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生物多様性保全に向けた、一次産業の取り組み

生物多様性保全に向けた、一次産業の取り組み

2022年初冬は環境に関する国際的な会議が続いています。国連気候変動枠組条約第27回締約国会議(2022年11月6日~20日)、ワシントン条約第19回締約国会議(同11月14日~25日)、そして生物多様性条約第15回締約国会議(同12月7日~19日※本稿執筆時点予定)。特にワシントン条約では、水産資源をはじめとした資源管理が厳しさを増すこととなり、関連するフードチェーンど、さまざまな産業で資源アクセスが困難な未来を予想させる状況です。一次産業においては、予見される未来を見据えるタイミングが来ています。

ワシントン条約が伝える資源減少の現状・影響

フカヒレの原料となるサメが入手できなくなるかもしれない、そんな未来が近づいていることを匂わせる取り決めがワシントン条約で決定しました。同条約の附属書Ⅱに、フカヒレの原料となるメジロザメ科とシュモクザメ科の全ての種が掲載されたのです。

ワシントン条約の正式名称は「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora、略称CITES)」というもので、国家間の過度な国際取引による種の絶滅を防ぐため、国際取引の規制が必要と考えられる野生動植物の種を附属書にリストアップしています。附属書Ⅰに掲載されると商業目的のための国際取引が原則禁止、附属書ⅡやⅢでも輸出許可書が必要になるなど、取引に制約がかかることになります。

ワシントン条約の附属書の種類(環境省「ワシントン条約とは」を基に日本総研作成)

わが国でたびたび話題になるウナギについても、2007年にヨーロッパウナギが附属書Ⅱに掲載されています。ウナギの国内供給量の減少については、日本向けの輸出目的で中国においてヨーロッパウナギの養殖が急成長し、その後の資源減少と共に急速に衰退したことが主要因とされていますが、附属書Ⅱの掲載直後から輸入量がさらに大きく減少しており、国内供給量減少を加速化させたことは間違いありません。

ワシントン条約第19回締約国会議では、約100種のサメとエイ、150種以上の樹木、約160種の両生類、約50種の亀、数種の鳴禽(めいきん)類(スズメの仲間)がワシントン条約の保護下に置かれることになりました。これは、それだけの生物種が絶滅の危機にさらされているということであり、関連する産業において資源利用が困難になる未来を強く認識させるものであると言えます。

一次産業において資源が利用できなくなるということの持つ意味

資源が使えなくなることによる困難さについては、ロシアによるウクライナ侵攻以降、農林水産業現場でも強く感じられているのではないでしょうか。一部ではロシアからの肥料原料の輸入見直しなどが進められることとなり、最近の円安もあいまって、生産コストの増大が深刻な問題となっています。資源の獲得競争から、そもそも資源が入ってこなくなった時にどうするかということに思いを巡らせる生産者もいるようです。

生物資源についても、実は生産コストに跳ね返ってくる可能性があります。例えば、約30年前には日本での年間漁獲量が400万トン以上あったとされ、安価で飼肥料にも利用されてきたマイワシは、1990年代に大幅に減少、一時期ほとんど水揚げされなくなりました。マイワシの減少は食用のみならず、飼肥料の自給にも直結する問題と言えるでしょう。

さらに、生物資源の場合は、目に見えない形で資源利用を困難にする可能性が指摘されています。近年の例で言えば、米国に侵入した日本のミミズが、ミミズの中に存在する微生物群によって現地の土壌を作り変えてしまっているというのです。土壌の中にはさまざまな菌が共生しており、その急激な変化は、病気や生育の不安定化といった形で作物に影響する可能性があります。土づくりに取り組む生産者であれば、土壌という資源がこれまで通り使えなくなる恐ろしさをより強く感じられるのかもしれません。

生物多様性を取り巻く環境の悪化とそれにより農林水産業が被る影響の関連性は、まだわからないことも多く残されています。しかし、生産に使用可能な資材への影響のみならず、生産に利用している環境そのものへの影響も危惧される段階に来ています。農林水産業の生産現場では、これまでの生産がどのような形で生物多様性に影響を与え、どのようなソリューション(解決策)を取りうるか、また、想定される環境の変化にどのように適応していくのか、観察(Observe)し、状況判断(Orient)の上、決定(Decide)、実行(Act)していく「OODA(ウーダ)」を繰り返し行う必要があります。

農業の炭素貯留を巡るトライアルからの学び

生物多様性に関する農業現場での取り組みを進める上で、先行する温室効果ガスの排出量削減に関する取り組みは参考になります。農業は航空業界全体の排出量を上回る炭素吸収の可能性があるとの試算も出されています。農業を通じた気候変動対応の可能性を受け、食品会社を中心にサプライチェーンの改革が進んでおり、ネスレはサプライチェーンにおける再生農業(農地とその生態系を保全、回復することを目的とした農業システム)の利用を拡大するため、2030年までに1500億円超を投資するとの発表もありました。気候変動対応を求める潮流の中で、こうした企業投資は一層活発化していくでしょう。

では、海外では、気候変動対応のための、誰でも同じような効果が期待できる、実行可能なソリューションが明確化されているのでしょうか。どうやら実態は異なりそうです。

これまでのソリューションの実践を通じて
・不耕起栽培は土壌中に炭素を貯留できるため大気中の炭素低減に効果的とされるが、寒冷湿潤気候の農場で耕起をやめても、高温乾燥気候の農場ほどには効果がない
・不耕起栽培に切り替えた農家が全て、より多くの炭素を地中に蓄積できているわけではない
・農法を変えることで減少した生産量を確保するため農家がより多くの土地を使うことになり、結果的に森林伐採や自然草地の転換が進む(土地利用転換が進むことは生物多様性保全についてマイナス効果)
といった可能性が明らかになりつつあります。同じ温室効果ガスだとしても、ソリューションの選択・適用には農業現場のOODAループが必要な状況なのです。先行する農業者・企業は、研究者とも協力しながら取り組みを進めています。

生物多様性の保全と農林水産業の両立に向けたOODAループ(日本総研作成)

生物多様性についても現場のトライアル推進を

温室効果ガスはどこで排出されても同じ効果であり同様に測定できるものですが、その対策・ソリューションは農業現場ごとに考える必要があるということが分かってきました。生物多様性については、そもそも保全対象となる生物や目標・指標が地域によって異なっており、対応するソリューションに温室効果ガス以上のトライアルが必要であることは自明です。

2022年11月29日、SMBCグループとMS&ADグループでは自然資本・気候変動分野での業務提携を行い、その中で「ネイチャーポジティブ実現のためのソリューションを持つ企業や研究機関・研究者が集まり、自然資本に係る課題解決に向けた調査・研究を行うコンソーシアム」を立ち上げることを発表しています。日本総合研究所もコンソーシアムの中で活動することを予定しており、どのようなソリューションが選択しうるのか、どういった効果が期待できるのかなどを明らかにしていくことで、農林水産業の現場でのトライアルとOODAループを支援し、生物多様性の保全が進められていく未来を作っていく考えです。

書き手・日本総合研究所 古賀啓一

生物多様性に関連したビジネス支援、農業分野に注力。世界初となる生物多様性に特化したファンド商品を企画・開発。ネオニコチノイド系農薬等のリスク評価制度設計。スマート農業技術と先端技術の評価・普及支援、静岡県研究開発事業審査委員。

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