データや統計を疑え
まず一つ目のポイントとしては、公表されているデータや統計は疑って掛かることです。
就農希望の方が農業に興味を持って作物ごとの収益性を調べていくと、下記のようなデータに行きつくことでしょう。
【露地野菜(単位千円 平成19年度)】
品目 | 農業粗収益 | 農業経営費 | 所得 |
だいこん | 315 | 175 | 140 |
さといも | 412 | 151 | 261 |
きゃべつ | 392 | 210 | 182 |
白菜 | 321 | 197 | 124 |
ほうれん草 | 342 | 160 | 182 |
2007年度品目別経営統計(農林水産省)をもとに作成
これは、露地野菜を生産した場合にどのくらいの所得を得られるかなどを作物別に示したデータの一部です。
いざ営農計画を立てる時には、このようなデータは参考にはなりますが、これらを読み解く際には気をつけるべき所がいくつかあります。
①データの年度が古すぎる
まずは、参考データが何年度に集計されたものかを確認しましょう。
上記の表では2007年度になっていますが、これでは今の農業経営を反映できているとはいえません。
10年以上もたてば、その作物の農業経営はすっかり変わっています!
例えば施設ナス栽培の場合
● 品種や栽培方法の改良
● 機械設備の進化
● 経費の大幅増加
など、10年前の常識では通用しなくなっています。
特に近年はコロナ禍やウクライナ情勢の影響により、経費額や作物の価格は不安定さが一気に増した印象です。営農計画を農政や融資先に提出する際は、最新の年度のデータを参照するようにしましょう。
データが新しいほど、今の農業の実情を反映しています。もちろん、昔の統計などが全てダメなわけではないですし、参考にはなりますが、一方で信用しすぎるのは禁物ということを頭に入れておいてください。
②平均では読み取れない情報もある
収量や売上のデータは、平均値で示されていることがほとんど。平均値は状況を俯瞰する上では参考になる数字ですが、全ての農家が平均値付近の収量や売上を上げているわけではありません。
もしかしたら、平均値より低いところに多くの農家が分布していて、少数の先進農家が平均値を引き上げているのかもしれません。
つまり、実際の現場は平均だけでは捉えられないということです。
収量や売上については、周りから一目置かれる存在の農家や、平均値を引き上げている篤農家の方の話を聞いて、その方のデータを参考にするのもいいかもしれません。
③自分の経営状況や地域の特色に合うかは別
収益性において、データ上でいい数字が出ている作物だとしても、それが自分にも合うかは当然別問題です。
データで示されている作型では栽培できないかもしれませんし、地域によってはその作物の価格が上がらないということもあり得ます。
そのため、就農予定の地域の特色などを加味する必要があります。
農家の生の意見を取り入れる
ポイントの二つ目としては先にも少し触れましたが、やはり実際にその作物を作っている地域の有力な農家の方に話を聞くことです。
● リアルな経営の数字
● 作物の情勢
● やりがいや大変なこと
農家の方は、これらを最前線で感じているはずですからね。
圃場(ほじょう)見学や研修などが可能であれば、ぜひさせてもらいましょう。自分の実体験という、数字以上の貴重な一次情報が手に入ります。
百聞は一見に如かず! 農業にもばっちり当てはまる言葉です。
「儲かる!」と言われている作物にご用心?
作物選びの時に引っかかりやすい甘い罠もあります。それが、「儲かる!」と言われている作物を、よく理解することなく栽培し始めてしまうことです。
「○○を作ればもうかるぞ!」といううわさをたまに耳にしますが、これはたまたま前年の相場が良かっただけ、ということもよくあるのです。
儲かる作物をどの農家も探しているので(特に作物転換がしやすい露地野菜は)、そのようなうわさが出ると翌年にこぞってその作物を作り出します。そうなると、以下のような状態に。
1. たまたまその作物作型の価格が上がる
2. 皆がマネして作り出す
3. 供給量が増えすぎて、価格が下がる
私も就農して数年は、流行を後追いしては何度もこの悪循環に飲まれました…….。
それに、台風などの災害や他産地の情勢、外国産の量など、先の読めない要因もたくさんあります。数年後もその作物が「儲かる!」かなんて、神様でない限り分からないのです。
まずは小さな規模で栽培を始める
最後のアドバイスとしては、候補となる作物があれば、まずは小さな規模で試験栽培してみることです。
いきなり機械をそろえて大規模に始めると、やっぱり自分に合わなかったという場合に作物転換がしにくくなりますからね。
最初は小さな規模で栽培して、自分がイケると思った時に機械をそろえて栽培面積を増やして行けばいいと思います。
もし自分に合わなければ、違う作物に切り替えればいいだけ。規模が小さければ損失も大した額ではないでしょうから、こうした回り道もいい経験になったと前向きに捉えられるはずです。
なあに、多少の回り道なんて、問題にもなりません。一発で自分の理想の作物作型に出会っている農家なんて、ほとんどいないはずですから。
私が施設ナス農家に作物転換した理由
私の実家ではもともと露地野菜栽培を行っていたのですが、私の代から施設ナス栽培に作物転換しました。最後にその理由を紹介します。
施設ナス栽培を選んだ理由は大きく分けて四つあります。
1. ナスの選果場が利用でき、出荷調整のための時間を栽培に充てられるから
2. 私の地域のJA出荷のナスは、価格が割と安定していて計画が立てやすかったから
3. 平均を超えて稼ぐ農家が近くにいて、とても影響を受けたから
4. ナスの栽培や作業が楽しくて、自分が続けられそうと感じたから
考え方や価値観、地域の特色は十人十色。就農希望者の誰一人として同じ状況や農業観ではないので、いろいろな方に意見を聞いて、自分に合いそうな考えや作物を取り入れていくといいでしょう。
最後は自分の作物の選択を、正解にしていくしかありません! あなたが就農した時に、その作物に決めた理由は何だったのか、私に教えてくださいね!