、奔走中。

コンサル経験を生かしアメリカで起業

横山:古賀さん、自己紹介をお願いします。

古賀:Oishii Farm代表の古賀と申します。大学卒業後はコンサルティングファームに就職して日本企業の植物工場の案件を担当しました。その後UCバークレーに留学したのですが、ちょうどその時期、海外でも植物工場がはやり始めたんです。シリコンバレーにいたこともあり、コンサル時代の経験を生かして在学中にアメリカでOishii Farmを設立。卒業後の2017年にイチゴの植物工場を稼働させました。

横山:アメリカを選んだのはなぜですか。

古賀:圧倒的に品質差がある市場にプロダクト(商品)を投入した方が、話題性もあり、高い価格もつくだろうと思ったからです。アメリカっておいしいイチゴが全然ないんですよね。日本のイチゴとは全く違う品種で、夏に屋外で大量に作るようなものしか作られていませんでした。日本で高級品質といわれるイチゴをアメリカで売れば、きっと砂漠で水を売るような商売になるだろうと。だから日本ではなく、アメリカを選びました。

Oishii Farmの植物工場

ミシュラン星付きレストランがコースのデザートに選ぶ

横山:今日は栽培しているイチゴを持ってきていただきました。

古賀:これは我々が1番最初に販売した品種で、ミシュランの星付きレストランや、ハリウッドセレブの方々が購入してくれているイチゴです。一切農薬を使わずに通年栽培できる技術を確立しているので、洗わないでそのまま食べられますよ。蓋(ふた)を開けると分かるのですが、非常に香りが強い品種です。1パック開けて5分ほど置いておくと、部屋中がイチゴの香り になるぐらい。

横山:本当に甘いですね。香りも鼻腔(びくう)に一気に上がっていく!

古賀:ミシュランのシェフに食べてもらうと、ほぼ毎回「こんなにおいしいイチゴは、本当に食べたことがない」と言われます。あるレストランでは、このイチゴを一切調理せずに、そのままデザートとして出しているそうです。またレストラン以外にも、アメリカ東海岸にあるホールフーズ・マーケットなどの高級スーパー約100店舗に卸しています。

横山:この品質に達するまで、どれぐらいの時間がかかりましたか。

古賀:約1年ですね。ただ、収量がなかなか出なくて。高品質かつ収量も確保するというバランスが非常に難しくて、最適化するまでに数年かかりました。

Oishii Farmのイチゴとトマト

植物工場の生産コストは下がっていく

横山:工場はニューヨーク近郊にありますよね。人件費や生産コスト等も、かかるのではないでしょうか。

古賀:当然、コストは非常に上がっています。ただ、アメリカの場合は生産物に価格転嫁していくサイクルが日本よりも比較的早いので、日本ほどの影響はないと思っています。また我々のイチゴは高価格帯で販売しているので、人件費が少し上がっても大きな影響は受けにくいこともあります。

横山:今、設備投資をされている段階ですが、黒字化は見えてきていますか。

古賀:もちろん、イチゴの生産・販売については黒字化しています。でも我々は研究開発にものすごい投資をするので、会社全体としては黒字化していません。黒字化がゴールというよりも、今は長期的な視点で研究開発に投資する価値があると思っています。
私がそもそも、Oishii Farmをやっている1番の理由は、農業のあり方が変わっていくと思っているからです。

横山:どんな風に変わっていくのでしょう。

古賀:これまでは、植物工場の方がコストがかかると言われていました。日本だと2000年代前半で植物工場のコストは、既存の農業の2〜3倍でした。でも既存の農業のコストは、2000年と2022年で比べると、2.5倍に上がっています。 だからもう植物工場とのコストの差はほとんどなくなってきているんです。
この20年間で技術が発展し、植物工場の方のコストが下がってきています。天候に左右されないし、自動化しやすいので人件費も削減できる、水もリサイクルされる、農薬も使わない、まさにリスクフリーです。だからその研究開発に投資するだけの価値があると判断しています。

約200億円 を資金調達 さらなる展開

横山:今回、約200億円の資金調達をされました。率直な感想を教えてください。

古賀:日本を代表するような大企業もご参画いただき 、非常に心強いです。日本では植物工場は、一度「もうからない」というレッテルが貼られた産業でした 。 でも「このモデルなら世界を取れるんじゃないか」と今一度、思い直してくださいました 。それは、我々がこの6年間一生懸命やってきたことに対する最大の賛辞だと感じています。

横山:現在、新しい植物工場を建設しているんですよね。

古賀:今ある工場よりもさらに大きい工場を建設しています。今後はニューヨーク近郊だけではなく、東海岸から中西部の辺りまで広げていきたいです。今は農作物を買ってくれる方が待っている状態なので、いかに早く、たくさんの工場を世界中に立てられるかが、目下最大の課題です。

横山:今後、日本にこの技術を持ってきて、日本で挑戦する可能性は考えていますか。

古賀:一つの販売拠点として可能性はあると考えています。日本にはすでにおいしいイチゴがたくさんあって、一般の消費者もイチゴに対する知識を持ってい ます。一方で、日本のイチゴの季節は、12月〜3月と限定されています。そのため、イチゴが供給できない夏の季節にイチゴを供給できるチャンスがあるのではないかと考えています。また、日本はものすごいペースで農業従事者の数が減っていきます。なんらかの形で補填(ほてん)しなければならないとなったとき、技術的な面で我々が貢献できることはあると思います。

日本の農業は今がチャンス

横山:古賀さんは日本の農業をどう見ていますか。

古賀:植物工場や施設園芸でいうと、日本ほどおいしい品種とそれを育てる技術、人材がそろっている国は、地球上に存在しないと思っています。特に種苗は、1年や2年でできるものではなくて、何十年と物理的な研究をしてできあがったもの。だから他の国が「これはいいな」と思っても、そう簡単に追いつけません。今後、植物工場がどんどん広がっていく中で、この技術はものすごく必要になってきます。日本の農家や種苗メーカーは、もう一気に今世界をとるチャンス、岐路に立っていると思います。

横山:最後に、日本の農業界で働く方へメッセージをお願いします。

古賀:会社を経営して、本当に身にしみて分かったことは、日本の農業技術は間違いなく世界トップだということ。だから植物工場でも、日本で農業をやるのでも、海外に行って日本の農業を広めるのでも、どういう形であっても、とにかくいいものをきちんと作って、世界中の消費者に届けることを意識する。そうしてさえいれば、確実に世界に通用すると思います。みなさんと一緒に日本の農業の素晴らしさを世界中の人々に伝えていきたいので、ぜひ一緒に力を合わせてやっていきましょう。

取材場所:青山グランドホテル
編集協力:三坂輝プロダクション

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