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新規就農して3年は、とにかく「失敗」を繰り返そう

hiracchi

ライター:

新規就農して3年は、とにかく「失敗」を繰り返そう

誰だって「失敗」はしたくないもの。不安でいっぱいの就農直後は、なおさらそういう気持ちが強いはずです。ただ、新しく何かを始める時は失敗がつきもの。むしろ就農のタイミングで早めに失敗する方が成功に近づけます。今回は「なぜ失敗から始めるべきなのか?」を筆者の実体験とともに解説します。

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新規就農1~2年目はとにかく失敗の連続だった

1_タマネギ

ある程度の売り上げを確保できるようになったのは3年目から。1~2年目は大失敗に終わりました

新規就農から3年は、なぜ積極的に失敗すべきなのか。その理由を詳しく説明する前に、まずは僕自身の就農当初の体験から紹介したいと思います。

僕は2010年に新規就農をしました。就農前には市民農園を借りて有機栽培などに取り組み、その後は自治体が主催する農業研修に2年間参加して野菜づくりの基礎を学びました。トータルで5年間くらいは就農に向けた準備期間を設けたと思います。

それでも新規就農1年目は、散々な結果に終わりました。最終的な収量は、同じ作物を生産している先輩農家の半分にも遠く及びませんでした。

また、1年目に大失敗して迎えた2年目も、満足いく結果を残すことはできませんでした。1年目の売り上げは約30万円、2年目の売り上げは約100万円。現在に比べて栽培面積は3分の1~半分程度だったものの、売り上げは10分の1程度です。先輩たちも何かを教えたり叱ったりする状態を通り越し、あぜんとするような状況だったと記憶しています。

僕はなぜそこまで大失敗を繰り返したのか?

2_農作業イメージ

新人のうちに思い切った挑戦をしておけば、その後の迷いがなくなり、経営を軌道に乗せやすくなります

僕はなぜこれほどまでの大失敗をしたのか? その理由は「あえて失敗をしようと決めていたから」です。僕は「どうせ失敗するのであれば、新人のうち、面積がまだ小さいうちに失敗した方がリスクが小さい」と考えました。そして、「3年間は積極的に失敗しよう」と腹をくくり、とにかくチャレンジしたいことを詰め込むようにしたのです。具体的に取り組んだことは、以下の通りです。

  • 農薬を極端に減らしてみる
  • 作業量を大幅に削ってみる
  • 作業方法をあえて変えてみる

実は、新規就農する前の段階では、有機栽培・無農薬の野菜にこだわりを持っていた時期がありました。そこで、どこまでなら無農薬でいけるかを試してみたり、先輩農家が当たり前にやっている作業をあえて削ってみたりすることで、最も効率の良い落としどころを探ることにしたのです。結果はすでにお伝えした通り、大失敗だったわけですが、ここで振り切った失敗ができたことで、3年目以降は徐々に安定した売り上げを確保できるようになりました。

積極的に失敗できるように「小さく始める」理由とは

3_天災リスク

農業には天候不良などのさまざまなリスクがあります。まずは小さく始めて徐々に規模を拡大していくのが賢明です

農業には失敗がつきものです。どんな商売でも立ち上げ時には困難が伴いますが、そこに天候不順や自然災害などのリスクが重なるため、特に農業は、ある程度の失敗を織り込んだうえで始めることがとても重要です。

僕は、現在の新規就農者の多くが利用する「農業次世代人材投資資金」の制度が始まる前に就農したため、ライターという別の仕事を持つことでリスクヘッジをしました。現在であれば助成金をうまく活用し、就農当初の失敗に備えるのがいいかもしれません。助成金の活用には事業計画書が必須であり、この計画書に失敗を織り込むことは難しいでしょうが、自己資金を十分確保したうえで新規就農を決断するなど、思い切ったチャレンジができる余裕を作っておくことが大切です。

「小さく始める」というのは、どんなビジネスを開始する時にも大事な考え方ですが、特に農業は、小さく始め、試行錯誤を繰り返した方がうまくいくというのが僕の実感です。

そう考える主な理由を、以下にいくつか挙げてみました。

①農業には体力がいるので、体が慣れるまでに時間がかかる
②いきなり大規模に始めると、体を壊しかねない

農業は体力がいる仕事です。以前から体を動かす仕事をしてきた人は「自分なら大丈夫」と考えがちですが、体の使い方などが違うため、慣れるまでに意外と時間がかかります。甘く見積もって大規模に始めると体を壊しかねません。特に新規就農を考えている中高年の人は十分注意した方がいいでしょう。

③大規模に始めて管理ができなければ、周囲の農家の信頼を失いかねない

農業は、地域の人たちとのつながりがとても大切です。新規就農の場合、地域の先輩農家に指導を仰ぐケースが多いため、最初から大風呂敷を広げ、大規模に栽培を始めて失敗すれば、先輩の顔に泥を塗ることにもなりかねません。

④春夏秋冬の1年サイクルなので、PDCAを短期で何度も回すのが難しく、失敗からの改善にある程度の時間がかかる
⑤大規模に始めると改善が追いつかず、取り返しのつかない大損害につながりやすい

栽培する作物によって違いはありますが、基本的に農業は春夏秋冬のサイクルで進んでいくもの。そのため、失敗を次に生かすまでに1年かかります。また、農作物は生き物ですから、生育を一旦止めたり、やり直したりすることもできません。最初から大規模に取り組んで失敗すれば、取り返しのつかない大損害を招く危険があります。

上記の理由から、はじめから大規模な面積で始めたり、巨額の設備投資をしたりするのは避けた方がいいと僕は思います。「いざ始めてみると実はいらなかった」といった無駄な設備への投資も避けられるはずです。

新規就農の成功事例などを見ると、どうしても「大規模にドカンとやりたい」という誘惑にかられがちですが、少しずつ規模を拡大していくことをお勧めします。特に補助金が出やすい農業は、大規模な投資ほど補助金の額が大きくなることから、安易に高額な投資を決断しがちなのでくれぐれも注意してください。イニシャルコストで多少得ができたとしても、その後のランニングコストで身動きが取れなくなる可能性もあるので、そのあたりも十分考慮すべきでしょう。

失敗を経てうまく方向転換することが大事

新人のうちこそ恥ずかしがらずに失敗を重ね、その後の改善につなげていく姿勢が大事です

新規就農初期は、以下の3つのポイントを押さえながら、とにかく失敗していろんなことを試してみるのがいいと思います。

社会人経験がある人こそ失敗を恥じるな

別の仕事でそれなりの立場で活躍してきた人は、失敗すること自体に恐怖や恥ずかしさを覚えがちです。ある程度社会人経験を積んだ30代後半以降の人こそ、失敗を恐れずに挑戦する気持ちを大切にすべきだと思います。僕自身、農業を始める前までライターとしてそれなりに活躍していたという自負があったため、「失敗すると恥ずかしい」という気持ちを振り払うためにも「最初は失敗するんだ!」という強い決意で臨むようにしました。

ド新人は失敗して先輩のすごさを知る

幸いにも農業の世界は30代でも超若手です。僕の実感としては、一般企業であれば「即戦力→失敗できない」という雰囲気が漂い始める年代ですが、農業であればまだまだ失敗が許容される雰囲気があるため、そこまで不安を抱く必要はありませんでした。また、自分はド素人だという謙虚な姿勢で積極的に失敗し、「やっぱり先輩たちはすごい!」と素直に敬う態度で先輩農家と付き合った方が、むしろいい関係性が築ける気がします。

方向転換できる柔軟さこそ成功のコツ

失敗をしたら、それを踏まえて方向転換をしましょう。「有機栽培がしたい」「特別な農法に取り組みたい」といったこだわりを持つのはいいですが、失敗しているにもかかわらず、こだわりが強すぎてうまく方向転換できない人を結構見かけます。これでは、せっかくの失敗を糧にすることはできません。試行錯誤の期間を定めたうえで、失敗という結果が出たら、その事実を真正面から受け止め、うまく方向転換を図る。これが農業経営を軌道に乗せるためのコツだと思います。僕自身、当初考えていた有機栽培路線から3年目以降は大きく方向転換しました。このことが農業経営を軌道に乗せるための大きな転機だったと思います。

失敗は、成功へのプロセスである

就農したばかりという人の中には、この瞬間にも失敗に直面して悩んでいる人もいるでしょう。そういう人も、気持ちを切り替えて「ここから学んでどう切り替えるか」と考えることをお勧めします。

僕の場合はあえて失敗することを決めて始めた農業でしたが、失敗から得るものはとても多かったと感じています。失敗とは「この方法はダメだ」と実体験を通じて学べる分、とても有益でしたし、周りの先輩に教えを乞うチャンスでもありました。

最も大きな学びは「失敗を失敗で終わらせない技術」が身についたことだったかもしれません。「失敗は、成功へのプロセスである」。そう思うことができれば、皆さんの農業も少しずつ成功に近づいていくことでしょう。

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