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農協からの独立で選び取った、AQUA農園の「自分たちらしい農業」

深江 園子

ライター:

農協からの独立で選び取った、AQUA農園の「自分たちらしい農業」

メロン産地の夕張で、農協から独立して7年目のAQUA(アクア)農園。大きな決断の陰には、夢をかなえたいと願う強い思いがありました。しかし、農協からの独立の際には事前には気づかなかったさまざまな壁が。それを乗り越えた今、農園は新たな挑戦をしています。その苦労ややりがい、さらに独立後の販路開拓について「自分の実体験が誰かの参考になれば」と、農園主の塩浦朋幸(しおうら・ともゆき)さんが話してくれました。

メロン農家の長男が、組合から独立

夕張市紅葉山地区にあるメロン農家「AQUA農園」では、ハウス40棟のうち37〜8棟にメロン、2棟にイチゴ、その他白いトウモロコシを作付けしています。代表の塩浦朋幸さんは、16歳から実家の農園で夕張メロン栽培を手伝い始めたといい、42歳にしてこの道26年。35歳で夕張市農業協同組合から離れて独立系農家になりました。父の正朋(まさとも)さんはメロン生産組合の初期メンバーで長沼町農業共済組合(現在は南空知農業共済組合に合併)の役員でした。正朋さんの代は、夕張メロン全盛期。一箱3万円の売り上げがあったそうです。国のGI(地理的表示)に登録された「夕張メロン」は、夕張市農協メロン生産組合による固有のブランド。組合独自の種子や苗をガイドラインにのっとって栽培し、組合共選規格の果実だけが「夕張メロン」を名乗れるのです。つまり組合脱退には、確立したブランドを失うという一面もあります。それでも朋幸さんが独立を希望した一番の理由は、仕事も生活も自分らしさにこだわったためでした。
「夕張メロンには栽培から販売まで他の作物とは違うさまざまなルールがあり、独自の品質を守っています。一方でそれは、誰もが同じ方法で同じ時間に同じだけ働くのが当たり前、という意識になり、個人の価値観や生活全般にも影響します」と朋幸さん。「僕の場合は10代は夕張メロン一筋で働いたけれども、20代後半には親世代との考え方の違いが出てきた。だからいずれ自分なりの仕事のしかたに切り替えようと思いました」
思いを父に伝えたのは、2013年頃です。「今後は自分のメロンを作って自分で販売したい。近い将来組合をやめたい」。正朋さんは、世代交代を前提にこれを了承しました。そこで朋幸さんは地元信金に相談し、運転資金の取引を始めます。「農協からの独立後に融資を受けるのは大変。少しでも取引実績をつくるためです」(朋幸さん)。最大のハードルは通称クミカン。北海道特有の組合員勘定の仕組みで、農協が1年間立て替えてくれた分を年末にまとめて清算します。これは親類から借り入れもして何とか完済することができました。こうして2015年春に組合から脱退した朋幸さんは、父の塩浦農園を承継して屋号変更し、AQUA農園としてようやくスタートを切りました。

ハウス全景

ハウス40棟の農園。2021年夏は干ばつ傾向だったが夏のメロンはほぼ予定量を収穫

組合から独立してわかったこと

自分の意思で組合を出た朋幸さんですが、今も地元の知人の多くが組合に属する生産者やその家族という環境です。飲食店で席が隣り合ったり、バーベキューを一緒にやったりもします。そんな時、組合員から「(組合をやめて)自由だね」と言われる事があります。その時は多くを語りませんが、「違うんだよな……」というのが朋幸さんの本音です。具体的にどんなことが変わったのでしょうか。
「例えば、銀行融資が受けられるかどうかなんて、組合員時代は考えたことがなかった」と朋幸さんは言います。
組合からの独立初年度、朋幸さんはハウス増設などの設備投資をしました。本来なら組合へ出資していたお金を資金の一部としたいところですが、払い戻しまで5カ月ほどのタイムラグがあり、代わりに銀行からの借り入れが必要でした。そのため、開業資金1000万円は住宅設備を担保に融資を受けました。また、組合で加入していた雇用保険を商工会で加入し直すなど、手続きの類いもその時になってわかることが多かったようです。
あえて大変な選択をしたのは、損得でなく価値観の問題からでした。
「何というか……心の自由のためですね。僕はやりたいことがあったからこの選択をした。すると今までと違う出会いがあったり、知らなかった情報が入ってきて視野が広がる。そこから自分の責任で選択をするということです。逆に、新規就農したい方は、組合で経験と資金を支えてもらうのはいい方法だと思います」(朋幸さん)

メロンは素手で

メロンの作業を素手で行う朋幸さんの手は夏じゅう荒れている。「父に唯一教わったのは、熟度や肉質は触ればわかるということ。友人の糖度計と糖度当ての競争をしたら引き分けでした(笑)」

「夕張メロン」というブランドからも独立。新たな品種への挑戦

独立してからの朋幸さんのメロン作りは、未経験の品種へのチャレンジです。現在の主力品種は赤肉のルピアレッドとティアラ、青肉のパンナの3種。夕張メロンというブランドの品種はキングメロンで、栽培管理も果実自体も全く違う特徴を持っています。「味は糖度があってもあっさりしていて、熟しても皮が柔らかくなりづらいから発送もしやすい。メロンの消費量は、僕と同世代の30代40代が上の世代より少ないそうです。その人たちが気に入ってくれそうな軽い味わいのメロンを、よりおいしく作ろうと考えました」と朋幸さん。
今行っているメロン栽培には、夕張メロンの経験がフルに生きています。例えば果実肥大期の温度管理は、日に6〜7回もハウス側面を手動で開閉し、適温帯の高めギリギリを保つのが品質の良さにつながるのだそうです。ハウス内のクセとも言える地下水の流れや風の当たり具合なども把握し、注意深い観察をもとにかん水の量や方法まで変えています。こうしたきめ細かな管理法は、長年向き合ってきた夕張メロンから学んだ技術のひとつです。

タグ付きメロン

生産者の氏名入りのブランドタグは自己責任の証。取材時の品種は赤肉のティアラ。つるが完全に枯れた時が食べ頃だ

自分で作って自分で売れる、直販の楽しさ

独立後、まず始めたのは組合員時代に事実上NGだった直売所。奥さんの麻美(まみ)さんが接客担当で、商品は時期によって品種が変わるメロンと、食べやすくカットした凍りメロン、メロンスムージー。
「自分たちのメロンだから、味も食べ頃もはっきりと説明できる。リピートしてくれるお客さんやギフトの注文は信用だと思うから、本当にうれしい。手応えありますね」と朋幸さんの顔がほころびます。
6月末〜11月の直売所をメインに、イベント会場や百貨店催事での販売、さらに苫小牧の青果市場といった販売先がありますが、その発端はすべて人のつながりからでした。始まりは、独立当時作っていたハート型のミニトマトの立ち売りでした。地元の有力土産物店がイベント出店する際、その一角を無償で使わせてくれ、そこで初めてお客さんと直接やりとりする楽しさを知りました。また、メロンの外販先1件目は、後輩が勤める美唄(びばい)市の公共温泉施設です。「メロンスムージーを売ってみませんか」という後輩の誘いに応じて冷蔵ケースを持ち込み、メロンの他に冷やしたカットメロンとスムージーを販売したところ、湯上がりの利用客に大好評で毎年声がかかるようになりました。ドレスアップカー(改造車)イベント会場での出店は、「作ったもので自己表現する場なら、車もメロンもあっていいよね」という共通の趣味の友人の言葉からスタート。以後、自慢の車とメロンを持ち込んで会場を盛り上げています。札幌の百貨店に「夕張フェア」を提案して朋幸さんをバイヤーに紹介したのは、販売上手な農家仲間(小野農園)。非組合員の農家だからこそ、一人でやろうとせず、相談できる人、助け合える人が大切。朋幸さんはわからないことを相談できる人たちの存在に感謝しています。

メロンのハウス内で談話

2021年夏は干ばつ傾向。土耕ハウスで育つ株の状態を観察して水やりの方法を変え、日中は1時間も置かずハウスを開閉してきめ細かく管理する

将来を見据え、誰もができる農業へ

この取材をした2021年が7期目となるAQUA農園。インタビューに同席していた妻の麻美さんから、後日メッセージが届きました。それは、「障害を持った人にも、農業はできます。それを伝えられないか」という内容でした。実は麻美さんは若年性関節リウマチ患者で、身体障害1級です。外見からは気付かれない事も多いのですが、関節の痛みがつきまとい重い物を持つのは難しいため、症状に合わせながら直売所や企画の仕事をしています。「自分なりに働いて計画を実現する楽しみが、農業にはあります。健康に悩む方にも、それを知ってもらえたらうれしい」(麻美さん)
2020年、2人は話し合い、メロンのない季節に販売するイチゴの栽培を始めました。「Mamiの天使の白いちご」です。四季なり品種ですが味も香りも形も良く、このイチゴをきっかけにAQUA農園を知ったという人も出始めました。朋幸さんは言います。
「これは障害のある人のためだけじゃない。いずれ歳をとって夫婦2人になってもできる形を今から模索してるんです。僕ら世代が農業続けなくちゃね」
朋幸さんが既存の枠に捉われない農業経営を目指す理由は「自分らしさ、心の自由」。その言葉の中には、麻美さんと夫婦2人分の思いが込められているようです。

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