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制度資金の申請にも注意が必要!? 就農時に失敗しがちな三つのこと

制度資金の申請にも注意が必要!? 就農時に失敗しがちな三つのこと

初めまして! 露地野菜農家として親元就農して、現在は施設栽培のナス農家をしているナス男と申します。就農して約10年。いろいろと失敗しながらも農業で生計を立てていますが、今振り返ってみると「就農時にもっとこうしておけば良かった……」と思うことがいくつかあります。そこで今回は、「就農時に失敗しがちな三つのこと」というテーマで、私自身のしくじりエピソードをお伝えします。これから就農される方や、農業に興味のある方はぜひ読んでみてください!

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失敗その1 資金不足

一つ目は、就農時の資金不足です。私に限らず、新規就農者が一番失敗しやすいことではないでしょうか。

私は祖父母から経営を引き継いで就農したのですが、当初は資金が300万円ほどしかなく、今振り返ってみれば心許ない額だったと感じます。

野菜の露地栽培が中心だった当時、年間経費として約200万円ほどかかっていたため、就農初年度は失敗できても、2年続けて失敗したら資金が尽きてゲームオーバーという状況でした。
つまり、就農後すぐに離農せず生き残れたのは、運が良かったのです。

「収穫できればお金になるし、赤字にはならないでしょ」。と思われる方もいるかもしれませんが、ちゃんと栽培ができたとしても、農業には大きく分けて二つのリスクが付きまといます。

● 天候不良や台風の被害で、全滅してしまうリスク
● 野菜価格が低迷して、赤字になるリスク

こうしたリスクに備える意味でも、就農時の資金は重要です。

「1000万円必要」は本当か

いろいろな就農本には「就農時には1000万円必要」と書いてあります。
「そんなに要らないでしょ!こんなに必要なら、みんな就農できないでしょ!」と思われるかもしれませんが、これ、間違ってません!

お金こそ、経営体の体力であり、経営者の心の余裕なのです。これだけあれば、就農後の数年で多少の赤字を出しても、離農せずに済みます。新たな設備投資にも積極的になれます。

新規就農者の就農実態に関する調査結果(一般社団法人全国農業会議所 全国新規就農相談センター)を見ても、1000万円を自己資金で準備できる方は少ないですが、融資を受けて資金を用意する就農予定者は少なくありません。

もし私が就農当初に戻れるのなら、年間の必要経費(200万円)と生活費(120万円)を3年分は用立ててから農業を始めます。足りない分は融資を受けるでしょう。
資金はあればあるだけいいですが、最低でも1、2年うまくいかなくても離農せずに済むくらいの余力を持っておくのがお勧めです。

失敗その2 過剰な機械設備投資やムダな設計

二つ目は、過剰な設備投資やムダな設計です。機械設備を導入するには、少なくとも以下の三つを理解しなくてはなりません。

● 自分の農業経営に合うレベルの機械
● 人の導線
● 栽培する作物に適した設備

つまり、農業を始める前の段階で、栽培に必要な機械や設備にも意識を行き届かせる必要があります。
もし機械設備投資に失敗したら、後の数年間は後悔することになるでしょう。私のように……。

私の場合、ナス栽培をするためにビニールハウスを新しく建てましたが、過剰な設備やムダな設計が多いことに後で気づきました。

ビニールハウスの見積もりや設計を打ち合わせていた当時、業者が提案する設備や設計に疑問を持てませんでした。先輩農家がアドバイスをくれていたとはいえ、上記の三つを自分事として考えることができていなかったからです。

その結果、いろいろな失敗事例が生まれてしまいました。この失敗を成仏させるために、今回はその一部を晒します!

①一度も使わない「開かずの扉」

新しく建てたビニールハウスには、ナス栽培を始めて6年間一度も使わない「開かずの扉」が存在します。

「複数箇所に扉があった方が便利そうだし、何かと使うでしょ!」となんとなく設置しましたが、人の導線を考えれば完全にムダでした。
扉の設置もけっこうな値段がつくので、もっとよく考えるべきでした。

②谷の雨水を逃がす塩ビ管

雨水を流す塩ビ管も、失敗したことに後々気づきました。

1メートル先に排水路があるのにそこに逃がさず、なぜか自分の農地に流す設計。
なぜこんな設計にしてしまったのか。土は削られるし水はけは悪いし、後悔が多い設計ミスでした。

この二つ以外にも、もっとこうすればよかったという所はまだあります。
要らないものを除いていれば30万円ほどは安く施工できたと思いますし、機械やセンサーの配置も使いやすいように工夫できたと思います。
機械設備投資は農業経営の肝なので、自分の目指す農業と照らし合わせて考えないといけません。

● この機械はなぜ必要なのか
● 安いグレードのモノではダメなのか
● どういう理由でその場所に設置するのか

これらをよく考えた上で、過剰な機械設備によって農業経営を圧迫しないように気をつけたいですね。

失敗その3 補助金や制度資金のスケジュールの見落とし

三つ目は、意外と皆さんやってしまいがち。就農開始時に機械設備や補助金のスケジュールを見落として、農業経営に影響が出ることです。
特に補助金や国の制度資金は、すぐに申請が通ることはほとんどなく、スケジュール調整に注意が必要です。

私が見落としていたのが、ビニールハウス建設のために必要な青年等就農資金が、申し込みから審査が通るまでに約2カ月かかったことです。この資金は事前着工は認められていないのでゆとりをもって申請しなければ、スケジュールがどんどん遅れてしまいます。ビニールハウスの建設は天候の影響も大きく受けるので、なかなか思うように進まないことも計算に入れるべきでした。

結果的にスケジュールは押しに押して、ナスの定植が約3週間も遅れてしまいました。
3週間も遅れてしまうと、収穫時期が3週間少なくなるだけでなく、生育も大きく遅れます。
収穫のピークはまるっと1回なくなり、収量を予定より減らしてしまいました。

たらればの話ですが、もしこの制度資金を使わずに、スケジュールが遅れることなくナス栽培ができていたら、数十万円は売上が伸びていたと思います。

これから就農される方の中にも、制度資金や補助金を申請する方は多いと思います。
利用できるものは利用した方がいいと思いますが、とにかく余裕を持ったスケジュール管理をしないと、損をすることもあります。

事前の準備で「一撃KO」を回避

今回は、「就農時に失敗しがちな三つのこと」を紹介しました。

全てにおいて言えることですが、「とにかく早めの準備を! 早すぎて後悔することはない!」と、過去の自分に忠告しに行きたいと、原稿を書いていて思いました。
「新しく始めることには失敗はつきもの! 失敗は成功の母!」とも言われますが、一撃KOになるような、就農から数年間の致命傷は避けなければいけません。
この記事が少しでも就農時に参考になれば嬉しいです。

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