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半農半Xの計画はこう考えよう! 二刀流で結果を出す複業農家の事業計画の立て方

hiracchi

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半農半Xの計画はこう考えよう! 二刀流で結果を出す複業農家の事業計画の立て方

農的暮らしに憧れる人が増える中、政府が本腰を入れて後押しを始めたことで、改めて注目を集めている「半農半X」。ただ、その概念はかなりアバウトなものであり、安易に始めた結果、どちらも中途半端に終わってしまう人も散見されます。こうした失敗を防ぐためには、本人が描く将来像や目的に沿って事業計画をきちんと立てることが大事です。今回は、二刀流で結果を出し続ける複業農家、そしてお金の専門家であるファイナンシャル・プランナーの立場から、事業計画の立て方をアドバイスします。

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まずは「理想の半農半X像」を考える

野菜を持つイメージ写真

半農半Xといってもさまざまなスタイルがあります。まずは自分の理想像を明確にすることが最初のステップになります

半農半Xの事業計画を考える上で前提となるのが、まず「自分がどんな半農半X像を描いているのかを明確にすること」です。

一般的には「小さな農業で食いぶちをまかないながら(半農)、自分が好きな仕事をする(半X)」というのが「半農半X」のイメージだと思います。ただ、その他にも、単純に農業をしながら別の仕事を持つ「兼業農家」のスタイルもあれば、僕が「半農半X2.0」と呼んでいるような、どちらか一方でも十分に暮らせる程度の高収入を得るスタイルなど、さまざまな形態があります。まずは「あなたがどんなスタイルを目指したいのか」を考えるところから始めるのがいいでしょう。

最近では、新たに農業に取り組む人を紹介したテレビ番組や記事をよく見ますが、これらを見て「私も成功できそうだ」と安易に飛び込むのは禁物です。なぜなら、その人が本当に成功したかどうかは、数年で結論を導き出せるものではないからです。コロナ禍もすでに3年近くとなりますが、それでもまだ3年です。コロナを機に移住して新たに農業を始めた人は、まだ本当に成功したと言い切れる段階ではないでしょう。そのあたりは、くれぐれも冷静な目で判断するようにしてください。

特に年齢を重ね、子どもを育てている家庭の場合、注意したいのが「将来の子育て費用」です。自身の理想を追い求めるだけでなく、「パートナーはどんな人生を描きたいのか」「子どもたちにはどういった教育環境を与えたいか」など、家族の将来をきちんと見つめ、理想のライフプランを考えておくことが大事です。

事業計画の前に今後のライフプランを整理

ライフプラン

事業計画を考える前に、理想の人生を手にするためのライフプランから考えることが大事です

目先のやりたいことを優先し、未知の世界に勢いで飛び込んだ結果、長続きせずにやめてしまった……ということでは本末転倒です。サラリーマンとは違い、あくまで「半農半X」は、小さいながらも経営者です。それ相応の初期投資が必要であり、会社員とは違ったリスクが伴います。「どれだけの稼ぎがあれば理想の人生を手にできそうか」を、きちんと見極めておくことが肝心です。

今後のライフプランを考える際、参考になるのが、日本FP協会ウェブサイトの「便利ツールで家計をチェック」というページに掲載されている各種ツールです。

まずはこの中にある「ライフイベント表」と「家計のキャッシュフロー表」を自分なりに作り上げてみてください。「半農半X」でしっかり稼ぐ僕のようなタイプの人にとっても、「いやいや、もっとゆっくり暮らしたい」というタイプの人にとっても、今後を左右するとても重要な作業になるはずです。

「お金に関することは専門家に相談すればいい」と考えている人もいるかもしれませんが、このくらいのお金の計画が立てられないようであれば、そもそも自分でビジネスをするのはやめた方がいいです。難しい計算は必要ありません。加減乗除だけで十分作成できる内容です。一度立ち止まって家計のプランを作ることは将来必ず役に立ちますので、ぜひこの世界に飛び込む前に取り組んでみてください。

既存のX部分の売り上げにより計画は変わる

タマネギのイメージ

事業計画のポイントになるのが「X」の現状です。これによって事業計画が大きく変わります

きちんと家計に向きあった上で、次は具体的な事業計画について考えていきます。半農半Xの計画を考える時には、僕のように「すでにXでそれなりの収益を上げている人」と、「両方とも新規で始める人」とでは、考え方が大きく異なってきます。

農業で収益を上げるためには、かなりの時間がかかります。僕の場合、単年で黒字化できたのは就農してから3年目のこと。それまではずっと赤字が続きました。生活がある程度安定する売り上げ1000万円に到達したのは、就農5年目のことでした。体力のある企業であれば問題ないかもしれませんが、個人事業で数年にわたり赤字の状態が続く状況は、生活を破綻させる危険性があります。

選択した作物によって違いはあるものの、周囲の新規就農者の状況などを見る限り、ある程度の収益を安定的に得られるようになるまでに5年程度はかかるのが相場でしょう。そのため、黒字化するまでキャッシュが枯渇しないような計画を立てることが重要です。

鍵を握るのが「X」の部分です。僕の場合、就農前の段階でフリーライターとして年間1000万円以上の売り上げを上げていました。そのため、利益率は高いけれど、栽培期間が長く、じっくり時間をかけて取り組まないといけないニッチな作物に挑戦することができました。

Xの売り上げをどこまで減らすかがポイント

ライター業のイメージ

すでにXで売り上げがある人は、これを一時的にどこまで減らすのかがポイントになります

すでにXで売り上げを上げている場合、Xの売り上げをどれだけ削り、そこで浮いた労力をいかに農業へ振り向けるか。そのバランスの見極めが一番のポイントになってくると思います。

僕の場合、ライターの売り上げ1000万円、農業の売り上げ1000万円、2つの事業を合わせて2000万円を5年後に達成する計画を立てました。どちらか1本でも食べていけるラインが、それぞれ売り上げ1000万円だと見込んでいたからです。ライターは景気の波に左右されやすい業種ですが、一方の農業は、食に関わるビジネスのため、景気に左右されにくく、比較的安定しています。2つの事業の相関性が低いためリスク分散になり、両方でバランスよく売り上げが確保できれば、ライター1本の時に比べ、ビジネスがより安定すると考えました。

単純に考えれば、すでにライターの売り上げが1000万円あるわけですから、「現状の売り上げを維持しながら、そこに農業をプラスする」と考えがちですが、それを実現するのは難しいでしょう。なぜなら、新たにスタッフを雇用しない限り、「時間」が足りなくなるからです。就農時の補助金用の事業計画書などは、「時間の概念」が抜け落ちていることが多いですが、僕のように「1人ないしは家族ぐるみ」のスモールビジネスとしての「半農半X」を考える場合、時間を意識した事業計画にすることがとても重要です。単純に売り上げ拡大だけを目指すと、どこかで破綻します。

僕の場合、まずはライターの仕事の棚卸しから始めました。どの取引先の仕事がどれくらいあるのかを調べ、その作業にどれほど時間を割いているのかを調べました。ここで重要となるのが「時間単価」です。Xを続けながら農業を新たに始める場合、これまで以上に効率よくXで稼ぐことが求められるからです。この作業で「どの仕事が効率よく稼げるのか」を洗い出した僕は、就農のタイミングで効率の悪い仕事からお断りしていきました。

当たり前ですが、就農のタイミングでは、ライターの売り上げが半分ほどに落ちました。まずは農業をうまく軌道に乗せるための時間を捻出するためです。新規就農したタイミングでは、どうしてもベテラン農家に比べて作業に時間がかかります。それは仕方がないことです。ただ、5年くらい続けると、徐々に「どの時間を削れるか」「どうやれば作業効率が上がるのか」が見えてきます。また、農繁期・農閑期の流れが分かるようになるため、「この時期ならある程度多めにXの仕事を受注できる」といったことが分かってきます。

ここまで来れば、一時的に落ちていたXの売り上げを、再び上げていくことが可能になるはずです。この流れを意識した事業計画にすれば、「農業」と「X」の両方から効率よく稼げるビジネスモデルが実現しやすくなるでしょう。

農とXを両方新規で始めるなら初期投資額に注意

トラクターでの作業イメージ

「農」「X」の両方を新規で始める場合は初期投資額が過大になりがち。Xはコストがかかりにくい事業を選ぶなど工夫が必要です

一方、「農業」の部分も「X」の部分も、どちらも新規で始めるケースは、すでに「X」である程度の収入を得ている人に比べ、どうしても難度が高くなります。どんなビジネスもすぐに軌道に乗るものではありません。安定的に収入を得られるようになるまでに、それなりの時間がかかる。それを一気に2つも同時に行うわけですから、初期投資額も大きくなりやすく、売り上げの変動などのリスクも高くなります。十分な自己資金を確保したうえで、相応の覚悟を持って計画を立てていくことが大事になるでしょう。

農業には、かなりの初期投資がかかります。作物によって違うものの、小型の中古トラクターや軽トラックなど、必要最低限のものを購入するだけでも、200〜300万円はかかってくるでしょう。いずれにしても、個人で行うビジネスとしてはそれなりの金額です。

「農業」と「X」を同時に新規で始めるのであれば、農業で初期投資額がかかる分、「X」は設備投資が少なくて済み、かつランニングコストもほとんどかからない「身軽なビジネス」を考えるべきです。パソコンがあれば済むようなものが理想です。店舗を構えるようなものは、よほどの好条件でない限り、避けた方が無難だと思います。

ビジネスは、当初の計画通りには進まないもの。少しずつ軌道修正しながら大きくしていくのが鉄則です。どちらもうまくいかなかった場合を初めから想定し、一気にキャッシュが溶けていくような状態だけはくれぐれも避けてください。

また、事業計画書は、ざっくりとしたものでもいいので、最低5年くらいのスパンで作成してください。繰り返しになりますが、農業が軌道に乗るまでにはそれくらいの時間がかかるからです。「1年で黒字化」といった華々しい成果を伝える記事などがあっても、うのみにせず、地に足が付いたプランを中・長期視点で立てるようにしましょう。

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