無農薬栽培の「国造ゆず」、オンライン産地ツアーでPR
石川県能美市の特産品「国造ゆず」の生産が始まったのは1986年。現在、中山間地域の国造地区に開墾された「ゆず団地」の一帯、約2.2ヘクタールに700本のゆずの木が植えられています。かつては40人以上の生産者がいましたが、今ではわずか3人ほど。有機質肥料を使い無農薬で、一般的な種あり品種の「木頭」と小ぶりで種のない「多田錦」を国造産の「国造ゆず」として栽培しています。
「無農薬で作ったゆずを一人でも多くの人に知ってもらうことが、我々生産者の一番の望みです」と話すのは、生産組合長の塚田良三(つかだ・りょうぞう)さん(85)です。ゆずは苗木を植えてから収穫まで18年かかりますが、これまではやっとの思いで育てても、販売先がありませんでした。儲からないため収穫すらされず、耕作放棄地化しつつあった「ゆず団地」の管理を30年ほど前に買って出ました。子どもの頃、祖母が作ってくれたゆず味噌(みそ)のおいしさが忘れられなかったからです。
そんな国造ゆずの魅力が消費者に認知されるようになったきっかけが、体験型イベントの実施。これまでは参加者を現地に誘致して開催してきましたが、コロナ禍の2021年はオンラインにかじを切り、美しい里山をVRで体験できるイベント「五感で堪能 ゆずいろのくにツアー」をオンラインで開催しました。
ツアー参加者は、VRゴーグルを装着して360度カメラで撮影されたゆず畑を塚田さんと同じ目線で歩き、はしごを上って、収穫を疑似体験。事前に届けられた国造ゆずは皮ごと2つに切り、一緒に届いた国造ゆずの蜂蜜をかけて食べ、豊かな風味を味わっていました。
塚田さんが伝えたいことの多くが、この体験に詰まっています。国造ゆずを皮ごと楽しめるのは、無農薬で育てられているから。また、国造ゆずの蜂蜜は、ミツバチがゆず団地のゆずの花から集めたものです。無農薬栽培だからこそミツバチが畑を飛ぶことができ、全国的にも貴重なゆずの蜂蜜を採ることができるのです。
コアな消費者と直接つながる仕組みを作る
塚田さんが言うとおり、国造ゆずはもともと販売先がありませんでした。11月に収穫されたゆずは、大部分がジュースに1次加工され、直売イベントの「国造ゆず祭り」(主催・能美市農林課)で果実とともに販売されますが、ジュースは毎年一升瓶で約100本が売れ残り、2年、3年と在庫化。生産者は自分たちで売る必要に迫られていました。
加工材料として供給したくても、ゆずには隔年で豊作と不作があり、特に国造ゆずは無農薬栽培のためか、収穫量は年によって10トンから2トン弱までの開きがあります。安定供給ができないため、大口の取り引きにはかないません。
国造ゆずの都市圏消費者への認知向上に協力してきた森進太郎(もり・しんたろう)さん(国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学 未来創造イノベーション推進本部 研究員・主任リサーチアドミニストレーター)は、「小規模生産の産地が大量生産の産地に勝つために、無農薬栽培や希少種の多田錦、生産者が少ないことを強みとして、消費者と直接つながり、関係性を強める必要があると考えました。その方法を本学主催するMatching HUBという産学連携イベントの出展者であった一般社団法人地域資源サプライチェーンイノベーション研究機構(NIRSI)などの関係企業が考案し、生産者との共創がはじまりました。」と話します。
わざわざ産地に足を運んでくれる人はコアなファンになってくれるに違いないと、リアル(現地参加)で実施されてきた産地ツアーは、コロナ禍で前述のオンライン開催になりましたが、「交通の便が悪い山の中に人を呼ぶのは不便で、経費もかかります。オンラインでPRをするのは、我々のこれからの道だと思います」と、生産者の塚田さんは前向きです。
新たな関係性とネットワークで活路を開く
国造ゆずの販路の課題に風穴を開けたのは、化粧品への6次加工。2017年に国造ゆずの精油を使用したハンドクリームなどの化粧雑貨を協力企業が発売しました。搾汁した後に廃棄していたゆずの皮を有効活用し、商品の売り上げの一部は産地に寄付され、苗木の植栽や小学生の体験学習の一部費用にあてられています。
流通にも変化がありました。「廃棄していたゆずの皮は買いたたかれていたが、国造ゆずの生産過程をオープンにしたことで、そこに価値を見いだす人たちがつながり、共創によるモノづくりができるようになったと思います」と森さんは話します。
「これまでは作っても需要がなくて赤字続きでしたが、ゆずで収入が得られるようになれば後継者も増えると期待しています」と塚田さん。現在、塚田さんの息子も生産に加わり、国造ゆずを原料としたプリンやマーマレードなどの商品開発にも取り組んでいます。
DXで開く多様な人材と共創する未来
2022年度の産地ツアーは、ゆずの実が色づく10月下旬、畑の体験のほか、食べる体験、首都圏の小売店と生産地をオンラインでつないでVRを使った香を作る体験が、リアルとオンラインを融合して行われる予定です。
「大切なのは、最終消費者であるお客さんに応援してもらえる仕掛けをして、遠方にお住まいの方であっても関係を続けられる仕組みを作ることです。伝えること、つながることが、頻繁に、リアルタイムで、できるのがデジタルの利点。遠方の顧客と近い状態になるための手段の一つがVRであり、Zoomなどのオンラインツールです」と、森さんは産地ツアーの原点を振り返ります。
森さんらの取り組みを追ってきた株式会社日本総合研究所の多田理紗子(ただ・りさこ)さんは、「コロナ禍でオンラインにせざるを得なかったことがきっかけかもしれませんが、生産者の塚田さんの視点が追えたり、東京をはじめ地域外の人が参加しやすくなるなど、現地へ行くことにとらわれない新たな接点により、地域内外の関係性がさらに多様化する可能性があると感じています」と語ってくれました。
DXにより、農業・農村と普段は遠くにいる消費者との関わり方にも、新たな可能性が広がっています。
《イベントの詳細はこちら》
五感で堪能~ゆずいろのくにツアー2022
(主催:一般社団法人地域資源サプライチェーンイノベーション研究機構(NIRSI))
2022年10月29日(土)
https://nomi-yuzu-wanowa.peatix.com/