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売り上げは10アールで1500万円。突出した収量、単価を実現した農業経営術

窪田 新之助

ライター:

売り上げは10アールで1500万円。突出した収量、単価を実現した農業経営術

80アールのハウスでトマトとイチゴを栽培している東馬場農園(兵庫県神戸市)。収穫物の大半は近隣の量販店に卸し、残りはハウスに隣接するトレーラーハウスで直売している。特筆すべきは、売り上げとして約1億2000万円を上げている点。10アール換算で1500万円だ。国内トップクラスの収益を実現している理由について、代表の東馬場怜司(ひがしばば・さとし)さん(39)に話を聞いた。

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量販店に卸し、一部は直売

東馬場農園は、大阪や神戸のベッドタウンである三田市と境を接する神戸市北区にある。水田と住宅が混在する一角に建てた60アールのハウスでトマトを、20アールのハウスでイチゴを栽培している。

トマトは大きさでいうと大・中・小の3種類、イチゴは品種でいうと主力の「紅ほっぺ」をはじめ、「章姫(あきひめ)」「おいCベリー」「かおり野」「とちおとめ」の5つを作っている。

3年前から作り始めたイチゴは当初、完熟するととくに美味しさが増すという「紅ほっぺ」だけにしようと思っていた。だが、試験栽培している段階で顧客の好みに違いが出やすい作物であることに気づき、幅広い品種を揃えることにした。

反収を上げるため、人の育成に時間をかける

10アール換算で1500万円の売上げを求めるなら、収量と単価の両方で突出した成果を挙げないといけない。このうち収量では、トマトの大玉で40トン以上、イチゴで7.5トンを挙げている。イチゴについては一カ月ほど早くに切り上げているので、期限ぎりぎりまで取れば「8トンになるでしょう」と東馬場さん。
これだけの反収を挙げられている要因は環境制御技術の巧みさにある。東馬場さんは環境制御技術について、大学在学中に基礎を学んだほか、卒業後には施設園芸の総合商社に勤めて実践を積んできた。その経験を踏まえて、光合成の活性を左右する採光率や二酸化炭素の濃度を調整するため、環境制御機器でハウス内の保温や遮光のカーテンの開閉のほか、二酸化炭素の発生装置や加温機の稼働を管理している。

ただし、環境制御機器の設定は自動化されていない。あくまで状況から判断して設定するのは人。だから人の育成に時間をかけている。

ハウスを管理するのは、1人を責任者にした従業員3人のチーム。いずれも入社前に農作物を栽培した経験はない。そこで東馬場さんは、彼らと毎週会議を開いている。毎回の議題は、前の週の反省と、それを踏まえた次の週の改善について。収量や品質が落ちた原因などをともに考え、改善法を教え込む。国内を見渡しても施設園芸の理論と実践を体得できる場は少ないだけに、貴重な機会だ。

基本的にハウスの管理は3人のチームに任せている。彼らを突き動かすのは、作付け前に設定する一週間単位の収量の目標値。目標値は、基本的には前年の実績を踏襲するが、課題があった週については改善点を洗い出して、善処する。

たとえば、ここ2年かけて取り組んだのは、トマトの早出し。「販売環境が厳しくなる」という4月よりも早い時期に収獲できるよう、栽植密度を増やすと同時に、受光姿勢を良くする方法を模索した。東馬場さんは「いい結果が出ている」と語る。栽培での結果は従業員の賞与に反映させている。

勝負は5キロメートル圏内

高収益のもう一つの要因である高単価については、中間流通を省くことで実現している。量販店に直接卸すことで、JAと市場を経由するとかかる手数料や運送費などを大幅に削った。

加えて地産地消に力を入れる。大消費地の京阪神にあって、とくに重視する商圏は農園から半径10キロメートル。遠近さまざまな店舗で販売した結果、とくに10キロメートル圏内での売れ行きが「まるで違った」と東馬場さん。

そこで始めたのが、主に近隣の住民を対象にした直売である。農園のそばに中古のトレーラーハウスを直売所代わりにしたところ、売上げが全体の1割を占めるまでになった。

目指すは「人が来る農園」

東馬場さんが設立当初から理念に掲げてきたのは「人が来る農園」。農業の魅力を発信することで、働き手としても買い手としても多くの人に来てもらいたいという。実際に彼らが新たな働き手や買い手を呼び込んでいる。

この動きを広げようと、次の作付けから始めるのがイチゴの観光農園。20アールのハウスを増棟し、トイレや水洗い場を設けて、イチゴ狩りを基軸にしながら、さまざまなイベントを開催していくという。

人が来るという意味では、東馬場農園は毎年、少なくとも1人の研修生を受け入れている。これまでに4人が巣立った。「情報を交換し合うなど、助け合える関係ができているのがいい」と東馬場さん。
関連して伝えておきたいのは、最近になってハウスの施工や保守、管理の業務を始めたことだ。理由は、外注した場合の費用が高騰していたから。たまたま従業員の一人がハウスのメンテナンスが得意であったことから、その施工や保守、管理の専属の担当者にした。担当者は、東馬場農園だけではなく、そこから巣立った人たちのハウスの面倒も見ている。さらに施設園芸の関連企業からの仕事も受託している。東馬場さんは「ハウスの施工費は半額くらいになっている印象」という。
目下の課題は資材費の高騰だ。取引先の量販店とは、次の作付けから卸値の交渉をする予定。東馬場さんは「物価も上がっているなか、従業員の給料にも反映できるように交渉していきたい」と話している。

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