取材協力いただいたミニトマト農家/大住 正樹さん
【プロフィール】
■年齢:41歳
■就農年数:12年目(2010年就農)
■出身地:埼玉県川越市
■地域:岩手県南地域・一関市
■規模:ミニトマト 30a/ハウス8棟(就農時ミニトマト10a/ハウス3棟)スナップエンドウ3a 葉物野菜など
■出荷先:9割はJA、1割は産地直売所やネット販売
■活用資金・事業:経営体育成支援事業、一関市の補助事業
■営農形態:4人(本人、妻、パート2人)
■暮らし:本人・妻・息子・娘の4人暮らし
※2022年8月現在
農業を「仕事」として選択 岩手へ移住を決意
―岩手県で就農したきっかけは?
母の実家が岩手県一関市(旧藤沢町)にあり小学生の頃、夏休みの30日以上を祖父の家で過ごしました。祖父がトマトを作っていたので遊び感覚で手伝っていました。祖父の働く姿を見て『農業もいいな』と思い、仕事の選択肢に入りました。
高校は普通科でしたが進学を考える時、先生に勧められて埼玉県の農業大学校で2年間学びました。学校では北海道富良野市との交流があったので、卒業後は富良野市でミニトマトを栽培する農作業ヘルパーを3年間、ミニトマト農家で5年間研修しました。
2009年、研修先が一緒だった妻・茜さんと共に、新規就農を目指して北海道から一関市へ移住。翌年には就農し、祖父がトマトを作っていた3棟のハウスでミニトマト栽培を始めました。
移住前からどんな農業をやりたいか相談
―就農に向けた準備は?
移住する前に、岩手県の一関農業改良普及センターに経歴や経緯を説明し、岩手に行きたいとメールで相談しました。2回ほど下見に来て、夫婦で住む家と実家所有の土地以外でも農地を探しました。「どんな農業をやりたいか」を自分で考え、関係機関に相談しながら経営計画を作成しました。
大変だったのは農地の確保です。規模拡大を視野に入れると、実家の農地だけでは面積が足りなかったので農地の取得を検討しました。岩手では農地は家の財産という意識が強いため購入が難しく、借りる方向で調整しました。今、実家の農地と新たに近所の人から借りた農地にハウスを建てています。ハウスを建てる際には、補助事業を利用し半額助成してもらい、不足分はJAの融資を受けました。トラクターや畝立て機などの購入時にも一部支援してもらいました。
栽培技術に自信があったミニトマトを栽培
―栽培作物、技術の習得は?
北海道での研修内容がミニトマトだったので、技術的にも一番よく分かっていたミニトマトを栽培品目にしました。量的に取れること、金額的に単価が高いこともミニトマトに決めた理由です。
就農後は、JAのミニトマト部会で技術指導を受けています。現在、年間約8tの収穫がありますが、10a当たり6tを目指しているのでまだまだ目標に届いていません。定植時期の遅れや、ほ場条件に課題を感じています。適期に定植し、ほ場の排水対策をすることで課題解決を図り、収量アップを目指します。
ハウスを有効活用し春先の収益を確保するため、スナップエンドウの栽培も始めました。栽培方法はJAから指導を受け、自分でも工夫しながら取り組んでいます。
経営理念と家族経営協定で方向性を明確に
―農業経営の特徴・こだわりは?
経営理念として「食卓に夢と希望と彩りを」と掲げています。ミニトマトを食卓に届けることを通して、私たちの思いを伝えたいと考えました。これまでの経営計画に加え、自分たちの心意気を込めた理念を掲げることで方向が定まりました。
また、妻とは家族経営協定(※)を締結し、働く時間や役割分担、専従者給与などを取り決めています。協定により農業経営と家計を分離することで、経営内容の分析や仕事と家事の両立が行いやすくなりました。就農してから12年間、毎日の作業の段取りから、将来の経営の方向性まで何でも話し合います。妻の発想から気づかされることや、新たに挑戦することもあり、おおすみファームの共同経営者として頼りになる存在です。
(※)家族経営協定
家族農業経営に携わる各世帯員が、意欲とやりがいをもって経営に参画できる魅力的な農業経営を目指し、経営方針や役割分担、家族みんなが働きやすい就業環境などについて、家族間の十分な話し合いに基づき取り決めるもの。
思い通りにいった時は結果がついてくる
―農業の面白さ、やりがいは?
自分なりに作業が達成できた、仕事が順調に進んだ時は結果が出るのでやりがいがあります。一番の面白みは、苗を植えて、花が咲いて実になる、収穫する、という生長過程を見ながら毎年いろいろ工夫し、栽培研究できることです。
普段はJAに出荷していますが、産直の軽トラ市で直接お客さんとやり取りすることもあります。「おいしい」と言ってもらえると大切に育てた野菜が評価されたと感じ、うれしく思います。
移住後の暮らしは地域密着&子育てもしやすい
―移住後、暮らしは変わりましたか?
農業は、自分のタイミングで仕事ができるので、時間にとらわれない働き方が可能です。繁忙期は難しいですが、冬場は自分の時間を自分で決められます。地域住民との関わりも大切にしながらお祭りやイベントなど自治会活動もしています。地域に知り合いがいないので、役員を務めることで顔を覚えてもらえるというメリットがあります。
こども園(保育園)や学校は少人数で、自然に囲まれた子育てしやすい環境だと思います。JA青年部では、地域の子どもたちとジャガイモづくりをし、土に触れ、食べる大切さを伝えています。活動を始めて10年になり、地域とのつながりもできてきました。
西洋野菜の栽培に挑戦したい
―今後の目標や挑戦したいことは?
数年前に、妻の提案で西洋野菜の栽培に取り組んだことがあります。妻の出産と重なりミニトマトとの両立が難しく中断していましたが、また始めたいと思っています。ケールやビーツはサラダやスープに使えて食卓に彩りを添えます。冬の間のハウスで栽培できる利点を生かして、栽培方法を研究していきたいと考えています。
ミニトマト栽培では改善したいことがたくさんあります。今年は、苗を植える本数を減らして通路を広くしてみました。パートさんも作業が楽だということで、効率がアップしたと思います。試行錯誤しながら毎年、見えてくる課題を改善しています。
農業には伸びしろがある!
―就農希望者へメッセージ
農業は「伸びしろのある産業」だと思います。食糧という一番大事なものを作っている産業で、生活の根底であり、経済の根底です。一次産業が回らないと経済は回らないのです。ただし、自分たちが本当に作りたいものを作って、ここの地域に住むんだ、という覚悟がないと農業はできません。
JA、県や市などが農業をしたい人を支援する新規就農ワンストップ相談窓口や、一関市独自の研修制度があります。この地域の夏秋5品目(トマト、ピーマン、キュウリ、ナス、ミニトマト)を勉強する場、いろいろな品目を栽培経験できる滞在施設のような場所があれば、農業を始める人が作る品目を決めやすくなると思います。
一関市で農業を始めたいと思ったら
■新規就農の相談窓口
新規就農ワンストップ相談窓口 毎月第2水曜日開設。
農業体験から就農準備、就農後のサポートまで細やかに対応しています。
岩手県や市、JA 等の関係機関が連携して就農・農業経営をサポートします。
■就農に関するお問い合わせ
一関地方農林業振興協議会担い手部会事務局 一関農業改良普及センター
TEL:0191-52-4961 FAX:0191-52-4965
E-mail:CE0019@pref.iwate.jp