僕が耕作放棄地を借りた時の話
僕は2010年に非農家から新規就農を果たしました。就農のタイミングでは、現在所属する生産者グループの先輩農家の計らいで、ちょうど引退時期を迎えた農家からそのまま畑を受け継ぎ、スムーズに農業を始めることができました。
30アールほどの農地を借りることができたのですが、就農計画に沿って売り上げを伸ばしていくためには、近いうちに2倍まで面積を増やす必要がありました。ただ、いざ規模拡大に向けて農地を探そうと動いても、最初の1年ほどはなかなかいい土地が見つからずにいました。
理由は単純でした。耕作に向いた良質の畑は、すでに地域の古参農家が押さえていたからです。当たり前の話ですが、全く地縁がなく、人脈に乏しい新参者の僕には、土地を貸してくれる人がなかなか現れなかったのです。どこの馬の骨か分からない人には、先祖伝来の土地を貸したくない。当然の話です。
市役所の担当部署や地元農協の担当者にも何度か話をし、就農から1年弱のタイミングで「貸してもいいよ」という人が現れました。しかし、農協職員と先輩農家に同席してもらい、手土産持参で自宅に訪問し、具体的な賃借料の提示までして納得してもらったにもかかわらず、その後うやむやになり、結果的に借りることはできませんでした。どうやらその後、近隣で工事があり、その期間中に業者に土地を貸し出していたようです。高額の賃借料が入るため、そちらの話を優先したようでした。
僕は土地を貸してもらう立場ですから、致し方のない話です。見ず知らずの人に貸したくないという気持ちも理解できます。その後、一時的に貸してくれる人はいたものの、せっかく土づくりをしたにもかかわらず、地主の都合で2年足らずで返却を余儀なくされた畑もありました。
こうした状況が続いたことから、4年目に差し掛かる頃から、耕作に向いている土地を探すのではなく、あえて耕作放棄地を積極的に借り受けようと方向転換を図ることにしたのです。
どうやって耕作放棄地を探したのか?
僕はこの頃から、行政の耕作放棄地対策の担当者や、農協の担当者に会うたびに「耕作放棄地があれば紹介してほしい」と声を掛けるようにしました。
土地との出会いは、まさに「運」です。一般の不動産のように、ネット上に仲介サイトがあり、お目当ての土地の情報が詳細に掲載されているなんてことはありません。耕作放棄地の情報を持っている人にこまめにコンタクトを取り、「何かあればぜひ連絡してほしい」という姿勢を見せておくことが何より重要なのです。
そのうち、農協の担当者から「耕作していない土地の管理に困っている地主さんがいる」という連絡が入りました。10年ほど耕作していない土地で、背丈を超えるような高さのセイタカアワダチソウが生い茂っているだけでなく、見慣れない雑木まで伸びていましたが、「ぜひ借りたい」と即答で借りることを決めました。
次は、行政の担当者から「耕作放棄地になって困っている土地がある」という話が来ました。かつて耕作していた人が亡くなり、子が相続しているものの、農業の経験がなく放棄されている状態でした。そこで、現在の地主にコンタクトを取ってもらい、新たに2カ所の畑を借り受けることにしたのです。
こうして耕作放棄地ばかりが増えていき、一時期は耕作する土地の3分の2が、耕作放棄地を整備した畑という状況でした。今でも借り受けている農地の半分ほどは元耕作放棄地です。
耕作放棄地を借りて大変だったこと
耕作放棄地の整備は大変。重機はあったほうがいい
耕作をしていない土地は、2~3年もすると、草だけでなく雑木がどこからともなく生えてきます。一口に耕作放棄地といっても、どれだけ放置されているのかによって、状況は全く異なります。
僕の場合、前述の10年ほど耕作されずに放棄されていた農地には、かなりの巨木が生えており、これを取り除くのにとても苦労しました。幹の直径は大きいもので30センチほど、樹高は僕の身長をはるかに超え、3メートルくらいのものもありました。
枝を落としたり、幹を切ったりするのはそれほど大変ではなかったのですが、厄介だったのが根の除去です。僕はショベルで穴を掘り、少しずつ取り除いていきましたが、幹を中心にびっしりと根が張っており、どれだけ掘ってもまた新手が出現する、といった有り様でした。もし重機を使えるのであれば、パワーショベルなどで一気に取り除いた方がいいと思います。
また、一度しっかり整備した後も、草の管理が大変です。やはりずっと耕作が続けられてきた土地に比べると、雑草がたくさん生えるケースが多いです。こまめに管理をしないと、気が付けば元の耕作放棄地のようになっていた、なんてことになります。
不法投棄は厄介。問題ないか確認を
そのほかに困ったのは、不法投棄です。缶やビンといった小さなものから、家電、クルマのタイヤなどもありました。なかには農家が捨てていったと思われるビニールマルチや農薬の容器などもあり、これを見つけた時には一般のゴミ以上に気分がめいりました。
不法投棄は本当に厄介です。土の中に金属片などが散乱している場所などもあり、トラクターが故障しかけたこともあります。土地を借りる時には、最低限、不法投棄がないかどうか、多少あったとしても回収すれば問題ないレベルかどうかは、事前にきちんと確認しておくことをお勧めします。
大変なことはいろいろありますが、経験上、かなりひどい状態の耕作放棄地でも、畑としてそれなりに使えるようになることが多いです。得られるメリットや使える機械、自分の労力などを考慮して、耕作放棄地の借り受けを検討するのがおすすめです。
逆にメリットだと感じたこと
デメリットばかりに目がいきがちな耕作放棄地ですが、個人的にはメリットだと感じる部分も多く、だからこそ積極的に耕作放棄地を借りることにしました。
耕作放棄地は圧倒的に“借りやすい”
まず当たり前ですが、圧倒的に土地が借りやすいです。新参者の新規就農者でも、土地を貸してもらえるハードルはかなり低いと思います。耕作放棄地を持っている地主は、これまで農業をしてきた人ではなく、親から相続しただけで全く農業の経験がない人であることが多いため、農家間のしがらみもなく、自由に使わせてもらいやすいです。感謝してもらえたり、無料でいいから使ってほしいと言われることも少なくありません。
雑草が伸びていても“叱られにくい”
草が多少伸びていても、叱られるケースが少ないのも利点だと感じています。農家の中には「草を生やすこと=恥」と捉えている人が一定数います。ちゃんと管理がなされておらず、大切な土地をぞんざいに扱われているという感覚の人も多いです。なかには草刈りについて細かく指摘を受けることもあります。
僕は、できるだけ除草剤を使わず、ある程度の雑草は許容しながら、うまく自然と折り合いを付けるスタイルの農業を志向しているので、そのあたりが理解されず、厳しく叱責されるケースもありました。
その点、耕作放棄地であれば、多少草が生えていても、気に病むことはありません。元々たくさんの雑草が生えていた場所ですから、近所からクレームが入ることも少なく、除草剤を使わない有機栽培や自然農法を志向する人には向いていると思います。
耕作放棄地を頑張って耕すと“評価される”
また、耕作放棄地を頑張って整備し、畑として利用していると、地域の農家から感謝され、いい土地を紹介してもらえる可能性も出てきます。実際、今借りている農地の一部は、畑を耕作している時に「うちの畑もお願いできないか?」と声を掛けられ、実際にその土地を借りることになりました。農家は、耕作放棄地の管理の大変さを知っています。だからこそ、それをキレイにして耕作をしていれば「あいつは頑張っている」という評価を得やすいです。
以上、僕が耕作放棄地を積極的に借り受けてきた理由について書いてきました。確かにデメリットも多い耕作放棄地ですが、うまくプラスに転換することができれば、よりスムーズな規模拡大が可能です。また、耕作放棄地を農地に生まれ変わらせることは地域貢献にもつながります。長くその土地で営農していくために地域とのつながりを深めるという面でも、耕作放棄地の借り受けには大きなメリットがあるかもしれません。