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新たに農業を始めるなら引退農家からの「事業承継」がねらい目

hiracchi

ライター:

新たに農業を始めるなら引退農家からの「事業承継」がねらい目

新規就農を考えているなら、既存の農家から設備やノウハウを引き継ぐ「事業承継」がねらい目になりそうです。実際、離農したベテラン農家から土地や資材を借り受け、新規就農を果たした筆者が、農地を借り受けるに至った経緯や、メリット・デメリット、押さえるべきポイントなどについて解説します。

引退する農家から農地を借り受けて新規就農した僕のケース

窓口イメージ

>行政の窓口で全く相手にされなかった経験も

高齢化が進む農業の現場では、後継者問題が深刻化しています。そこで注目を集めているのが「第三者農業経営継承」です。家族以外の第三者に経営を継承する手法のことで、後継ぎがなくても地域の農業に貢献し続けられる、代々受け継いだ土地を耕作放棄地にしなくて済むなど、さまざまなメリットがあります。

僕自身、上記の「第三者農業経営継承」とは若干形態は異なりますが、引退する農家から土地や資材を借り受ける形で農業をスタートさせました。自身の経験からも、新たに農業を始めたい人にとって、経営を継承するのはとても有効な選択肢の一つだと感じています。

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僕が新規就農を考え始めたのは今から15年ほど前、20代後半の頃です。フリーライターとして独立し、順調に売り上げを伸ばすなか、「もう一つの収入の柱が欲しい」とビジネス書を読み漁っていたところ、杉山経昌(すぎやま・つねまさ)さんの著書「農で起業する!脱サラ農業のススメ」をたまたま手に取り、「農業ってビジネスとしてめちゃくちゃ面白そうだ!」と感銘を受けたのがきっかけでした。

それまでは、どちらかといえば農業に対して「大変そう」「儲からない」といったネガティブなイメージを持っており、特に興味を持つことはなかったのですが、杉山さんがこれまでの経験を生かして栽培技術を独自の理論で確立していった話を読み、「自分もビジネスとして取り組んでみたい」と思うようになったのです。

ただ、当時は名古屋市の繁華街に暮らしており、農業を始めようにも何から取り組めばいいのか全く分からない状況でした。ネットで調べてみても、新規就農者向けの情報はなかなか見つかりません。2000年代半ば頃は新規就農者の受け入れに熱心な市町村自体がまだそれほど多くなかったと思います。

僕が現在農業を営んでいる自治体の市役所にも「農業がしたい」と相談に行きました。ただ、返ってきた答えは「現在は受け入れていません」というそっけないものでした。非農家の就農希望者を受け入れる仕組みが存在せず、やりたいと申し出てもどうしようもなかったのです。

しかしその1年後、状況が変わります。自治体と地元JAが連携する形で、新規就農者向けの研修が開催されることになったのです。広報でその情報を知った僕は、すぐさま応募を決意。フリーライターとして仕事をしていたため、時間の融通が利きやすいのも功を奏しました。こうして僕は、なんとか「農業を始める糸口」をつかむことができたのです。

研修には参加できたが、すんなり就農できたわけではなく……

トカイナカイメージ

非農家からの就農はそれほど甘くはありません

「研修を終えれば、そのまま農家になれる」。そう考えていた僕でしたが、実際はそれほど甘くはありませんでした。まだ始まったばかりの研修は主催者にとっても手探りの状態で、農業高校などで教えていた人を講師に、野菜の栽培技術について教えてくれていたものの、「研修後」については全く白紙の状態だということが徐々に分かってきたのです。

これには事情がありました。そもそも農業研修を受けている人は、引退後の高齢者が大半を占めていました。しかも、多くがすでに農地を持っている「農家出身者」だったのです。僕が農業を営んでいる自治体は、都会でもなく、かといってすごい田舎でもない、いわゆる「トカイナカ」です。都市化が進んでいるものの、農地を持っている人は結構います。サラリーマン生活を終え、「親から相続した農地で、プチ農業でもしてみようか」という人が受講者の大多数を占めていたのです。要するに「研修後の道筋」は、多くの人が決まっている(自分の畑で農業をする)ため、その後を考える必要がなかったわけです。

研修期間は2年でした。1年が経過し、その後、半年が過ぎようとする頃になっても、農地はおろか、修了後に取り組む作物すらも決まっていない。かなり宙ぶらりんな状況が続いていました。そこで僕は、研修を主催している行政とJAの担当者に「なんとか農地を借りられないか」と、事あるごとに話を振るようにしました。

すると、まずJAから「農地を借りてほしいという人がいるけど、興味ある?」という話が舞い込んできました。面積は5アールほど。かなり草が生えた状態でしたが、すぐさま「借りたい」と申し出ました。本格的に農業をするには十分な広さではないけれど、まずはどうしても農地を確保したいと考えていたからです。

さらに行政の担当者から「担い手不足で困っている生産者グループがあるけど、会ってみる?」と話を持ちかけられました。すぐさまコンタクトを取ってもらい、グループの代表者と面談しました。ここでも「ぜひやらせてほしい」と即座に返答しました。

入念に下調べして申し出に即答、就農への熱意を伝える

圃場イメージ

事前に自ら下調べをしておくことも肝要です

初回の面談時に即答できたのは、事前に下調べをしていたからです。栽培する野菜は地元特産のタマネギで市場シェアも高く、限られた面積でもそれなりの収益が見込めそうで、ライターとの兼業を考えている僕にとって相性がいい。もちろん、細かい部分は実際にやってみないと分からないけれど、とにかくまずは「やりたい」と即答し、熱意を伝えることが大事だ、と考えていました。

この面談の段階では、生産者グループに入ることを許されたわけではありませんでした。その後、グループのメンバーが共同で作業する機会があり、加入前の段階で「よかったら来ませんか?」とお誘いを受けたことから、その場で張り切って作業しました。当時30歳前後と若かったというのもありますが、やる気を見せるためには、人一倍頑張っている姿を見せるのが一番です。この作業でのお手伝いが、グループの皆さんへの顔見せの機会でもあったので、とにかく早く、誰よりも早く作業することを心掛けました。

その時の印象が良かったのかどうかは分かりませんが、僕の熱意が伝わり、グループへの加入を許された僕は、高齢を理由にグループから脱退するベテラン農家から畑とハウスを借りることができました。この話を進めてくれたのは、行政とJAの担当者、そして最初に面談してくれたグループの代表者です。

最初に参加した研修では、ぶっちゃけた話、現在の作物に直接つながるような勉強はほとんどできませんでした。でも、「人脈づくり」という点では、大きな財産を得たと感じています。何者でもない部外者が、いきなり「土地を貸してほしい」といっても、間違いなく相手にされないでしょう。研修を通じて、農家さんに顔が知れた「信頼できる人」とつながれたことが、ベテラン農家さんから農地を継承できた一番のポイントだったと感じています。

先輩農家に認めてもらうには「努力」を分かりやすく見せることも大事

農作業イメージ

まずは目の前の農作業に打ち込み、頑張る姿を見せよう

周囲の先輩農家さんから、認めてもらうためにはどうすればいいか。それには「分かりやすく頑張っている姿を見せること」が大事だと思います。こう書くと「計算高い人間」のように聞こえますが、どれだけ頑張っていても、その頑張りが相手に伝わらなければ、認めてもらうのは難しいでしょう。

担い手不足で困っていることからも分かるように、僕が所属することになった生産者グループは、圧倒的に高齢化が進んでいました。僕が加入した後、新規就農者を数人勧誘したため、今では平均年齢がぐっと下がりましたが、以前は平均年齢が80歳ほどでした。

現在の農業は、ITが少しずつ浸透してきています。僕自身、スマホで栽培状況を記録し、後から見返してみたり、パソコン上でデータを集計したりしていますが、こういった作業をどれだけ頑張って省力化しても、高齢の先輩農家さんには、こうした頑張りは伝わらないものです。脳みそではなく、額に汗をかく姿を見せるのが、やはり最も効果的だと痛感します。

僕の場合、最初に畑を借りてからしばらくは、毎日朝4時半から作業をしていました。季節によっては、周囲は真っ暗です。引退したベテラン農家さんから畑とハウスを借り受け、農家として本格的に作業を始めた当初は、10アールの畑を備中鍬(びっちゅうぐわ)一本で耕していました。トラクターがなかったこともありますが、開拓団のようにフーフー汗をかきながら備中鍬で畑を耕していたら、周囲から「アイツは頑張ってるな」と言われるようになりました。よく考えると、めちゃくちゃ非効率にもかかわらず、です。

貸主のベテラン農家さんには息子さんがいますが、会社勤めをするサラリーマンで、引退後も農業をやる気はないとのことでした。なので、どちらにせよ、畑の管理を誰かに任せないといけない状況だったのです。知り合いの農家にお任せするという選択肢もあったようですが、これまで手掛けてきた作物・品種に愛着があり、それを引き継いでくれるのであれば貸してもいい、とのことでした。

ある日、その農家の奥さんから言われた言葉は、今でも忘れません。「私たちの畑で作っているんだから、誰にも負けないぐらいたくさんの量を収穫してほしい」。就農2年目、失敗続きでなかなか売り上げのめどが立たず、本当に大変だった頃のこと。力強いエールを送られて「見ず知らずの僕に畑を貸してくれたんだから、ちゃんと栽培できるようになった姿を見せなければ!」と奮起したのをよく覚えています。

引退したベテラン農家からのサポートも

ハウス圃場イメージ

支援が充実した自治体などもあり、事業承継がスムーズに進めやすくなっています

引退するベテラン農家さんから農地を借り受けたり、資材を譲り受けたりできれば、就農初期の苦労が軽減するのは間違いありません。僕の場合、生産する作物もそのまま継承し、売り先が確保されていたのが、非常に大きかった。売り先の開拓までしないといけないとなったら、一人前の栽培技術を習得するまでにもっと長い時間を要していたと思います。

ただ、もちろん注意点もあります。事業を承継する農家さんは、引退することが決まっています。その後お付き合いすることになるのは、引退する人以外の農家さんが中心となります。周辺の農家さんとのつながりを作らず、すべてが引退する農家さん頼みになってしまうのは、孤立を招く危険性もあるので避けた方がいいでしょう。

僕の場合、貸主である引退後の農家さんから技術面の指導を受けられたのも良かった点でした。引退したといっても、それは農業をやめただけの話であって、畑で顔を合わせる機会は頻繁にあります。後輩がどんな風に作業をしているのか気になるのでしょう。ちょくちょく顔を出して「この作業はこういう風にすればいいよ」といったアドバイスをくれたり、時には僕があまりに不甲斐ないと感じたからか、作業を手伝ってくれたりすることもありました。その土地の特性を一番熟知しているのは、やはり実際に長年耕作を続けてきた人です。圃場(ほじょう)ごとの水はけの良しあしや風の当たり方など、学ぶことがたくさんありました。

僕が新規就農した時は、手探りのなかで農地や資材を借り受けたわけですが、現在では事業承継に関する支援を手厚く行っている自治体や農協も増えています。新たな分野を自ら開拓する「0→1」の就農も魅力的ですが、「無理せず身の丈にあった形で始めたい」という人であれば、引退農家からの事業承継も一考の価値は十分にあると思います。

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