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事業承継でコンサル自ら農家に! 夕張“じゃないほう”メロンで事業再建、「みんながもうかる」まちへ

深江 園子

ライター:

事業承継でコンサル自ら農家に! 夕張“じゃないほう”メロンで事業再建、「みんながもうかる」まちへ

特別栽培メロンの直販を柱に50年以上続く、北海道夕張市の小野農園。現社長の元澤洋(もとざわ・ひろし)さんは、元経営コンサルタント。「いろいろなメロンがあれば夕張はもっと元気に面白くなる」と考え、実践中だと言います。なぜ農家になり、なぜ夕張メロンでない品種をつくるのか、質問をいくつも持って農園を訪問しました。

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コンサルタント自ら農園主へ転身

新千歳空港から車で約45分の夕張市・紅葉山地区。国道274号沿いに、敷地約10ヘクタールの小野農園があります。
小野農園は、代表と社員2人で営む農業法人。ソバ4.8ヘクタール、メロン1ヘクタール(6アールハウス×17棟)、ホワイト系トウモロコシ12アール、カボチャとスイカ各6アールを栽培し、直売所、法人ギフト、百貨店催事、自社ECサイトなどで年商2500万円を上げています。
現在代表を務める元澤さんは1972年夕張生まれ。雑貨や建築資材のメーカーや商社など数社に勤めた後、経営コンサルタントとして札幌で独立しました。そもそも元澤さんが農産物に興味を持ったきっかけは、いわゆる食の偽装事件だそう。
「報道を見て、食の安全は北海道の有望分野になるなと。それで、いつかは食づくりの仕事がしたいと思っていました」
食品関係の販促などの経験も豊富な元澤さんのクライアントは食品メーカーや農家が多く、小野農園もそのひとつでした。実は元澤さんと小野農園の縁は、赤字解消のため経営コンサルタントとして関わったのが始まり。元澤さんは6次化事業やエコファーマー認定を勧めるなど、2015年から農園の赤字解消に取り組んできた外部スタッフだったのです。事業承継の決め手になったのは、小野農園の改善課題が明確に見えていた事でした。また、同じ2015年に夕張メロンが地域ブランド保護を目的とするGI(地理的表示)に登録されて注目される一方で、栽培農家の高齢化の状況を知って衝撃を受けたと言います。

「まちを離れていた非農家の僕でさえ、夕張といえばメロンだねと言われるのは誇らしかった。だからメロンの話題で夕張がもっと元気になってほしいんです」

メロンの花

7月に販売予定のメロンの開花時期は5月。つるの誘引や剪定(せんてい)に毎日気が抜けない

“地元初“づくしの農園を承継

もともと小野農園は、夕張の中でもユニークな取り組みで知られていました。
炭鉱が始まる前、明治時代に新潟から入植した先祖から農地を継いだ小野一一(かずいち)さんが、コメ、ナガイモなどと共にメロンを作り始めたのは50年以上前の事。小野さんは進取の気性でいろいろな試みをしてきましたが、最もユニークなのは独自の微生物農法で「ルピアレッド」、つまり夕張メロンではない品種の赤肉メロンを育て始めた事です。この品種の取り扱いが夕張農協になかった事から、当時珍しかった直売所を開設。農協に頼らず自ら販路を拡大する農業経営を始めました。

直売所

今も国道274号沿いの農場には広い駐車場があり、夏には道東自動車道から最寄りの直売所として観光バスでにぎわいます(画像提供:小野農園)

韓国視察来訪

海外からの視察も(画像提供:小野農園)

小野農園は2007年に法人化し、2010年には札幌の建設会社へ経営を移譲。これは夕張市の農園で初の第三者承継でした。その後、代表者の定年に伴い、コンサルティングで関わっていた元澤さんに白羽の矢が立ったのです。元澤さんは2017年から同農園で研修。元の持ち主である小野さんの指導も受け、2019年に経営移譲されました。

農園入口には元園主の小野さんがキャッチコピーを考えた看板が。「『夕張わ(は)メロンの里ダド(だぞ)ー!』って言い切る感じがすごいでしょ?」と現園主の元澤さん

メロン農家修業と経営ビジョン

先代の教えをマニュアル化するために

この農園の基礎を作った小野さんは、土づくりから栽培まで独自の経験則を積み重ねてきました。元澤さんも引き続き、減農薬無化学肥料で牛ふんと米ぬかを使う農法を実践しています。
「でも、それを受け継ぐのは難しい。ベテランの感覚が、僕のような素人にはなかなか理解できなかったんです」(元澤さん)
そこで元澤さんは先輩農家や農学部出身の関係者に教わりながら、小野さんの教えを自分なりに解釈し整理してみました。これが現在、作業のマニュアル化に役立っています。先代までは農薬を薄めて使っていましたが、資材屋さんから規定濃度を守らないと効果がないと指摘されて気づくなど、最初の1〜2年は基礎知識不足ゆえの苦心も。一方、実地で効果を感じていた微生物栽培の講習を受けた時は、小野さんの勘と経験は間違いなかったと自信がつきました。3年前から土壌分析を受け始め、現在は施肥設計とメロンの糖度などのデータ集積を行っています。
「僕がいなくても仕事が回るようになるのが目標。そうなればきっと農園は残っていけるはずです」

収穫したメロン

小野農園の直売メロン。「夕張はメロンの里。この夏はメロンの食べ比べを企画したい」と元澤さん

夕張“じゃないほう”メロンも大事な理由

元澤さんは「僕のような初心者がメロンを作れるのも、ルピアレッドという比較的作りやすい品種のお陰」と言います。他にも、皮が硬く日持ちがするので本州での外販ができたり、完熟収穫ならではの「皮のふちまで甘い」というキャッチコピーで売り出したりと、ルピアレッドの特徴を生かしています。栽培しやすい品種選びも農場経営の将来性に関わると元澤さんは考えます。
「赤も緑もあり時期も違う、いろいろなメロンがあった方が、夕張が今より盛り上がるんじゃないかと思うんですよ」

出口から逆算した生産計画

元澤さんは前職で食品業や農業に携わった経験から、農業は他の業界と決定的に違うと言います。「出口ありきの生産という考え方が、通用しないんです」
実は小野農園でも元澤さんがまだコンサルタントだった2015年、直売用メロンが大量に売れ残ったことがありました。見かねて6次化事業を提案し、その甲斐あって翌2016年は余ったメロンをOEMでジャムにして販売し、損失を食い止めました。しかし、もしも余った原価600円のメロンを300円で売ったら、やっていけなくなる。その思いが計画生産を行う原動力になりました。元澤さんの代になってからは、予約販売や外販イベントに合わせて作付け時期と苗数を明確に決め、需要と供給のミスマッチは大幅に改善できました。さらに、予約客には発送時期を選んでもらうのをやめ、こちらからメールで知らせる方法に変更。これが転機になって生産ピークを7月から8月に変更し、3月に行っていた加温育苗をやめ、ハウスを暖める暖房費が節減できました。

生産計画を指して

事務所に張り出した、販売予定から逆算した作業表。7月は夏のギフト、8月以降は本州向け。今年は9月出荷にも挑戦中

「全体の10%に当たるお中元のピークをきちんと守れば、後はうちのペースでおいしいメロンを作るのをお客さんが待っていてくださる。これが本当にありがたい」と元澤さん。その期待に応えるために、個体ごとの食べごろを果実の硬さをもとに予測するサービス「coro-eye(ころあい)」を導入しました。さらに2021年はメロンをリターンにしたクラウドファンディングで非破壊糖度計の導入を目指し、見事達成。9月の催事シーズンに合わせた栽培もテスト中で、これが軌道に乗れば新たな販路を開拓しようと張り切っています。

メロンの仲間が増えてきた

帰り際、元澤さんの案内でお隣のAQUA(アクア)農園にもお邪魔しました。代表の塩浦朋幸(しおうら・ともゆき)さんは6年前に夕張メロンから他品種にシフトした他、白いイチゴや甘露(マクワウリ)なども栽培し、「よそでやっていない作物がこだわり」と言います。チャレンジ精神のある元澤さんとは話が合い、今後は一緒に多品種メロンの食べ比べなどを企画して、メロン産地・夕張をPRしようと相談中です。

元澤さん塩浦さん

塩浦朋幸さん(右)のメロン品種はティアラ、ルピアレッド、青肉メロンのパンナ。元澤さんとは直売農家という共通項があり、メロン栽培の先輩だ

元澤さんはじめ、今回夕張で会った人々の心の中では今、「2027年(2026年度末)」へのカウントダウンが始まっているようです。それは2007年に財政破綻した夕張市の負債が解消する予定の年、そして財政健常化は自立の始まり。それまでに稼ぐ力を鍛え、そしてまちに元気を還元していこうという、自分たちへのカウントダウンです。
「無風が一番良くない。風が吹けば桶屋(おけや)がもうかると言うけど、風が吹けばみんながちょっとずつもうかると思うから、できることを続けていきますよ」元澤さんはそう語ってくれました。

小野農園
https://onofarm.jp/

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